【取材記事】ものづくりが好きな代表が現在作るのは「子どもの未来」。リアルとオンラインのハイブリッドで日本の子どもの可能性を伸ばす試み。子どもの意思を最重要視する「キャリア教育」とは?
お話を伺った方
■「ぎふマーブルタウン」をスタートし、法人を始めるきっかけに。ボランティア体験から、子どもと一緒につくる新しい「何か」の可能性を感じた。
mySDG編集部:Nancyを始められたきっかけを教えて下さい。
住田さん:大学の時、僕はものづくりに興味があり工学部に通っていました。当時のインターンで、エンドミルという「工業用工具」の開発を、新規事業のプロジェクトとして行いました。
その会社は商社でしたので、開発設備など無いため、工具のエンドユーザーの町工場などにヒヤリングをし、できた案をメーカーさんにサンプルとして製作してもらい、再び町工場に持って行き、テストをさせてもらいました。
mySDG編集部:インターンの経験を通して、学びはありましたか?
住田さん:はい。色々な方と一緒にものづくりをしていた時に、社長からある言葉をかけていただいたんです。「ものづくりは人づくりからだよ。ものを作るのは人だから、人の成長なしにものの成長はあり得ないよ」と。そのときに、ものづくりにおける大切な心構えのようなものを教わりましたね。
ちょうどその頃、「教えない教育」をテーマにした子どものボランティアに参加できる機会がありました。僕は、教えないといえど、子どもだからやはり何かしら教えないといけないのだろうと思いつつ、参加してみることにしたんです。
そうしましたら、子どもは大人にもない、柔軟な発想を持っていることに気付きました。しかし、同時に「発想やアイディアは面白いが、具現化させるだけの経験はこれから」なのだなと感じました。
「アイディアを具現化する」というのは、まさに「ものづくり」です。僕がものづくりで学んだことを子どもたちに応用したら、もっと世の中に面白いものが産まれるんじゃないかと思ったんです。そこで2016年3月に「ぎふマーブルタウン」を始めました。
■「ぎふマーブルタウン」のスタート後、子どもの社会的課題に気付く。課題解決の方法として選んだのは、Nancyを立ち上げること。
住田さん:「ぎふマーブルタウン」をやっていく中で、日本の子どもたちが抱える「自己肯定感」の低さや、学年が上がるにつれ、将来への希望を持てなくなるという彼らの悩みに触れました。学んだことやできることが増えているはずなのに、自己肯定感が下がっていく。最終的には、自ら命を絶ってしまう。10代の子どもの死因1位が「自殺」というのもG7では日本だけです。(参考:閣僚会議を踏まえた今後の方策の検討状況 厚生労働省)
こうした残念な状況は色々な要因から起こると思います。一つの方法だけで解消できるとは思いません。「ぎふマーブルタウン」だけではなく、社会的課題解決のため、子どもたちに必要な事業を作り、いくつかの方法で主題課題を解消していきたいと思います。そのために、Nancyを立ち上げ、2019年に法人化したものが今のNancyです。
mySDG編集部:なぜ、子どもの社会的課題の解決に関心を持ったのですか?
住田さん:僕が高校3年生の時に病気で入院し、手術をしたことがあり、その時に「自分の人生がここで終わるのではないか」と感じたことがあります。死を感じた時に「もっと悔いのない人生を送った方が良い」と思いました。だからこそ、自分から終わりを選んでしまう人や、一度きりの人生を楽しめない子どもの現状を見ると、もどかしいし、もったいないですし、放っておけません。
mySDG編集部:子どもの「自己肯定感」を上げるにはどのような方法をとっているのですか?
住田さん:「ぎふマーブルタウン」は、「主体性」「協調性」「創造性」をはぐくむことをテーマにしています。目指していることは「自分の頭で考える」「自分の手で選択する」「自分の足で動ける」こと。大人が全て教えるのではなく「子どもが自分の意思でやりたいことをやる」ことを大事にしています。
現代は大人が先回りし、子どもの失敗を防ぐことも多いように感じます。1から10まで全部教えてしまうこともあり、そうすると、子どもが行動して上手くできたとしても、それは「大人の言う通りにしたから上手くできたんだ」という感覚になってしまう。
「失敗」は悪いことではないと僕は思います。失敗を経験するからこそ、試行錯誤があり、上手くいった時には「こんなこともできた」と自信となり、自己肯定感につながります。ですので、私たちは自分で試行錯誤する経験をできるだけ多く与えてあげたいと思っています。
mySDG編集部:自分でできるという自信が、自己肯定感につながるんですね。
「教えない教育」を実践されているようですが、参加者は小学生なので大人に聞いてくることもあると思います。そんな時はどうするのですか?
