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現代のすべての大人に『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』

本書は「ライターの教科書」をコンセプトに書かれているが、文章を執筆することで生活の糧を得ている人、またはそれを目指す人だけが読むのではもったいない。教科書といいつつ、ベストセラーを生みだす著者が、自らを取材してまとめ上げた良質な読みものに仕上がっている。手に取った瞬間にわかる"量"、読みはじめて5分で唸ってしまうほどの"質"ともに、圧倒される一冊である。

おもしろく、わかりやすい文章は、書き手のセンスによって生み出されると思っていた人は、ライターの仕事を著者自らが客観視し、文中に使った語句の選択理由まで語ってみせる本書によって、その認識をあらためざるを得ないだろう。もちろん、ぼくもその一人だ。

「ガイダンス」(本書の序章にあたる)のページを開くと、すぐに「ライターとはなにか」と問いかけられる。ブログすらほぼ続かない、純粋な読み手のぼくとしては考えたこともなかったが、多くの職業ライターも自身の職業の定義はあいまいなのではないか。ライターとはつまり『文章を書く人』をあらわす英語的表現で、それ以上考えたことがない。しかし著者からの答えはこうだ。ライターとは「取材者」であり、執筆した原稿は取材者への「返事」である。取材した内容の理解や感じ方、感動したエピソードについて、その相手に感謝と敬意をもって書く返事、それがライターの原稿であるという。ぼくら読み手は、その返事を読ませてもらっているのだ。

著者はガイダンスに続く「取材」「執筆」「推敲」の各テーマでも、最後まで一つ一つ丁寧に、ライターの行う作業をより分け、分解し、定義し、プロとしてのあるべき姿勢を示し続ける。読み終えても、それらの作業に1つの妥協も感じられなかった。その集中力に圧倒される。

それだけの技量があれば、当然書きたいテーマが次々と浮かぶのかと思いきや、本人には何もないという。著者は自身を「空っぽ」と表現し、だからこそ取材対象から得た情報をため込み、咀嚼し、冷静に読者に伝えることができるのだと語る。対象への好奇心と、それを伝えたいという思いが非常に強いそうだ。

著者は大ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎さんとの共著)の他、多くの著作(しかもベストセラー多数)がある古賀史健(こがふみたけ)さんなので、専門的な内容にも関わらず、わかりやすく、するすると読み進められる文体で書かれている。どこまでも誠実に、根気よく展開される論から、その人柄が透けてみえる。

そんな本書を、タイトルどおり(プロとして)「書く人」だけのものとするのはもったいない。プレゼンテーションで顧客の興味を喚起したいビジネスマン、日常のエピソードで身近な人から他人までを楽しませようとするSNSユーザーまで、文章でのコミュニケーションを日常とする多くの人とって間違いなく役に立つ。手元に置いておきたい一冊になるだろう。

本書の言葉を借りると、この本に書かれている内容はライターである古賀史健さんによる、ライターとしての古賀さん自身への取材に対する返事だ。そして、今読んでもらっているこの記事(note)は、それに倣ってこの本を読ませてもらった(間接的に取材させてもらった)ぼくからの感謝と敬意を込めた古賀さんへの返事のつもりで書いた。

取材・執筆・推敲 書く人の教科書

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