映画レビュー:24年9月の12本
・Chime
(2024年/日本/黒沢清監督)
みんな狂気・凶気を必死に堪えながら、薄くガス抜きしながら、なんとか日常を維持している、という現代のタイトロープ感の表現が巧い。弁舌ふるう料理教室の先生が自宅では家族3人で大皿のうどんをつつく質素な食卓だったり、電車の通過時の影だったり、うっすら聞かせるチャイムだったり、「間」だったり、演出があざとくなくて巧いんだな。日常がホラー要素たっぷりに仕上げられている。渡邊琢磨氏の音楽が、妙を添えて、良い。
・めくらやなぎと眠る女
(2022年/フランス・ルクセンブルク・カナダ・オランダ/ピエール・フォルデス監督)
東京と北海道が舞台なのに、色彩と、音楽(オーケストラ)と、登場人物のキザなセリフ回し&軽妙な人間関係のはぐくみ方で、作品が完全に海外のトーン&ノリ。描き込むところ、省くところ、象徴化するところ、などが、日本のアニメと全然違うんだ。
・宝島
(2022年/フランス/ギヨーム・ブラック監督)
フィクション?ドキュメンタリー?ある場所に集ういろんな人の心模様。いいね。それにしても、美しい月の下の、夕焼けの中の戯れ、、、この色味・空気感をカメラに収められたのすごいなー。この短いカットを撮るの大変だったろうし、この数十秒のカット見れただけで、観た甲斐がありました。
・ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ
(2023年/スペイン・フランス/ペドロ・アルモドバル監督)
好きな人に銃を向けるなんて嫌だ(涙)3人がそれぞれ銃を向け合うなんて(涙涙)。お互いを尊重し、お互いを守りあう。そんな関係性がいい。
・男女残酷物語 サソリ決戦
(1969年/イタリア/ピエロ・スキヴァザッパ監督)
「ウルトラ・ポップ・アヴァンギャルド・スリラー」ってコピー、言い得て妙。なんて表現したらいいか判んないもんね。水陸両用のベンツのシーンとかワケ判んないもん。途中で飽きたけどなんとか観れました。男がコンプレックスを・病気を克服するんだ、って覚悟を決めたら、無慈悲に殺されるの、まぁ、そうだよね、そんな甘くないよね。と思うと同時に、その克服したい気持ちを丁寧に扱わずに、天誅あたえておしまい、は、あまりに短絡脳すぎるだろと憤る。
・蛇の道
(2024年/フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルグ/黒沢清監督)
日本の児ポを描いた前作が、なぜ今セルフリメイク?と思ったけれど。憧れの花の都パリに移り住んだ日本人(柴咲コウのフランス語すごい!)が、人身売買の巣窟だった絶望たるや。さらに児ポの犯罪は広域に深刻に、狡猾になってきていて、さらにそこには親子関係・家庭内の問題も横たわっていて、あぁこれは現代にセルフリメイクで出す意味ありますよね、と納得。
・平家物語 「諸行無常セッション」
(2022年/日本/河合宏樹監督)
あざとくてつまらない。
・リンダとイリナ
(2023年/フランス/ギヨーム・ブラック監督)
いいテンポの会話劇でアッという間に観終わる。深いものを残そう、などど意識せず淡々と。ショート動画のつなぎに映画的な「間」を与えるだけのシンプルな作り。ホン・サンス同様、コツと自らの売りをわきまえてる。量産できるみやすさ。にくいぜ、面白いんだもの。
・修羅雪姫
(1973年/日本/藤田敏八監督)
オリジナル・キル・ビル!劇場で観れて嬉しい!(感涙)
キル・ビル以降の再評価(?)枠で全身タトゥーの外国人カップルが1組、あとは、往年の男性ファンが大半を占める客層。有名なオープニングの立ち回りシーンはやっぱメチャカッコイイ。
・碁盤斬り
(2024年/日本/白石和彌監督)
大晦日にずっと碁を打ってる男たちって。。。女が全部裏方支えてんだな。ここは1)男女の描き方。主人公(草彅剛)がチート能力を持っている設定が最後に崩れるあたりは、2)勧善懲悪に単純化しない描き方。吉原の花魁を登場させると一気にテンプレ化しちゃって「落語かよ」と中だるみするけれど3)まぁテンプレをかろうじて回避した描き方。「誇り」や「武士道」や「筋を通す」に類した精神性もジツは女に支えられていました、というメッセージもよく響くし、それら全部あいまって、大好きな骨太な白石和彌作品に仕上がっておりました。
・エイリアン:ロムルス
(2022年/アメリカ/フェデ・アルバレス監督)
擦られまくったエイリアンを、監督替えてどう料理してくれるのかを楽しむやつ。『ドンド・ブリーズ』感ある。今回はAIとの共存がモロ主題で、時代を映す。「大企業に騙されるな、製薬会社に騙されるな」みたいなメッセージを大資本の映画会社が作るというのは、どんな裏の裏があるんだろうね。
・修羅雪姫 怨み恋歌
(1974年/日本/藤田敏八監督)
傘に隠した刀を逆手に持って無双する梶芽衣子。かっこいい。それは継続ながら、前作からちょっと路線変更でエロスが加わったり、前作からここまでで1年足らずだけど諸事情あったんだろうなと伺える作品でした。
<了>