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何故少年ゆう君は在所のオジさんに一発思い切りどつかれたか?/昭和農村生活
イラストエッセイ「僕の昭和スケッチ」80枚目
<画/もりおゆう© 原画/水彩 サイズF5>
子供の頃にお袋の在所に行った或る夏休みの事です。
或る日、在所のオジさんが、「タニシ採りに行くぞ」というので在所の子ら数人とタニシ採りに出かると、近くの田んぼやその脇に流れる小川にはタニシがいっぱいいて、あっという間にバケツ一杯のタニシが採れました。
で、上機嫌で僕らは帰ったのですが、その途中で僕は思わぬ大叱責をオジさんから受けることになります。原因は僕にありました。僕は、オジさんの持っているタニシと水の入った大きなバケツに小石や砂利を後ろから面白半分で投げ入れていたたのです。如何にも子供がやりそうな悪戯です。
それを途中でオジさんに気付かれ大目玉を喰らった訳です。
もちろん僕が悪く、直ぐに謝りました。
けれど、何故おじさんがここまで怒るのか…、
正直言ってよく判りませんでした。
「ちょっとしたいたずらなのに…」
と子供の僕は内心では思っていたのです。
そして、夕飯の時になってその理由を僕は思い知る事になるのです。
なんと、夕ご飯にタニシの汁物がでてきたのです。
市中で育った僕はタニシを食べた事はなく、そもそも食べられるものとは夢にも思ってもいませんでした。僕はさっきまで田んぼにいたタニシが椀の底に沈んでいるのを見て青ざめました。何と言うか…それは、どうみても美味しそうに見える代物ではなかったのです。
…で、その汁物の味は実際の所どうだったかと言えば…
結論から言えば、やっぱりタニシの汁物はお世辞にも美味しいとはいえないものでした。何しろ泥臭いのです。後になってお袋に聞いた所では、当時のお袋の在所では、タニシを真水につけてしっかり泥臭さをとってから食べると言うような習慣はなく、タニシはただ貴重なタンパク源として生活の中にあったのです。
その食べるために採って来たタニシに砂利や砂を投げたのですから、それはオジさんの怒るのも当たり前の事だったのです。
「昔は食べるものがなかったから、そうやって自然のものを食べたんやがね。あんたらは、贅沢やで判らんやろがね…」
と後でお袋が言っていたのを今でも覚えています。
(実際は僕らだって贅沢とは無縁だったのですが、農村部で昭和初期を生きた母親にとってはそう思えたのでしょう)
昆虫採集にでも行くつもりでタニシ採りに行った僕でしたが、それは遊びではなく、生活のための謂わば猟だったのです。今では、タニシを食べている地域は少ないかと思うのですが、昔の農村部ではごく普通に食されていた食材だったのです。
皆さんも各地にお育ちになり、ちょっと変わった物を食べた経験がお有りなのでは???
*タニシはちゃんと下処理をして食べれば美味しいと言われており、外国では現在も普通に食べている地域もあります。寄生虫がおり、生で食す事はできません。
<もりおゆう© この絵と文は著作権によって守られています>
(Yu Morio© This picture and text are protected by copyright.)