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西中島東鳥
2017年10月28日 20:36
ついに私は私のままでこの町にいるしかなくてジャムサンド食む(仙台 山上秋恵) 冒頭で「ついに」と唐突に云われても、それまでの〈私〉の生い立ちを知らないから、この町にとどまるという結論に至った経緯がわからない。だが、この秀歌からは、何らかの葛藤を察することはじゅうぶんに可能だ。そのキーワードは、これもまた結句で唐突に現れた「ジャムサンド」だ。おそらくは杜の都に溢れ立つ、カフェ・ベローチェの苺ジ
2017年10月21日 20:31
ぶらんこを乗り継ぎながらたどりつくどこにもゐないあなたのもとへ(見附 有村桔梗) ブランコをモチーフにした詩歌は幾多とあるが、乗り継いでしまう歌を目にしたのは初めてだ。なによりその独特な発想が魅力的で、切なくも美しい世界がひっそりと描かれている。決して前には進まないはずの乗り物で辿り着いた先には、どこにも存在しないはずの「あなた」が居る。前にも後ろにも置かれた意外性に溢れるフレーズが、矛盾め
2017年10月14日 21:30
この電車 カーブを曲がるおそらくは何故って顔で首をかしげて(枚方 久保哲也) 電車を擬人化したことで読者の路線図は無数に広がった。もちろん「この電車」の行き着く先、終点も様々である。曲がったことが大嫌いな8000系は、川向こうのまっすぐに走る新幹線にいつの日も嫉妬心を抱いていた。ある朝、いつもの場所で速度を落とした折に、意を決して訊ねたのだろう。「速く走るために生まれたぼくが、なぜ減速し
2017年10月7日 21:34
この人じゃないと分かってから揚げる串が次々焦げてゆくこと(横浜 橘高なつめ) 一読して、先日ふらりと立ち寄った馬車道の小料理屋の美しすぎる若女将を思い浮かべた。「分別のつかない人が打ち上げるミサイルが失敗すればいい」などと云って、微笑みながらアスパラに豚肉を巻いていたあの可愛らしい女将さんだ。蒼白色の薄幸ダイオードのような寂しい影を放ちながら、壺の中のココナッツ風味の秘伝のたれを細腕で