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村弘氏穂の『日経下段』2017.4.1~

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土曜版日本經濟新聞の歌壇の下の段の寸評
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2018年4月の記事一覧

村弘氏穂の日経下段 #54(2018.4.21)

村弘氏穂の日経下段 #54(2018.4.21)

寄せる波風に吹かれる黄水仙君の鼓動の香りを放つ
(横須賀 新倉由美子)

 水仙っていう花の名前は水辺に佇む仙人のようだから付けられたらしいんだけど、ここではそれがさらに『君』に喩えられている。故に『君』がそれほど尊い存在であることが伝わってくるのだろう。黄水仙は匂い水仙なんて呼ばれたりもするくらいだから水仙よりもずっと強い芳香がある。植物でありながら動物的な匂いを強く放つ品種だ。そして『鼓動』と

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村弘氏穂の日経下段 #53(2018.4.15)

村弘氏穂の日経下段 #53(2018.4.15)

送られた写真に映り込む影の耳が長くてうさぎだと思う
(札幌 石河いおり)

 写りこんでいた影がいったい何であるのかも気になるが、メインの被写体が何であるかも作中では一切触れられていない。そうやって読者のイマジネーションをくすぐる技法だ。さらに誰なのか判らないが、誰かから送られてきたということは作者が写っているのかもしれない。もちろん野山で撮った草花の向こうに本物の野兎の影が映りこんでいたという可

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村弘氏穂の日経下段 #52(2018.4.8)

村弘氏穂の日経下段 #52(2018.4.8)

美容師の花粉症への怨念が鋏に移る春の散髪
(国分寺 西口ひろ子)

 花粉症に悩まされる美容師さんも気の毒だが、マスクの中に鬱積したその行き場のないルサンチマンが、あろうことか鋏へと流れ込むなんてお客さんもとんだ災難だ。スウィートの3月号に載っているうっとりカワイイ春の新作のニットの情報を読んでいると見せかけて、実際には上目づかいで鏡の中で暴れ狂う鋏の乱反射を追いかけていることだろう。頼んでもいな

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村弘氏穂の日経下段 #51(2018.3.31)

村弘氏穂の日経下段 #51(2018.3.31)

さば缶を開けてふたりで食べている昼に昔が押し寄せてくる
(つくば 岩瀬悦子) 
 
 さば缶であれ何であれ、開けなければ絶対に食べる事ができないのが缶詰なのだが、わざわざ二句目で『開けて』ふたりで食べている、と詠んでいるせいだろうか。流通している現代のさば缶のほとんどは容易に開けられる構造なのだが、缶切りを用いて開けたような趣がこの作品からは感じられる。ゆっくりと開けて、ゆっくりと食している情景だ

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