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【詩】金魚

ほんのりと切った指先から
ちいさな金魚がほとばしった
赤黒赤黒とめまぐるしいうずに
どきり
としながらも
水面が静まるのを
つつましやかに
口をあけて待っていた
 
    *
 
連日の雨により
部屋をぱんぱんに満たしていた
空気
わたしは眼球をもてあそび
ぬるい泥にくるまれながら
傾斜していくわたし自身を
天井にもぐりこんで
息をひそめて見送っていた
 
(つとつと
とそのときだ)
 
つややかな切っ先が
水を薙ぐ気配
たった一言も
特別ではない陽光が
偶然のように指し示す方へと
空腹な指先が
まばゆさを口にしたくて
めくりあがった
 
ぷつ、とやぶれた
皮膚がちりり、と熱を帯びた
傷ついたことにより
はじめて生まれた
金魚は
軽やかに呼吸を束ねると
天井に弾けてしまった
夢のように
まとえる空間の全てが
一瞬で費やされた
 
    *
 
わたしは部屋のきつい窓を
こじあけようとした
空腹というものの
まるみを
思い出してしまったから
みずみずしい大気を
はやくこの血に流したい
 
飽和する金魚たち
かれらが血管のなかで
こまやかに
ひれをはためかせているのを
感じている


※本作は2022年9月、『現代詩手帖』に初めて投稿した作品です。


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