『汝、星のごとく』|恋愛、家族、仕事、生き方...さまざまなテーマについて考える
とんでもない作品に出会ってしまった。読み始めて半分を超えたあたりから、そう思った。
『汝、星のごとく』感想
瀬戸内で煌く海がまるで目の前に存在するかのように感じ、行ったこともないその場所が、目を閉じると浮かんでくるようだった。読み進めるうちに、少年少女が大人になるときの葛藤が、これでもかというくらい描き出されていると感じた。2人は互いに「言わなくても分かっているだろう」と思い込み、そう盲信していることにすら気づかないまま、すれ違っていく。
作中でいくつか心に残るフレーズがあった。
「愛と呪いと祈りは似ている」(p.269)
好いているだけでは愛とは言えない。じゃあ何が愛なのか。答えはないのだろうけれど、きっと呪いたいほど憎らしく、そして同時に祈りを捧げたいほど相手の幸せを願うこととその対象。この3つが混在するとき、愛していると言えるのだろうか。「愛」の深さに気づかせてくれた。
「何かを欲するなら、失う覚悟も必要だ」(p.291)
ハッとした。学生のうちに手にしているものは、社会人のそれと比べて多くはない。社会に出て抱えるものや選択肢が増えるにつれて、捨てることを選ばなければいけない場面が増える。失うのは怖い。けれど手放して身軽にならないと、いつか押し潰されてしまって、立ち上がれなくなってしまう。それを避けるためにも、何かを失う覚悟を持ちつづけているべきだ。
自分はこれまで何を選び、捨ててきただろうか。尊厳、自由、未来、望み、家族、故郷、友達、お金、気楽さ...。振り返るだけで「これまでの選択は正解だったのか?」と、答えのない問いに悩まされる。これまでの選択が正しかったかも分からないし、今後正しい選択ができるという確固たる自信はないけれど、少なくとも選んだ道が正解になるよう、歩くことはできる。
「同じとこには二度と戻れんよ」(p.321)
時は刻一刻と過ぎていく。過ぎ去った日々には二度と戻れない。だからといって、一瞬一瞬を大事に慈しむことができるほど器用でもない。せめて過去を振り返ったときに、大切なひとときがあったことに気付ける人でありたい。
2023年の本屋大賞受賞作。本屋でも目のつくところに並んでいて、表紙に見覚えがある方もいるのでは。もし気になっている人がいたらぜひ手に取ってほしい。単なる恋愛小説ではなく、自分と周りの人の人生についての話でもある。