僕にとってあかねちゃんは
大好きなアイドルあかねちゃんの日めくりカレンダーが出たから買ったんだ。
本当に本当に可愛くて、あるだけで毎日が楽しみになった。
1枚捲る。
今日は私服の日。可愛いなぁ。
大きめのチェックのシャツをワンピースのように着て、海に足だけ浸かってる。
こっちに向かって笑顔で水をかけるその写真がとてもとても愛おしい。
あかねちゃんはチェックがとても似合うので、僕もよくチェックを着ている。
今日もチェック。
あかねちゃんの着ているシャツと同じ色のチェック。
今日も僕ら、お揃いだね。
大学に出かける。
大半の人は、僕みたいなタイプは割と嫌われがちだという認識があると思うが、僕はそうでは無い。
それなりに友達もいて、それなりに充実した大学生活を送っている。
僕みたいなアイドル没入型学生で嫌われるのは、自分の崇拝を他者に押し付け、かつ身なりを整えないやつだ。
僕はそんなやつにはならない。
だって、あかねちゃんは僕だけのあかねちゃんであり誰かに見せびらかしたいわけでもなく。
毎日、あかねちゃんにも僕を見てもらうわけだから身なりも整えないと失礼だ。
ここだけ聞くとヤバいやつと思うだろう?
でも違うんだ。僕はしっかり弁えている。
あかねちゃんはあかねちゃんの生活があり、僕とは別の次元で生きている。
だからもし急に結婚しても僕はそれで良いと思っている。
以上の点から、僕はアイドル没入型学生の中でもそこそこの生活を送れているわけだ。
僕とあかねちゃんは、違う世界で生きている。
弁えている上で、僕はあかねちゃんが大好きだ!
そう!ちゃんと弁えて、大好きなんだ!!!!
僕は明日のあかねちゃんに会えることを楽しみに、布団に入り、今日も眠る。
「人気声優アイドルの姫宮あかねさんが本日0時、自身のTwitterで一般男性と入籍したことを発表しました」
階段を降りて、リビング。
僕は朝起きて一番に、その音声を聞いた。
「あらーこれあんたの好きな子じゃないの。一般男性とねぇ。おめでたいねぇ」
母が僕を見て言った。
画面に映るあかねちゃんは、今日の日めくりカレンダーと同じ格好をしている。
白いレースのワンピース。
「お相手はどなたに似ているかとの質問に、姫宮さんは、『プーさんに似ている』と幸せそうに答えていました」
キャスターが笑顔のあかねちゃんをバックにそう語る。
大丈夫だ、僕は弁えている。
僕は、弁えている。
僕は無言で部屋に戻り、全身白で整えた服を脱いだ。
白いワンピースを着て微笑むあかねちゃんの前で僕は着替える。
また下に降りて、無言でご飯を食べる。
「何よあんた、急に服替えてきて」
「今日は、この気分であったのだ母上。無駄な詮索は止してくれ」
「何その言い方。変な子。好きな子が結婚してショックならそう言えばいいのに」
「そんなのではない。母上、僕は彼女と違う世界で生きていると、そこを弁えているのだ。故にショックなどと。そんなことは断じてないのであります」
「弁えている人がそんな格好しますかね」
僕がさっき全身白から、着替えた服。
黄色い半袖パーカーとハーフパンツのセットアップに、赤いベスト。
「そんな色合い、プーさんしかいないでしょうよ」
「断じて、違う。母上よ、僕は弁えているのだ。あんな蜂蜜を舐めて堕落した生活をしている黄色い生き物と一緒にしないでいただこうか。今日は、この気分なのだ」
「あーあー、そうでございますかー」
母は歩いて洗面所の方に向かった。
そうさ、僕は弁えている。
今日も大学で盛大に祝おうではないか!好きな子の門出を!!大好きな友と共に!!!
僕は勢いよく食器を洗い、勢いよく歯を磨く!!
さらに勢いよく髪をセットする!今日もキマった!!
準備は万端だ!!
勢いよく2階へあがる!!!
そして僕は、大学を休んだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?