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指揮者ドゥダメルを観る 映画『ビバ・マエストロ!』

音楽ドキュメンタリー映画『ビバ・マエストロ!』 指揮者ドウダメルの挑戦を観てきました。

グスターボ・ドゥダメルってどんな人?

1981年1月26日ベネズエラに生まれ。父はトロンボーン奏者、母は声楽教師。子供の頃は古いレコードを聴きながら、おもちゃを前に指揮をしていたそうです。少年時代、『エル・システマ*(音楽教育システム)』のユース・オーケストラでヴァイオリンを演奏していましたが、たまたま遅刻した指揮者の代わりに指揮をしたことをきっかけに、15歳でアマデウス室内管弦楽団の音楽監督に任命されました。そして、エル・システマ*の創設者であり、指揮者でベネズエラの文化大臣も務めたホセ・アントニオ・アブレウが自らドゥダメルに指揮を教えていきました。
やがて18歳で、エル・システマ卒業生で構成されるシモン・ボリバル・ユースオーケストラの音楽監督に就任s。
こうして10代の頃から天才指揮者として巨匠たちの薫陶を受けてきたドゥダメルは、2004年「第1回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクール」で優勝し、世界中から注目を集めることとなりました。
以下は略歴です。

2008年、27歳でベルリン・フィルを初めて指揮。
2009年、弱冠28歳で名門ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督に就任。
『TIME』誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」にも選出。
2013年、31歳でグラミー賞 ベスト・オーケストラ・パフォーマンス賞受賞。
2015年、33歳でレナード・バーンスタイン生涯功労賞受賞。
2017年、史上最年少35歳でウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートを指揮。
2021年、40歳でパリ国立オペラ音楽監督に就任。パリ芸術文化勲章(シュヴァリエ章(3等)受賞。のちにオフィシエ章(2等)受賞。
2026年、45歳 ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督就任決定。

こうして着実にキャリアを重ね、今では世界中の音楽ファンから愛される指揮者として大活躍しています。

▲母国ベネズエラの若手音楽家から成るシモン・ボリバル・ユースオーケストラを率いたレナード・バーンスタイン作「マンボ」のエネルギーに満ちた演奏動画は世界中で拡散され大ブレイク。その映像と、後半はエル・システマの説明動画となっています。

*エル・システマとは?

音楽による青少年育成を目的として、1975年ホセ・アントニオ・アブレウ氏の提唱により、南米ベネズエラで始まった音楽教育システムです。現在、ベネズエラで約40万人の子どもたちが参加。世界50ヵ国以上で応用プログラムが展開されています。
65億円規模の政府支援のもと、子どもたちは無償で楽器と音楽指導が提供され、高い演奏技術だけではなく、集団での音楽体験を通じて、優れた社会性(忍耐力・協調性・自己表現力)を身につけられるプログラムとして、その有効性は世界中で注目されています。犯罪や非行への抑止力としての役割も果たし、貧困と青少年の犯罪が深刻な問題であるベネズエラで、健全な市民を育成する社会政策の一環として、推進されるようになりました。障害者が参加するプログラムや、刑務所内における更生プログラムとしての運用も行われています。

▲映画『ビバ・マエストロ!』予告編

映画のあらすじ

28歳でロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督に就任したことで注目を浴びた、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルにフォーカスしたドキュメンタリー。本作撮影中の2017年、ベネズエラの反政府デモに参加した若き音楽家が殺害された事態を受け、ドゥダメルは現マドゥロ政権への訴えをニューヨーク・タイムズ紙に展開。大統領府と対立したことでシモン・ボリバル・ユースオーケストラとのツアーは中止に追い込まれ、祖国へ足を踏み入れることすら禁じられてしまいます。
祖国の若者たちと交わした「いつか必ずまた指揮をしに行く」という約束を胸に、世界各地で挑戦を続けるドゥダメル。その最中、2018年、偉大なる恩師、「エル・システマ」創設者マエストロ・ホセ・アントニオ・アブレウが死去。その志を未来へと受け継ぐ使命を果たすべく、ドゥダメルの挑戦する姿を、コンサート演奏やリハーサル風景などを多数盛り込みながら映し出しています。

劇中曲:ベートーベン『交響曲第5番』『交響曲第9番』/プロコフィエフ『ロミオとジュリエット』/ドヴォルザーク『新世界』/アルトゥーロ・マルケス『ダンソン第2番』『ダンソン第9番』/チャイコフスキー『交響曲第4番』 ほか

映画は、ドゥダメルとシモン・ボリバル交響楽団が海外公演のリハサールに取り組むシーンから始まります。本人も『エル・システマ』出身で、ヴァイオリンを演奏してきたことから、若者たちとのコミュニケーションがとても上手く、100人もの楽器奏者のオーケストラをしっかりとまとめる統率力があります。”100年に一人の才能”と言われていますが、本人は本当に純粋な人。アーティストとして成長すること、そして心から音楽の探究を楽しんでいるということが指揮をしている姿から伝わってきます。とても自然に体が動いていて、力みもない。あるインタビューで、本番前に緊張したことがないと言っていました。緊張は自信のなさの表れだそう😅。これは若くして素晴らしい師匠アブレウ氏に学ぶことができ、その経験が蓄積して、アーティストとして創造し再現するという精神に基づいているからなのだそうです。ちなみに「プロとして」という言葉は好きじゃないとのことです。
子供たちに囲まれてサインしまくったり、写真を一緒に撮ったり、全然偉そうなところもなく、この人となら演奏したい!と思わせる、エネルギッシュで情熱的なところがバシバシ感じられます。観ていて元気をいただける映画です。

「すべての花が刈られようとも、春は必ずやってくるー」
恩師が亡くなって、祖国に戻ることも許されず、シモン・ボリバル・ユースオーケストラと一緒に演奏できない彼のこの言葉にジーンときます。映画の途中からは、もう彼の指揮を見ているだけで、ただただ涙が頬をつたってきました。

リハーサルと本番の様子が盛りだくさんに映し出されています。そして、ドゥダメルの貴重な言葉と映像を見ることができます。オーケストラのサウンドも大迫力で楽しめます。

実は2020年、東京オリンピックの年、ベルリン・フィルの指揮者として来日する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症とオリンピックの延期で公演が中止となったのは残念でした。次はニューヨーク・フィルとして来日か?それともどこかの客演かもしれませんが、その時がくるのを楽しみに待ちたいと思います。

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