古森 もの

詩を軸として。|合同詩誌「うみのいきもの」|青森県詩人連盟|芽部|詩誌「フラジャイル」|

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  • 詩作品まとめ

  • よるのみずうみ。

    日々のくぼみとして、思考の記録、日記のようなもの。

  • 白い部屋

    ここは、間違いだらけだった————

  • 【短編集】てのひらは、かごとして。

    古森もの のショートショート集です。

  • Twitter詩

最近の記事

【短歌】瞬きのようなもの。

拝啓、みずうみへ。 大切なみんなのためにぼくは目とことばを注ぐ 春のみずうみ 桜から伸びる両手を頸にかけ ぼくもぼくとてすこしずつ散る どのように切ってもいいよと君が言い ちょきりとずれた夏の遠景 おしまいを抱えていつか花束になってしまえる 空が高いね ないよりも、あるほうが怖い。わたしたち、だから生きてて夏に似合うね。 感情はどうやらぼくを支配したい、頭蓋を脱いで、いま空が高い。 思い出の染みを抜くのが時間なら永遠になる夏のベランダ 音楽の数学的な匂いは涼し

    • 2024/9/8 序篇

       愛よりも先に、生きるうえでのごく狭量な「正しさ」を学んでしまって、今まで多くの物事を傷つけてきた。それが自覚としてある。妹だったり、かつての親友だったり、相手は色々だけれど、生活における弛みのようなもの、横道にそれる不健康さを、かつてのわたしは許してはいけないものだと信じていた。  簡単に言えば、そういう「家庭」だった。必要な話し合いすらうやむやにされてしまうような沈黙による支配、その冷たさ。周囲の大人の眼差しからこぼれる、世間体への並々ならぬ恐怖。生きる大地の広大さだけで

      • 2024/09/07 書くこと、すくうこと。

         耐えられない、耐えられないと思う。指先が懸命に走る、その原動力がどこにあるのか自分でもわからない。熱い、とにかく熱い。心臓が燃える、頬と額が灯りだす。呼吸が上手くできなくなる。誰が分かってくれなくても、自分はここにいるのだと、ひしひしと伝わってくる。熱を出した時、自分の発する体温で、暖めなおされるようなあの感覚。ああ、わたしは最高に今ひとりだ、この世界はわたしのものだと、白紙を前にしてようやっと安心できる。  現実との落差、分かり合えないことばかりが増えて、延々と続く洞穴に

        • 2024/05/19 怖がりと近視

           たやすく、たやすくなるために生きてきて、わたしは目ばかりになってしまった。あります、います、ということが恐ろしく、本を読むのは好きだけれど、物語にはなりたくなかった。じゃあどうすればいいの? と考えたとき、もう書く側になるしかないと気が付いた。  そうして、わたしは眼差すことばかりに熱中して、どんどん春みたいに近視が進み、今のこの気持ちだけはせめて、たやすくならないようにしたい、と願っている。  まあそれはともかく、「ある」ということについて述べるのなら、詩を書くことは

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          11本
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          9本
        • 白い部屋
          1本
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          18本

        記事

          01

           生きていくために、母を縊った。背中から生えた腕が、無意識の海に呼応した、私の強い感情がもたらした、始めての結論だった。その長い指の不思議な膂力のため、母の首は締まるに留まらず、白い壁のせいでずっと無惨に見えた。私の流すものと同じものが、彼女の身体にも流れていたということ。そんな当たり前にようやく気づき、吐き気が止まず仕方なかった。しばらくの嗚咽を、腕は石膏のように聴いていた。慰めるでも、害意をもよおすでもなく、それは茫然とただ感覚していた。

          月ウサギは耳で飛べるか?

           人間は、地球が欠けることを知っているのかな、とU-404は思った。打ち上げに失敗したり、金儲けに凝ったり、戦争に夢中になるうちに、彼らはすっかりわたしたちのことを忘れてしまって、音沙汰がない。ただ、果てしない暗闇に放り出された先祖たちの記憶が、時々冷たい水になって耳元に流れてくる。凸凹ばかりの地面に立っていると、それさえも愛おしく思えてくるから不思議だ。彼らはわたしたちを追放し、ここには草の一本もない。宙に投げ出され、息をすることもままならなかった同胞は、一瞬のうちに萎んで

          月ウサギは耳で飛べるか?

          【短歌】夏であることの意味。

          空中にふゆうしている僕たちは鳥を鳥だと思わないように 雑踏のなかで寂しい貝になる、それでそれでって続きは言わない 目だけをね、覚ましてしまって僕たちは海岸線にたましいを置く けたたましいけたたましさの中にあるたましい掬い取って青いね 感情は暴力だよと君が言い、なぞらず崩しているよオリオン むささびが飛んでいる夜に吐いた嘘、今も元気にしてるだろうか 黒糖を宝石みたいに食べること羨ましくて君は罪人 うめしごと、つぶやく口の酸いとこで蛙を飼ってすこし涼しいね 植物で

          【短歌】夏であることの意味。

          2023/09/02 うでのなか。

          わたしが怖がりなのには理由があって、 それが幼少期の、積み重ねられた経験であることに 違いがないのも知っている。 むしろ、知らないことを恐れるのは いつも大人の方であって、 肉体的には抱き留めても 心まで、その腕を伸ばしてくれることはなかった。 誰かを本当の意味で抱えることは、 どんなに大きくなっても、偉くなっても、 そうそう簡単に、できることではなくて。 ただ、抱き留めはしなくても 無口な壁でいることはできるんじゃないだろうか。 でも、無口でいることって、 それはそれ

