私は小説が書きたい
――まぁさ、こういうの書ける人って俗に言う「天才」だよね。――
人の前で、格好つけて言ったその言葉で片付けた、
大事にしてきた自分の夢を、
あの時、追わなかったことに酷く後悔していて。
目の前にあるショートショート作品集を手に取り私は表紙の埃を払った。
――書いていればきっといつか書けるようになる。――
そう思って書き続けた日々が私にもあった。
その日その日目にしたものをメモして、それを題材に本を書いて、
いつかはきっと誰かが目にかけてくれるってそう思ってたんだ。
それももう10年前の話。私は大人になって、現実を知った。
売れないやつは売れない。
天才は努力すれば越えられるなんて、そんな夢物語まぁ…無い。
天才は天才だから天才で
凡才は凡才だから凡才である。
私は栞が差してあったページを開いた。
それはあの頃、私が衝撃を受けた物語。
「ショートショートってこういうことだよねって、思ったんだっけ…」
思わず声に出したあと、私は座ってその話を読んだ。
あの頃より少し黄ばんだページ、だけどそこに書かれているのは褪せることを知らない面白い話。
その頃は真っ直ぐに、ただがむしゃらに。
『出来なかったら諦めよう』は年々伸びて結局、
諦めることが出来なかった。
そんな私は今、自分の書いた小説たちをビニール紐で縛って片付けている。
――現実を、見たのです。――
誰に言い訳しているか分からない自問自答を頭の中で繰り返し、仕方がなかったことだと言い聞かせて、片付けている。
――バカにしないでよ。――
心の中から、あの頃の私の叫び声が聞こえる。
――本気だったんだよ。――
誰にでも、そう言ったからね。
――無理なんて、言わないでよ。――
よく泣いたね。
でも私、もう疲れちゃったんだよ。
心に住み着くあの頃の自分を宥めるように、大きく息を吸って、大きく吐く反動でビニール紐をきつく締める。
「諦めなくて、良かったよ」
――だって、現実を知れた。――
右目から垂れそうになる涙。
私は上を向いて、瞬きで目の中に隠した。
もう一度深呼吸をした後一旦布団に寝転がり、ショートショート集を読む。
――やっぱり、面白いなぁ。――
あの頃の私のセンス、間違ってない。
夢中になって読んでいたら、いつの間にか日が暮れていた。
窓から見える、暗くなる外。
少し、眠ろうか
そう思い1時間だけアラームをかけて、私は目を閉じる。
目を覚ました時にあの頃の私に戻っていたら。
戻っていたらきっと私は…
もう、小説を書かない。
――――
――
―
目を覚ますとそこに広がる天井。
やっぱり、そんなこと起こらないか。
時が戻るなんて、有り得ないよね。
そう思ってふと、窓を見た私はそこに映る姿に驚いた。
「あ!!?あれ!???私、戻ってる!!?」
そこにいたのは紛れもなく小説を書き始めた頃の私。
周りからビニール紐で縛られた作品たちも無くなっている。
「も、戻れちゃった……」
私は驚きながらも机に向かい、引き出しを開けた。
入っていた空っぽのノート。
その横に、さっき読んだショートショート集。
これが私の始まり…。
ショートショート集に手をかけ、パラパラとページを捲る。
まだ真っ白な、色褪せていないページにまた涙が出そうになるのを堪えて、読む。
「だめだ。私、本当はやっぱり」
机に座りノートにプロットを書く。
小説を書き始めた時最初に書いたことと同じプロット。
「諦めたくなんてない、書き続けたい、私の話」
どんなに戻ったって
どんなに後悔したって
それを知っていたって
続けたいことが、
諦められないことが私にはある。
きっといつか巡り会える。
きっとどこかにチャンスはある。
やり直していく中で見つけていこう。
自分の中の天才を。
――――
――
―
これは、今私が書いている物語のプロット。
――まぁさ、こういうの書ける人って俗に言う「天才」だよね。――
人の前で、格好つけて言ったその言葉で片付けた、
大事にしてきた自分の夢を、
あの時、追わなかったことに酷く後悔していて、
だから今、また私は書き始めた。
私自身の過去を題材にした小説を。
時が戻るなんて有り得ない。
ここは現実だから。
でも、小説の中でならいくらでも夢を見れる。
いくらでも私の中の私に夢を見せることが出来る。
これは、
夢を諦めなかった私が、最後に笑うまでの物語。
「諦めなくて、良かったよ」
さっき呟いたその言葉の背景を、180度変えるための物語。
「私は、一生小説が書きたい」
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