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消せない火、消えない火



今、家を燃やすあの火を消すことは容易く出来ることではないのに
何故なのだろう
夢を追い求め追い求め追い求め追い求め漸く自分の胸に点いた火が、こうも容易く消えてしまったのは

僕は家を燃やしました
もう誰もいないあの家を
僕は家を燃やしました
もう何も残ってないあの家を

幼い頃口にした格好いい消防士という夢は
はるか遠い過去に置いてきたようで
目の前で燃え盛るあの火を見ても、ちっとも消さなきゃという気分になれないのです

僕は家を燃やしました
夢の欠片を全て無かったことにするために
僕は家を燃やしました
自分の歴史の断片を誰にも拾われないために

僕は夢を見ました
消防士になりたいという夢から、歌手になりたいという夢に変わったあの日の夢を
思えばあの日も火が点いていました
火の中で歌っているあの歌手Aのようになりたくて僕の夢は変わったんでした

僕は夢を見ていたんです
遠く未来に輝く自分の夢を
僕は夢を見たから、火を点けたんです
描いていた遠い未来の先で、膝を地に着いて
小声で泣いている僕が情けなくて

心の火は消えました
帰る場所を失って導火線を失って
僕は夢を見ることもやめようと思いました

目の前の消化器は僕を無視します
火がないものには興味がないようです

僕は消化器を蹴り飛ばして
燃え盛る家の中に走っていきました

家の中にあった鏡の前
僕は自分の姿を見て嬉しくなりました

「見てご覧よ、過去の僕。今が今までで1番、最高な火が点いているよ」

僕は夢を見るために
もう一度夢を見るために
次の僕のハートに火が点いたなら、もうそれが二度と消えることのないように

僕は僕を燃やして、熱い熱い火になりました

願わくばどうかこのまま
遠い来世の僕の心の火になれますように

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