「神社に棲む狐」妖の夏
「僕の昭和スケッチ」245枚目
噂
K神社は岐阜市の中心部にある。
中には大きな社殿があり、その社殿の脇に昔ひっそりと小さな社があった。
僕らが昼間は陣地取りやドッジボールをした狭い場所だ。
その社には奇妙な噂があった。
それは、社の床下にキツネが棲んでおり、夜の帳が下りると床下から抜け出し、界隈を歩き廻り悪さをするというものだった。
「味噌汁に入れる油揚げが頻繁になくなるのは、あのオキツネ様のせいだ」と言い廻る町内の老婆もいた。
無論たわいも無い創り話だと大人達は笑った。
しかし…中には真しやかなことを言って子ども達を怖がらせる品性下劣な大人もいた。
「かの社の縁の下には金網が張ってあり、それこそがキツネがいるという証だ。キツネがいないのならば何故網など張って閉じ込める必要があるのだ!」と。
僕らは一様に蒼ざめた。
社の縁の下には確かに金網が張ってあったからだ。
肝試し
さて、その神社だが、夏の夜ともなれば恰好の肝試しの場にもなった。
「肝試しに行こう!」
と誰かが言うと、臆病者だと誹られるのを恐れて僕らは夜になるとその神社に出かけたものだ。
面白半分と怖いもの見たさで出かけ、早々に町内に戻ると誰かが必ず言った。
「俺は狐の白い影を見たぞ!
社の縁の下から飛び出してきて、塀を越えて本殿の方へ飛び跳ねて消えた・・・、あれは確かにキツネだとも。その素早かったこと!」
と。
「嘘や、嘘や、俺は何も見なんだぞ!」
と皆口々に言うのだが、もう二度と肝試しになど行くまい、と全員心に誓うのだった。
*この「「神社に棲む狐」をモチーフに僕はもう一つの作品を描いています。「忍び寄る影」という作品です。宜しければどうぞご訪問くださいませ。
まだ、noteを始めてまもない頃の作品です。