住田さん:「何でも自由にやってみていいよ」と言うと、何をしたらいいのかわからないという子も多いので、選択肢をいくつか提示するところから始めます。選択肢の中から選んでいくことを何度か経験すると、少しづつ自分の意思が表現できるようになります。意思決定を自分がするということが大事ですね。
■「ぎふマーブルタウン」では「税金の使い方」や「国王」も子どもの意思で決める。大人も驚く子どもの発想力を「こどものまちオンライン」でも体験させたい。
mySDG編集部:コロナ禍で現在は中止となっている大人気イベントの「ぎふマーブルタウン」ですが、このオンライン版が、「こどものまちオンライン」ですね。
住田さん:オンラインですと、できないこともあるので「派生版」と言うべきでしょうか。ただ、オンライン、オフラインでそれぞれ強みと弱みがあるので、両方の強みを活かしてハイブリッドで活動していく形を模索しています。
mySDG編集部:もうできあがっているのですか?
住田さん:構想はあるのですが、現在開発資金を集めようとしている段階で、9月からクラウドファンディングをしようと思っています。
mySDG編集部:可愛いイメージ画像ですが、世界観としてはこのような感じなんですか?
イメージ画像にいる人が自分になるんですね。
住田さん:そうですね。
mySDG編集部:スポンサーさんも募集しているとのことですが、街の建物などにスポンサーさんのお店や看板が出るのですか?
住田さん:建物にもできますし、ロゴを街の中に入れることもできます。
mySDG編集部:いわゆるゲームと、教育としての「こどものまちオンライン」の線引きはどうやってするのでしょうか?
住田さん:オフラインでもRPGに近いところはありますよ。イベントでは「マーブル」という架空の通貨があって、商売をしたり、物を作り販売すると収入を得られます。仕事をして誰かの役に立ち、収入を得たら、そこから税金を支払います。
努力して得たお金は、架空の通貨であっても子どもたちにとって「努力の証」です。さらに自分たちの作った物やサービスを、知り合いではない子が買ってくれることが「他者から認められた証」になります。
だからこそ、子どもたちはマーブルを稼ぐことに熱中します。たまに保護者さまから「子どもの稼いだマーブルを数えていたら、興奮して眠れなくなっちゃいました」とお声をいただくこともあります。
それほど、子どもやその保護者さまにとって、リアルに感じられるものなんです。そういった意味でゲーム性があると思います。
mySDG編集部:架空通貨のマーブルを現実世界で使えるようにしても面白そうですね。
住田さん:それは意図的にしていません。なぜなら、リアルなお金としての価値を持ってしまうと、子どもが失敗できなくなってしまうからです。マーブルをなくしてしまって大ごとになったり、保護者に力が入ってしまい、子どもに口を出してしまったり、Nancyのコンセプトからは外れてしまいます。
他のイベントでは、稼いだ架空通貨を商品やお米に変えられるものもありますが、私たちはお金との互換性はあえて持たせないようにしています。
mySDG編集部:収めた税金の使い道を決めるのと、さらに国王も決めるんですね。
住田さん:そうです。1回のイベントで20人くらい立候補者が出ます。国王になるために演説をするのですが、子どもによって色々な特色があります。
低学年の子ですと、「街の平和や安全を守りたい」「楽しい街にしたい」など抽象的な演説をしてくれます。高学年になると「起業したいけれどお金のない人に、お店の区画を税金で買い取って解放する」というような、具体的な税金の使い方を提案してくれます。
mySDG編集部:それは、小学生の意見ですか?
住田さん:そうです。スタッフ側も、小学生でこんな意見が出せるんだとびっくりします。
mySDG編集部:本当にすごいですね。国王になるためには皆、壇上で演説をするんですね。
住田さん:演説をして、一番票数が多い人が国王になります。その投票の仕方も子どもが決めます。その場で挙手をしたり、投票用紙を作成して紙で投票をしたりですね。
mySDG編集部:写真だと人が多すぎるので挙手では数えるのが難しそうですね。
住田さん:はい。なので、始めは挙手だったけれど、上手く数えられないので、司会の子が、「よくわからなかったんで、やっぱり拍手の大きさで決めます」などと路線変更をして、最終的には「拍手でもよくわからなかったので、投票用紙作ります」となるケースもあります(笑)。
mySDG編集部:なるほど(笑)。小さな失敗の連続ですね。
住田さん:そこから子どもたちは沢山学んでいくことができます。
mySDG編集部:オンラインでは、全国や海外も含まれるかもしれないので、その中で国王になると、だいぶ力がありそうですね(笑)。
住田さん:オンラインでは、「国王制」も一つの案なのですが、「議会制」にする案もあります。トップを一人決めるのではなく、複数人の代表を決めて、「複数人で話し合う」というのもありだと思います。
mySDG編集部:現実に近い国の制度ですね。私も早く「こどものまちオンライン」を体験してみたくなりました。
■「キャリア教育」を、GIGAスクール構想の波に乗り、日本の全ての小学生に与えたい。目標は第3の新しいコミュニティの創出。
mySDG編集部:子どものキャリア教育のイベント、オンライン共に続けていくにあたり、困難なことはありますか?
