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#619 何事も見方を変えれば楽しめるって、バリウム検査が教えてくれる

2024.8.2.
職場の私のいる専科島は、ほとんどが女性。そして、時々会話が謎の盛り上がりを見せる。

例えば、クイックルワイパーの湿ってるやつと乾いているやつの使い分けの話とか。
例えば、伊勢名物「赤福」の美味しさについてとか。
例えば、職員室の電気ポットにどんな形の「湯沸かし中」の札があったら便利かとか。

私はその会話に参加することもあれば、聞いているだけのこともある。この会話が、全然終わらないのだ。どんな話題もひょんなきっかけから始まるのだが、それぞれが独特の理論を展開し、誰かの意見に「それはないだろ〜」と反応し、新たな提案が始まり、みんなで爆笑する。

心の中では密かに、「専科劇場」だと思っている。
何か話題が上がったら、「お、劇場が開幕しましたね」と思っている。自分も演者になるか観客として見ているかは、話題による。



数日前の話題は、「バリウム検査」だった。
私は過去3回ほど、バリウム検査を受けたことがある。どれも病院の中にある施設でだった。

とにかく1回目は衝撃的だった。
ハイシーみたいな顆粒状の薬を飲まされ、それをこの液体で流し込めと言われ、ゲップをしないように頑張って飲む。どんどん膨らんでいく感触。なんじゃこりゃ。
そうしたらそれよりも一回り大きいコップを渡され、これの半量を飲めと言われる。こっちがバリウムかい!さっきのはまだ違ったんかい!
半分飲みながら冷静な私は考える。これ、一体何飲まされてんだろうと。何も味がしない重ったるい白い液体。液体というか柔らかめの粘土。
頑張って全部飲んだら、ちょっと腹部を左右に振れとか、棒を掴んで少し左を向けとか、棒の掴み方は内側からとか、右から2回転しろとか、お辞儀しろとか、ちょっと戻せとか、謎の指示を連発される。ときには、このまま頭からずり落ちるんじゃないかと思えるような逆さまにされながら息を止めていたりする。

1回目の洗礼はそれでは終わらなかった。されるがままの撮影から解放された私に、技師さんが「口の周りを拭いてくださいね。そこに鏡もあるんで。」と言ってティッシュを渡してくれた。

小さい子が牛乳飲んだ後みたいな跡が口の周りについてるじゃないか!こんなのつけながらあの台の上でぐるぐる回されてたんかい!

これは身体的ショックを受けているところに精神的ショックをダブルパンチでくらわしてくるようなものである。

2回目からは、バリウムを飲んだ瞬間に、手で口の周りを拭うことだけは心に決めて臨んだ。


そんなバリウム検査を数日後に控えていたその日、専科劇場が開幕した。
バリウム検査を受けたことがない若手の先生が、「バリウムってどんなことをするんですか?」と不思議がっているところに、中堅〜ベテランの先生が検査内容の説明をしていた。

・・・・・・・・・・・・・・・

※以下、若手の先生を「若」、中堅の先生を「堅」と表記します。

堅「いや、まず発泡剤とかバリウムとか、飲むのに一苦労なのよ。」
若「えー。そんなの絶対ゲップ止められなくないですか?」
堅「そうそう、至難の技。で、その後に機械に乗って、ぐるぐる回されるんだよね。」
若「機械?回される?そんなすごい機械があるんですか?」
堅「いや…すごい機械っていうか、回ったりするのは自分でなんだよ。あの機械を何かに例えるとするなら…私いつもあれのこと『おんぼろ遊園地』って思ってるよ。」
一同「おんぼろ遊園地wwwwww お腹痛いwwwwww」
若「えーーー。なんか、バリウムって本当に大変なんですね。やりたくないなあ。」
堅「いや、検査したことないなら、人生経験的に一度はやってみて欲しい!で、感想教えて欲しい!」

