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古森 もの
2022年11月17日 20:22
ほんのりと切った指先からちいさな金魚がほとばしった赤黒赤黒とめまぐるしいうずにどきりとしながらも水面が静まるのをつつましやかに口をあけて待っていた * 連日の雨により部屋をぱんぱんに満たしていた空気わたしは眼球をもてあそびぬるい泥にくるまれながら傾斜していくわたし自身を天井にもぐりこんで息をひそめて見送っていた (つとつととそのときだ) つやや
2022年10月22日 21:28
ことばに規定されているような気がして、目を覚ました。しろい平野にはもう誰もいらない、「私」すらも。何もつむぐことはできなくて、唯一なし得たことは、つぐまれた口のなかでつややかな乳歯をあたためること。そしてただ、目の当たりにしている今を。永遠を流れてゆける時が、薄ら笑いを浮かべながら行っては来てを繰り返している。何も知らない代わりに、全てを視ている。爪のフチから透明になっていくのをお終いだなんて錯
2022年7月29日 18:38
空は人の感傷のために墜落して黄昏やすく黒猫は不幸にまみれて魔女に飼われることとなった自らの肉体にさえラベルを張りありとあらゆるものが標本となったわたしたちの世界 人のまなざす瞳はしきりに額縁を持ちより一瞬の意味を撮りたがるそして真実は途端に諧謔的になってしまった このひねくれた少年を手放しに愛で続ける底なしの歓心に退路はなくそれ故に誤ってしまうわたしたちはちょ
2022年6月30日 21:32
翡翠の少女が長髪を涼ませるその 川下に一輪の花が 咲いた私がそれを摘み取り彼女に見せる と血色のよいすべらかな舌は一枚 また一枚ていねい に花弁をちぎっては喉の奥へ しまい込む刹那心臓へ頬の血潮 が燃え移るのを知覚 したどくどく と止まないせせらぎは驟雨の ようで私は血生臭い世界の裏側 をざらついた感触と ともに垣間見た花弁を失く
2022年5月5日 17:56
時折人はじぶんの影を見つめているそういうとき人は海のにおいをまといどこか遠くまで行ってしまいそうな気配にわたしはとても怖くなる瞳のうちにうろんな火を燃やし星を墓標として汽車に乗った少年たちがいたあの子たちの哀切はどこから訪ね来るのかわたしたちを通り過ぎてなおホームには潮騒が響いてその風を通すのは胸にあいた硝子窓どうしようもなく光が透ってゆくのでわたしたちの感傷は
2022年2月19日 20:41
折り目をつける生きているうちはどこかでひともはなもそらもどこかに折り目をつけている天気雨に打たれているあじさいをきみは見たかはなが粛々と色を変えゆくことを受け止めて雨に打たれているのをたえまないそらをきみは見たか折りたたまれて裏がえし千代紙のようにひるやよるをくるりくり返しているのをいづれきみは見るのだろう鶴を折るような丁寧さ
2022年2月15日 10:57
ぼんやりするわたしはあやまって卵を落とした落とした卵を目だけはしっかり捉えていたので「卵を焼いて食べなくちゃあ」「今日も八時に行かなくちゃあ」とそれら細胞の伝言遊びに太陽は頭のてっぺんをきつきつとのぼってわたしは頭痛のせいでもうひとつ卵を落とした「イカロスでなくわたしを撃てばよかったのよ」と落ちゆくきみらはささやいていたさようならなんて本当はないのだと
2021年11月17日 17:21
この世を脱ぎ捨てる。パジャマに着替えて眠る。明日は烏が降る。窓辺の幽霊に微笑む。カーテンは終幕する。終わりが近く。嫌いだという感情が。眩しくて眩しくて。費やしたい傷跡。交錯する月。私追放されたの。膿んでくれてありがとう。