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無垢にスパイスを


毎週木曜日の夕方16:00過ぎ
私は決まって行くところがあるの

忌まわしい通勤コースを抜けて
少し路地裏に入って右に曲がると
甘い香りが漂う可愛いお店
彼が待ってるマラサダのお店

店内に入ると迎えてくれるコーヒーの香ばしい香りとマラサダの甘い誘惑が私を包み込む

そして極めつけに

「いらっしゃいませ」
と笑う極上の彼のスパイススマイル

これだけで私の1週間満たされて
あと1日頑張ろうって思うの

マラサダの味は決まってバニラ
混じり気のない無垢の白は私の象徴なの

そしてそれを渡す時彼はいつも私の目を見て

「今日もお疲れ様です」
って言ってくれる

相思相愛両想いってやつ?
ようやく私にも春が来たのねと
今日も彼が見える席についてマラサダを一口
そしてソイラテを嗜む

ここに来たのは何日前のことだったかしら
そうね 確か21日前の木曜だったわ
要は3週間前
フラッと立ち寄ったこの店の天使に
私は一瞬で恋に落ちた

その日のラッキーアイテムは
バニラだったからもう最高よね

それ以来バニラは私にとって毎週木曜日のラッキーアイテム
マラサダの甘みを邪魔しない適宜な甘み
たまらなく美味しいの

ただその日は少しだけ違ったわ

次に入ってきた女性客は
シナモンのマラサダを頼んでいて
テイクアウトの去り際彼に手を振った

褐色のいい肌にショートパンツの似合う女性

私の無地のワンピースとは違う
元気な明るい色の女性

人目でわかったわ
ただならぬ関係だって

そう 彼は私のような無垢な女ではなく
彼女のような刺激的なスパイスが好みだったのね

嫌だわ私 泣いてるの?

失恋ってこんなに苦しいものなのね
混じり気のない純粋な女にはキツいわこの刺激

それでも私は来週も通うの
ほんのり甘くて香ばしい香りの天使が待つ店に

そして頼むのバニラシュガーのマラサダを

そしてかけるの机にあるシナモンを

無垢に刺激を混ぜたら丁度良くなると思わない?

私はいつか彼がまだ知らない世界へ
手を引いて連れて行ってあげようと思うの

その時までにシナモンのようなスパイスを
沢山覚えておくからね

バニラは何にでも合う甘味料なの
でも私は実はそこに混ざっていたバニラビーンズという垢を
シナモンというスパイスで目立たなくしているだけなの

ただそれだけなのよ

山積みのシナモン越しに見える彼は
今日も笑っているわ

あぁ なんて美しい

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