見出し画像

「オットーという男」を気軽に観て号泣した夜

うわあ、これ、典型的な老害じゃん。

スーパーマーケットのレジで店員さんに声を荒げるオットーという高齢男性に、私は思わず顔をしかめました。それは最近よく聞くようになったカスハラのようでもあったし、理屈っぽいことを言って周りを辟易させる老害にも見えたのです。まさか、このおじいさんにわんわん泣かされることになるとは想像もしていませんでした。

オットーの1日は近隣住宅地のパトロールから始まります。でも、小学校までの登校を見守る、温かい黄色い側のおじさんのような見回りではありません。チラシが投げ込まれていないか、ゴミの分別は正しいか、許可を得ていない車が侵入してきていないか、ペットが庭におしっこをかけていないか。徹底的な秩序の維持で、守られていなければ怒鳴り声を上げるんです。めっちゃしつこいし、めっちゃ神経質。それがOTTO、オットーです。

そして彼は、あのてこの手で死のうとしています。最愛の妻を亡くし、その後を追いたいと願っているのでした。妻こそがオットーの心の柔らかい部分、人間らしい部分に繋がっているのですが、亡き妻との思い出は死のうとする度に近づいてきます。彼らにどんな日々があったのかを、私たちは物語の後半にかけて、ゆっくりと知っていくことになりました。

そんなオットーのお向かいに、とある家族が引っ越してきます。ふわりとしていて頼りなさげなお父さんと、早口で外国の言葉を話すお母さん。そして二人の子供たち。このお母さんが人懐っこい人で、オットーの世界をこじ開けていくのです。オットーもたいてい不機嫌そうに対応するのですが、近隣住民を完全に無視もできないようで、なんだかんだと関係を築いていきます。

この物語は、オットーのどんな経験が彼を孤立させていったのか、彼がどうやって死にたがりの神経質おじいさんから、住民との交流を取り戻していくかを描いた作品です。

確か「コメディ」と書いてあって見始めて、確かに面白いところもあるんですが、細かく彼の人生に触れる場面が挟み込まれて毎回泣いてしまいました。もう、最後は号泣と言っても過言ではありません。ちなみに、オットーがめっちゃ愛想の良いおじいさんになることはなく、終盤にかけてもむすっとはしているのですが、その中に見える優しさがまた沁みます。

落ち着いた夜にゆっくり見る映画として、おすすめです。くれぐれも気軽なコメディだと思わないように。


いいなと思ったら応援しよう!

mayu
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。 スキやシェアやサポートが続ける励みになっています。もしサポートいただけたら、自分へのご褒美で甘いものか本を買います。