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【料理エッセイ】換気扇を綺麗にしたので、揚げ物に挑戦。フライド大根には失敗したけど、唐揚げはうまくいったよ!

 しなきゃしなきゃと思っていても、つい、後回しになってしまうのが親孝行と換気扇掃除。いまの家に引っ越して4年。実は一回も換気扇を掃除していなかった。

 言い訳ではないけれど、これまでの家と違って、ここはレンジフードでどう掃除していいか、よくわからなかったのだ。それでも、ネットで調べたことはある。けっこう面倒くさいらしいと判明した。

 年末にやろう。

 そうやって後回しにして、いざ年末になると忙しさにかまけて年が明けたら頑張ろうと目標修正、どうしようもない怠惰を何度も繰り返してきた。

 だけど、先日、いよいよ換気扇を掃除しなければならないと決意するに至る事件があった。

 それは母親が祖母と暮らすにあたって、長いこと借りていた部屋を出るにあたって、退去費用を請求されたときのこと。

 その金額はなんと約20万円! た、高過ぎる!

 クリーニング業者がやってきて、これが相場ですからと汚い文字で見積もりを提示、サインしなきゃ終わりませんよと圧をかけてきたらしい。60歳になんなんとする女の一人暮らしだったから、取れるだけ取ってやろうと思われてしまったに違いない。

 ネットで調べると同様のケースはけっこう多いらしく、引っ越しの退去費用で17万の請求が来たけれど、「国交省の賃貸住宅原状回復ガイドラインに従ってほしい」と伝えたらぜんぶなしになったという情報がでてきた。

 そのことをすぐ母に伝えたのだけど、そうは言ってもサインしてしまったし、クリーニング業者ともう一度話すのは怖いし、他に方法はないだろうかと聞かれてしまった。正直、わたしも詳しくはないので、そこは消費者センターは相談するしかないよと答えた。

 翌日、母は消費者センターに電話した。正確には国民生活センターがやっている消費生活センターの消費者ホットラインというやつなんだけど、結論、あまりいいアドバイスはもらえなかったという。サインしてしまったんですよねぇ、と言われてしまったとか。

 落ち込んだ母は払うしかなさそうと嘆いていた。でも、わたしとしてはそんな金額になる理由がよくわからなかったし、そんな業者を平気で使って管理会社や大家さんに腹が立ってきた。

 で、代わりに話すよと名乗りをあげ、管理会社に電話をかけ、疑問をわーっとぶつけてみた。先に挙げたネット記事のことも、国交省の賃貸住宅原状回復ガイドラインのことも、消費者ホットラインに相談していることも、すべて包み隠さず話した。

 すると、数日後、退去費用はなしでいいと管理会社から連絡があった。よかったと安心しつつ、なんで? と聞かずにはいられなかった。ゼロ円ででいいものに対して、20万近く請求するっておかしくないですか? こっちは納得できる説明を求めているんですけど。

 ただ、なしでいいって言ってるんだから、もういいじゃないですか! って感じで逃げられてしまった。いや、まるで、それだとこっちがクライマーみたいじゃないですかと不服だったが、もしかしたら本当にクライマーと化しているのかもと怖くなり、とりあえず母に退去費用がなしになったことを報告した。母は喜んでいた。

 モヤモヤしたものを抱えつつ、実際問題、退去費用ってどれくらいが適切なのか、自分なりに調べてみるにした。すると、基本的には契約次第みたいだけど、タバコで汚れた壁紙だったり、ペットを飼ったことで傷ついた柱だったり、一般的な生活の範囲を超えた既存部分が対象になるらしい。

 そして、その中に掃除をしていない換気扇の汚れという言葉を見つけ、ドキッと怖くなってしまったのだ。

 正直、もう10月だし、やるなら年末の大掃除にしようと思ったけれど、それでは例年と変わらない。きっとやらずに終わってしまうのは目に見えていた。わたしの中の林修先生が「いつやるの?」と聞いてきた。

 ……いまでしょ。

 まー、大変でした。整流板は油が氷柱のようになっているし、フィルターは目詰まりを起こしているし、ファンは化石みたいになっていた。それらをクッキングシートで拭きまくり、お湯と洗剤を歯ブラシでゴシゴシ磨きまくった。奥の方の壁面もドロドロになっていた。

