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【読書コラム】子ども向けと侮るなかれ! 本格ミステリーの面白さが見事に詰まった最高の一冊 - 『放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件』知念実希人(著), Gurin.(イラスト)

 読書感想文の書き方について教えたとき、子どもたちから面白いと紹介してもらった本が気になった。ミステリー作家の知念実希人さんが手掛ける児童書で、可愛いイラストが印象的な『放課後ミステリクラブ』だった。

 キャッチコピーによれば、児童書で史上初めて本屋大賞にノミネートしたらしい。なんとなく期待値が高まっていく。

 対象年齢は9才から大人まで。そのため、字は大きく、難しい言葉も使われず、わかりやすいイラストのおかげでサクサク読めた。

 事件も何者かが学校のプールに金魚を大量に放ってしまったというカジュアルなもの。とはいえ、決して子供騙しではなくて、明かされた情報だけで矛盾なく推理が可能な本格ミステリーとなっていた。しかも、エラリー・クイーンみたいに「読者への挑戦」が種明かしパートの前に用意されていたので驚いた。

 不要なミスリードも、さすがにあり得ないだろって卑怯なトリックもなかった。無駄な人物もいなければ、無駄なエピソードで頁のかさ増しもされていないので、児童書とか関係なく、真正面から本格ミステリーだった。

 その上、シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティなどの書籍名も随所に出てきて楽しかった。小学生がこれを読んだら、たぶん、『そして誰もいなくなった』というタイトルが気になって、図書館で借りたりするんだろうなぁって気がした。

 思えば、わたしもそうやってミステリーにハマっていった。それこそ、9才ぐらいのときに『名探偵コナン』のアニメを好きになり、学校の図書室で名作ミステリーを片っ端から読み漁った。

 たしか、子ども会の催しでコナンの映画をみんなで見に行ったのだ。それが『ベイカー街の亡霊』で、VR技術によってコナンたちが100年前のロンドンを再現した世界に閉じ込められてしまうというもの。そこではシャーロック・ホームズが暮らしていて、その力を借りて切り裂きジャックの正体を突き止めようというストーリーだった。

 映画の中でシャーロック・ホームズに関する小ネタがふんだんに散りばめられていて、鑑賞後、それを確かめたくなったことをよく覚えている。

 長編を読むのはまだ大変だったので、最初はホームズの短編集を手に取った。その中に収録されていた『赤毛組合』が面白過ぎて、すっかりミステリーの虜になってしまった。

 子どもの頃って、ひとつのことを好きになると徹底的に時間を使ってしまうもの。シャーロック・ホームズを読破したら、流れでアガサ・クリスティの探偵小説に流れていった。『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行殺人事件』、『アクロイド殺し』など想定外の犯人が出てくる小説を読んだときの衝撃たるや。ミステリーってこんなに自由なんだと度肝を抜かれた。興味がひたすら湧いてきた。

 加えて、当時、学校から帰宅した午後3時とか4時とかにフジテレビで『古畑任三郎』の再放送をやっていたので、それにもハマった。先に犯人を明かし、探偵に追い詰められていくという構造にやっぱりミステリーって自由だなぁと感心してしまった。それが『刑事コロンボ』をベースにしていたと知ったのはしばらく後だけど、わたし的には『古畑任三郎』のコメディ強めな雰囲気の方が好みだった。

 中高生になると新本格ミステリーに触れ、叙述トリックの凄さに魅せられた。綾辻行人さんの『十角館の殺人』だったり、我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』だったり、記憶を消して読み直したいと思う作品ばかりで、読むのをやめられなくなってしまった。

 もし、子ども会でコナンの映画を見に行くことがなかったら、そういう劇的に面白い小説と出会えなかったんだと思ったら、なんだか不思議な気持ちになってくる。本との出会いも運命なんだなぁ、って。

 そう考えると今の子どもたちが『放課後ミステリークラブ』のように上質な本格ミステリーと早々に出会えるというのは羨ましい。

 もちろん、未だにコナンは連載が続いているし、アニメは放送されているし、映画も毎年ヒットしているので、相変わらず、子どもたちに対するミステリーの入り口としての役割を果たし続けているとは思う。

 さすがに『金田一少年の事件簿』の認知度は下がったいるのかな。ドラマもアニメもやってないもんね。「じっちゃんの名にかけて」というフレーズも知らないのかな。このじっちゃんって誰のことなんだろうって気になったから、金田一耕助シリーズを読んだなぁって懐かしい。市川崑監督の映画もTSUTAYAで借りまくった。フケがなんであるか知らず、頭を掻きむしったら白い粉がこぼれる感じをカッコいいと勘違いして、髪の毛の中に小麦粉を入れていたこともある。お母さんにバレて怒られた。死ぬほどバカだった。

 思えば、教養って、そんな風にエンタメを通して身につけていった。

 わたしは学校の授業をまじめに聞かないというか、集中力が続かず、無意識のうちに空想を重ねてしまうタイプだったので、教科書とノートで知識を増やした実感が全然ない。でも、本とか映画とか漫画とかアニメとか、好きなものにはのめり込めたので、娯楽に時間を費やしまくった。そうして獲得した知識はトリビアに分類されるものかもしれないが、自分の血となり肉となり、人生のほとんどを占めているので、決して無駄ではなかった。

 ……はず。たぶんね。

 だから、『放課後ミステリークラブ』を面白いと思った子どもたちにはぜひ、そこで出てきた過去の名作にもぜひ触れてほしい。いや、もっとシンプルに読書って面白いと感じてくれたら嬉しいな。

 知念実希人さんもあとがきでそんなことを記していた。小学2年生のとき、家の本棚に『奇巌城 アルセーヌ・ルパンシリーズ』と書いてある本を見つけ、アニメ『ルパン三世』が好きだったので読んでみたとか。すると、ルパンがホームズと対決する展開に夢中になってしまったとか。これがきっかけで小説を読む喜びに目覚めたんだとか。

 小説を読んでいるあいだ、ぼくはその世界に入り込み、外国、無人島、海の底、きょうりゅう時代の地球、宇宙の果てなどのいろいろな場所をぼうけんし、わくわくしたり、どきどきしたりする体験をたくさんすることができました。
 そんな経験があったからこそぼくはいま、お医者さんをしながら、物語をつくる小説家という仕事をするようになりました。
 本を読むことは、きっとみんなの人生を豊かにしてくれるし、なによりとっても楽しいことです。
 みなさんにとってこの『ミステリクラブ』が、ぼくにとっての『奇巌城』のように、読書のみりょくを教えてくれる作品になったらとてもうれしいです。

知念実希人『放課後ミステリークラブ1 金魚の泳ぐプール事件』157頁

 こうやって、新しい世代に本を好きになってもらうための創作ができるって、本当、尊敬しかない。読書が好きだからこそ、その楽しさを広める活動をすることも重要だ。

 つくづく、いい作品を紹介してもらった。子どもたちが推し活のように『放課後ミステリークラブ』を応援しているわけだから、それって、めちゃくちゃ凄いことだよね。




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