・・・・・・・・・・・・・・・


この会話に爆笑しつつ、今年のバリウムは「おんぼろ遊園地」として楽しんでやろうと思って翌日の検査に繰り出した。

検査会場に着いてみると、なんと今回は初の検査車バージョンであった。いやあ、普通のレントゲンはいつも検査車だったのだが、バリウムでは初。おんぼろ遊園地度が一層高まるなあ。

中に入ると、狭い着替えスペースがさらに3人分に区切られていて、ほぼ立っているだけしかないスペースで着替えよと言われる。結構過酷だな、検査車。着替えたら前の人の撮影が終わるまでその場で待機。聞いたことがある技師さんの指示の声が聞こえてくる。はああ、うまくバリウム飲めるかなあ…。口は絶対に先に拭わないと。

そしてついに私の番が。発泡剤を飲む…いけた。バリウムも…どちらもゲップなしで飲み切った。飲んで紙コップを渡すとき、それと引き換えに技師さんが「これで口拭ってくださいね。」とティッシュを差し出してくれた。

ここはちゃんと口を拭かせてくれるタイプ!!!推せる!!!

その後、ぐるぐる回るのもまあ普通にできたし、多少行き過ぎだの戻せだの言われたけれど、指示通りにできたと思う。

検査は無事に終了。下剤をいただいて(便秘の私としては、この後がまた一波乱あるのだが)、検査車を降りた。

回を重ねるごとに、バリウム飲むのも、回ったり体を捻ったりするのも、抵抗がなくなっていっているし、上手くなってる気がするな…これが大人になるってことなのかな。もう口の周りを汚したままにすることもないし、飲めなくて泣きそうなんてこともない。成長だ。

そんなことを考えてちょっと切なくなりながら、頑張った自分にご褒美とか言ってドリンクセットで2000円を超えるお高いハンバーガー食べて帰ってやった。

うまあ!でかあ!


いや、この話はこんな地味な成長物語で終わらない。

職場で「バリウム検査はおんぼろ遊園地」の話をした数日後、その中堅の先生から「ほんとどうでもいいんだけど、バリウム検査の話のやつで、私がめちゃくちゃ面白かったやつ」とLINEで以下の動画が送られてきたのだ。

※文字起こし※

大田区のミキマルさん48歳女性の方、ありがとうございます。

「私の気分が上がるとき」
私は年に一度、胃のレントゲン検査の時、気分が上がります。
10年以上前、初めて検査を受けたときは、あまりに過酷な内容にショックを受けたものです。発泡剤もバリウムも美味しくないし、技師さんの指示は厳しいし、検査台は信じられないような角度で傾斜するし。
そこで、私は自らを「プロの踊り子」と思い込むことにしました。検査台は舞台なのです。技師は舞台監督なのです。舞うのはもちろん、コンテンポラリーダンスです。
プロの踊り子だから、発泡剤もバリウムもまずいなんて言っていられません。ゲップなんて言語道断。
「素早く2回回って!」「もっと速く!」熱血舞台監督の厳しい指導にもしっかり応えてみせます。
決して「私こんな舞台じゃ踊れません!」なんて投げ出したりしません。だって、私はプロだから。
毎年、健康診断の日が近づくと「今年こそ素晴らしい踊りを踊って監督をあっと言わせてやるわ!」と、鼻息を荒くしています。
そして、終演後は、同じく踊り子を自称する友人と「今年のブタカンは指示が分かりにくいわね。」など、愚痴を言い合ったりしています。

リクエストは井上陽水さん「ダンスはうまく踊れない」

安住紳一郎の日曜天国より


プロの踊り子〜〜〜www!


こういうのが、人生を楽しく生きるコツなのではなかろうか。

学ぶべきことがありすぎる!

同じことをしていても、辛いバリウム検査でため息つくのか、踊り子が一仕事終えて颯爽と帰っていくのか…天と地くらいの差があるね。


同じバリウム飲むなら、踊らにゃ損、損!

これからバリウム行くよという方、ぜひともコンテンポラリーダンスをひと舞いしてきなさって。



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