 各工程数時間単位かかった。終わりが見えず、絶望的だった。それでも、いつか引っ越しをするときに退去費用を可能な限り安く抑えるため、常識的な掃除をしておかなくてはいけない。

 一応、やれるだけはやってみた。年末にもやろう。ここから定期的に掃除しておけば、たぶん、なんとかなるだろう。そんな確信を得たところで作業を終わらせた。

 夜になっていた。ヘトヘトになったわたしはお腹もペコペコになっていた。なにせ、換気扇の掃除中はご飯を作ることができない。お昼ご飯を抜いていた。

 とにかく、カロリーを摂取しなくては。換気扇を掃除した直後の人間としてはイカれた行動かもしれないが、揚げ物をすることに決めた。

 駅前のライフに食材を買いに行ったところ、気になるポップを見つけた。フライド大根のすすめだった。

 普段だったらスルーだけど、揚げ物をすると決めているわたしには刺さりまくった。よし、やろう。大根をカゴに放り込んだ。

 ただ、ニンニク醤油で下味をつけた細切りの大根を揚げてみたところ、思っていた感じにならなかった。

 なんというか、めっちゃしなしな。干してないのに切り干し大根みたいになってしまった。食べてみても切り干し大根みたいだった。しかも、めちゃくちゃ油っこい。贔屓目に言っても大失敗だった。

 ライフのレシピ通りにやったはずなのに、どうなってんだよと怒りを覚え、食後、撮影した写真をチェックしてみると、そこには片栗粉をまぶすという言葉が。

 あれ? 素揚げしちゃった……

 悪いのは自分だった。疲れていて、ちゃんとぜんぶ読んでいなかった。あー、やっちまった。

 ちなみに食事中はそのことに気がついていないので、フライド大根はダメだと勘違いし、このガッカリを挽回すべく他の食材を揚げまくった。

 椎茸とブロッコリーは素揚げ、ワカサギは天ぷらにしてみた。これはもう失敗する要素がないので満足だった。

 特にブロッコリーの素揚げが最高だった。彩りのつもりだったけど、余裕でメインを張れる逸材。次やるときは一房いこう。

 なお、ここまではビールのおつまみ。ぼちぼち酔いが回ってきたら、ご飯と味噌汁で〆なくては。そうなるとおかずになるものが必要。

 こういうのは定番が一番。唐揚げを決めてやった。

 ホリニシで下味をつけた鳥もも肉に小麦粉をまぶし、片栗粉を重ねた。粉は二種類の層を作るのがこだわり。しっとり感とサクサク感、どちらも譲れないから。そして、170度ぐらいで中まで火を通し、180度でカリッと仕上げる。いわゆる二度揚げ。完璧な衣は幸せにつながるので、この手間を惜しむわけにはいかない。

 緑はピーマンの素揚げ。すぐに縮んでしまうから、一瞬で取り上げるのがコツ。あとはレモンも差し色として欠かせない。もちろん、サッパリ感も嬉しいしね。

 最初はそのまま。しばらくしたら、カレー塩やマヨネーズで味変。これでもう脳内麻薬がドバドバ出てくる。唐揚げは脱法薬物みたいなもんだと思う。脳みそに直撃する美味しさだ。

 そんなわけで、フライド大根の失敗も忘れ、身も心も満たされる形でご馳走様に至った。

 いやはや、揚げ物っていいなぁ。でも、換気扇は汚れるんだよなぁ。満腹で眠くなりながら、そんなジレンマを乗り越える唯一の方法が定期的に換気扇を掃除することに他ならないと自らに言い聞かせた。少なくとも、今年は年末に換気扇を掃除するぞ! 今日、ある程度やったから、たぶん次は簡単だ。なんとなく、いけそうな気がした。

 さて、意気揚々とキッチンに向かえば、コンロにはテンプルを溶かした油でいっぱいの天ぷら鍋が置かれ、流しにはギトギトな食器や調理器具が眠っていた。

 ……とりあえず、これを洗うのは明日にしよう。うん。明日、明日。今日は疲れちゃったしね。

 やらなきゃいけないことをやるのって、どうしてこんなに大変なのだろう? 




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