住田さん:「資金」です!
mySDG編集部:だから、スポンサーを募集しているんですものね! ちなみに今までは、資金はどのようにして確保してきたのですか?
住田さん:1年目は備品購入などもあり、市の助成金をいただきました。その後のランニングコスト(開催にかかる費用)は、当時学生だった僕が、アルバイトをしながら賄い、その後寄付をいただけるようになり、運営費は回収できるようになりました。しかし、まだ人を雇うほどの余裕はないので、雇用できるようになると事務局としてもっとしっかりとした団体になると思います。
mySDG編集部:あえて、参加する子どもからは「参加費」をもらってないんですね。過去に参加費をもらって上手くいかないことがあったのですか?
住田さん:いいえ。特にトラブルなどはなかったのですが、無償で参加できることは大事にしたいところです。なぜなら「子どもが子どもの意思だけで参加できる」ことが重要で、たとえ100円でもかかってしまうと、保護者に同意を求めないといけなくなりますからね。
mySDG編集部:参加する意思決定から子どもの気持ちを、できるだけ尊重できる形にしているのですね。Nancyの掲げるSDGs目標に、1.4.8番がありますが、オンライン版に関して、端末を持てない貧困家庭の子どももいると思います。そのあたりはどのように考えておられますか?
住田さん:2年前ならオンライン版は作らなかったと思います。なぜ今オンライン版を開発したかというと、公立の学校では、GIGAスクール構想で、一人一台のパソコンもしくはタブレットが支給されるようになっているからです。家庭環境に関わらず参加できる環境になっていますので、オンライン版もやってみようと思いました。
mySDG編集部:学校から支給される端末ですと、基本的に決まったアプリしか使用してはいけないと思いますが、その対策などあるのでしょうか?
住田さん:そうですね。自治体により決まりが違うので、自治体と連携をとって子どものキャリア教育アプリとして、支給する端末に入れていただけるようにしていきたいと思います。
mySDG編集部:すごくいいですね! 子どもがパソコンを開く機会が増えそうです。開発費はどれくらいを目標にしているのですか?
住田さん:600万円です。
mySDG編集部:スポンサー企業さんがつくといいですね。SDGsへの取り組みをしているかどうかが、企業としての価値をはかる大きな指標になってきている中、企業側としても、SDGsに取り組みたくても、事業内容的に取り入れることが難しかったり、本業が忙しく、時間がないなどのお悩みをお伺いすることもあります。
そんな企業さまにとっては、社会貢献をしているNancyさんに「資金提供」をすることによって、間接的にSDGsに取り組むという方法を選んでいただくのもいいと思いますね。
mySDG編集部:今後の目標や展望をお願いします。
住田さん:「こどものまちオンライン」をするにあたり、始めはイベント形式(オンライン上で一時的に開催される)になると思うのですが、資金が集まるようになれば、恒常的にコミュニティとして稼働していき、色んな学校の生徒がフラッと集まって宿題をしたり、夢の話をしたり、一緒にゲームをしたり、遊んだりする「第3の居場所」にしていけたらいいと考えています。
mySDG編集部:将来はオンライン版特有の全く違う世界も広がりそうですね。最後にアピールしたいことはありますか?
住田さん:私たちは、「子どもの生き抜く力をはぐくむキャリア教育」を通して、子どもたちが自分の人生で夢や希望を持って、人や社会に貢献し、輝ける社会を作るということを目指している団体です。そこに共感をして下さるようでしたら、個人さま、企業さま共にご連絡下さればうれしいです。
mySDG編集部:本日は貴重なお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。
お問い合わせ先
代表:住田さん連絡先:gifu.nancy@gmail.com
「こどものまちオンライン」メタバース × 小学生のキャリア教育
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