          2023/09/02 うでのなか。

          【Twitter詩】2023/08/22

          真夏を泳いだ先でみつけた、ひとひらの。うるおうことはとめどなく、左右から叩きつける、雨。その中であなたは、お気に入りの歌をくちづさむ。すこし歪んで、調子外れの。踵が浮いて、日傘を差す。真新しい音が浮かぶたびに、舌の上でるりが割れる。ぱちり。涙は、白亜紀からやってきた、むかし馴染みの旅人です。

          【Twitter詩】2023/08/22

          【Twitter詩】2023/08/21

          名前を愛していること。形づくることの麓に、わたしたちは暮らしていて、意識を保つための硬度、それは口に含むと冷たいね。冴えざえとした、はっきりとしたものを自らの光として、血流を回している。わたしは風になる。背景としたものが、その他すべてにとっての拠り所だとしても構わない。構わないからなり得た、この体を、今静かに折り畳む。

          【Twitter詩】2023/08/21

          2023/08/29 それは、たゆまぬ行進の。

          つぶさには見えないものに直面するたびに、 自分の見ているものが、信じられなくなることがある。 それは、不安と着地するにはあまりにもおぼつかず、 吐いてしまいそうになる言葉をこらえて ようやっと、携えられるような。 体は、たゆまぬ行進だ。 意に反することが出会いの過半数を占めるのに、 狂わずにいられるのは 安易な意味と、抱きとめるような諦念を 覚えてしまったからなのか。 潰えてしまいたい夜には ラーメンでも食べにゆこう。 すこしはおなかもあったまって、 眠くなるかもしれない

          2023/08/29 それは、たゆまぬ行進の。

          【詩】金魚

          ほんのりと切った指先から ちいさな金魚がほとばしった 赤黒赤黒とめまぐるしいうずに どきり としながらも 水面が静まるのを つつましやかに 口をあけて待っていた       *   連日の雨により 部屋をぱんぱんに満たしていた 空気 わたしは眼球をもてあそび ぬるい泥にくるまれながら 傾斜していくわたし自身を 天井にもぐりこんで 息をひそめて見送っていた   (つとつと とそのときだ)   つややかな切っ先が 水を薙ぐ気配 たった一言も 特別ではない陽光が 偶然のように指し示

          【詩】金魚

          【詩】はくしのこえ

           ことばに規定されているような気がして、目を覚ました。しろい平野にはもう誰もいらない、「私」すらも。何もつむぐことはできなくて、唯一なし得たことは、つぐまれた口のなかでつややかな乳歯をあたためること。そしてただ、目の当たりにしている今を。永遠を流れてゆける時が、薄ら笑いを浮かべながら行っては来てを繰り返している。何も知らない代わりに、全てを視ている。爪のフチから透明になっていくのをお終いだなんて錯覚して、からだだけが次へと始まろうとしている。ただの音楽、とも捉えてしまいそうな

          【詩】はくしのこえ

          【詩】世界とかわいいわたしたち

          空は人の感傷のために 墜落して黄昏やすく 黒猫は不幸にまみれて 魔女に飼われることとなった 自らの肉体にさえラベルを張り ありとあらゆるものが 標本となった わたしたちの世界   人のまなざす瞳は しきりに額縁を持ちより 一瞬の意味を撮りたがる そして真実は 途端に諧謔的になってしまった   このひねくれた少年を 手放しに愛で続ける 底なしの歓心に退路はなく それ故に誤ってしまう わたしたちはちょっとかわいい   大地は人の母となり 全てを受け入れ 鳩は託された祈りの重さに

          【詩】世界とかわいいわたしたち

          【詩】翡翠の少女

          翡翠の少女が 長髪を涼ませる その 川下に 一輪の花が 咲いた 私がそれを 摘み取り 彼女に見せる と 血色のよい すべらかな舌は 一枚 また一枚 ていねい に 花弁をちぎっては 喉の奥へ しまい込む 刹那 心臓へ 頬の血潮 が 燃え移るのを 知覚 した どくどく  と 止まない せせらぎは 驟雨の ようで 私は 血生臭い 世界の裏側 を ざらついた感触 と ともに 垣間見た 花弁を 失くした 花は熱射病 に もがき苦しみ 工場廃水 のため 白魚は溺死した だが 少

          【詩】翡翠の少女

          【詩】夏の透影

            時折 人はじぶんの影を見つめている そういうとき 人は海のにおいをまとい どこか遠くまで行ってしまいそうな気配に わたしはとても怖くなる 瞳のうちにうろんな火を燃やし 星を墓標として汽車に乗った少年たちがいた あの子たちの哀切はどこから訪ね来るのか わたしたちを通り過ぎてなお ホームには潮騒が響いて その風を通すのは 胸にあいた硝子窓 どうしようもなく光が透ってゆくので わたしたちの感傷は 夏の汗となり背筋を滑り落ちる 出発を告げる汽笛は 朝陽にやわらぐもの 夜の別

          【詩】夏の透影