年齢や周囲の目にとらわれなくっていい。陶芸歴半年のOLが、グループ展開催でくれる勇気
陶芸をはじめて半年で個展を開く。そんなアイデアが浮かんだとき、あなたなら腰が引けるでしょうか。それとも前のめりで準備ができるでしょうか。多くの人は、「もう少し練習してから」「もっと上手なひとがいるから自分なんて」などと理由をつけて、やらない選択をすることが多いと思います。
今回お話しした杏珠さんは、陶芸を始めて半年でグループ展の開催を決めたそうです。それから準備を重ね、まだ1年未満と陶芸経験が浅い中で展示を迎えました。その間に陶芸と向き合いながら、自身の変化にも気付いたとか。なぜ陶芸なのか、そしてどんな思いが込められたグループ展なのか、気になるお話を伺いました。
ニューヨークのマルシェを発端に、イベント企画の強みがグループ展につながった
ーー陶芸を始めて半年でグループ展の開催を決めるというお話に、率直にいうとすごく驚きました。
びっくりですよね。陶芸へのこだわりというより、もともとグループ展を開いてみたかったんです。いつか海外でミュージカルを観ながら、自分もアウトプットとして作品作りをし、それを売って過ごしたいという思いがあります。今回はその一歩になったらと考えています。
ーーグループ展が最初にあったのですね。なにかきっかけはあるんでしょうか
昨年度の年末年始に3週間ほど、観劇のためにニューヨークを訪れ、現地でいろんな人が作品を売っているマルシェにも行きました。経験豊富な人もいる中、始めたばかりで売る作品が5個しかない人や、インスタのフォロワーが30人ほどしかいない人もいて、ニューヨークのアウトプットの気軽さに驚いたんですよね。
ーー作品づくりがそんなに身近なんですね。どうやってグループ展に繋がりましたか
帰国後、元シェアハウスの同居人に、マルシェに興味があると話しました。海外から気に入った雑貨を買い付けて売って、その一角に自分の作品も飾れたらなあというふうに。そうしたらその子も「実は絵を描いていて、いつか展示したいと思ってたんだよね」と話してくれて。自分はイベント企画できるよ、もうひとり誘おう、ととんとん拍子で進みました。
そんな流れで3人が集まり、やってみよ〜!となったんです。昔から誰もやったことのないことをやるのが好きで、0から1を生むのは仕事でも趣味でも得意です。イベント企画もインターン生時代から7年ほど続けているので、自分が貢献できる強みだと思いました。
ーーイベント企画にはどんな魅力があるのですか
イベントは場づくり、体験づくりで、参加者のきっかけ作りになることもあります。人の心が動く瞬間を見るのが好きなので、イベントに来た人が、明日から頑張ろうとか、自分もやってみようかなとか思ってくれたら、とてもうれしいです。
商品と作品づくりの間を揺れながら、自己表現の陶芸にたどり着いた
ーー作品づくりにはどうして惹かれたのでしょうか。
本業のマーケターは、作りたいものというよりもニーズから逆算して商品を作る仕事です。実は高校生時代にミュージカル部にいた時から、自分たちがやりたいことをしている一方、お客さんのニーズに合うものを作ったら面白いんじゃないかと考えていました。
ここ数年、フリーランスのクリエイターさんと一緒に働くようになって、ものを生み出せる人のすごさを感じ、かっこいいなと憧れました。
そこからとにかく自分の作りたいものを作りたいという思いが出てきました。ニーズに合わせた商品づくりと、作りたいままに表現する作品づくりの間を、ずっと行ったり来たりしている感じです。
ーー作品づくりをしようと思ったとき、どうして陶芸だったんでしょうか
思い返せば、華道の先生の祖母の影響で、昔から家に陶器がたくさんありました。大人になってお花を買うようになると、自分も花瓶に興味を持ち始めました。そしてコロナ以降、舞台の代わりになる、表現できるものを見つけるためにさまざまな教室に行ったのですが、陶芸が一番しっくりきたんです。
折り紙の端と端が合わせられなかったり、裁縫が苦手で衣装を両面テープで作ったりするほど不器用なんですが、陶芸は自分に馴染み深いダンスに近いものを感じました。マーケターという仕事柄、今では街に出てもスマホを見ても、全部が仕事を連想させます。そんな中で土に触れ、土しか見ない時間を意図的に作って、リフレッシュしています。
ーーどのような経緯で円形の作品を作られるようになったんですか
花瓶を探していたときに、インスタグラムで素敵だなと思った方の作品が円形の陶芸でした。その方のポップアップに行って、作り方でわからないところを質問したんです。せっかく教えてもらったので、頑張らなきゃと思いました。
グループ展のために、1月から陶芸教室にも通っています。好きなものを作っていいよというおおらかな先生で、お皿もちゃんと作れない初心者だけれど、円形の花瓶だけは作れるようになりました(笑)
誰かの期待や成長を気にせず、好きなことをする自分を受け止める
ーー観劇のために海外にいくほど大好きなミュージカルは、杏珠さんにとってどんなものだったのでしょうか
中学校のオープンキャンパスで出会い、ミュージカル部に入部しました。でも6年間全力でやり切った高校3年生で、ミュージカルしかしてこなかった自分への漠然とした焦りが生まれて怖くなったんです。将来どうやって活かすの?って。
同じ学校の人以外にはミュージカル部と言っても通じず、「相撲部並みに珍しいよ」って言われたことがあります。ニッチな分野なんだと改めて自覚して、大学4年間と社会人2年目くらいまで、ミュージカルから離れてイベント企画など別のことに打ち込んでいました。
ーーそうだったのですね。それからまたミュージカルを観るようになったきっかけはありますか
新卒からフリーランスに関わる仕事をしてるのですが、ニッチな人がたくさんいて、一つを極めている人の話がおもしろいなと思いました。それに、切り口をビジネス観点などに変えれば、観劇自体には興味のない人にもおもしろがってもらえる手応えもつかみました。
限られた舞台という空間で想像力をかき立てる表現と、曲が好きだというのが、ミュージカルに感じる魅力です。学生時代に唯一自分で選んだもので、精神的に厳しいときにも支えてくれたミュージカルは、やっぱり自分にとって特別でした。
ーー学生時代から、現在までに自分が変化したなと思うことは他にありますか
昔は、アウトプットを出さないといけないと常に時間に追われていました。予定を断れず、1日にランチを2回することがあるくらいでした。人脈を作る、成長に繋げるためなど、何かしらの目的がないと怖かったんです。最近は、目的がない時間の過ごしかたを受け入れられるし、誰かの期待に応えなくてもいいと、穏やかな時間を過ごせるようになりました。
今は心に余裕があるからこそ、3人でのグループ展ができたと思います。人と足並みを揃えることが苦手で、自分にも他人にも厳しいところがあると思っています。でも今回は一緒に住んでいたメンバーだからこそ、それぞれのペースもわかるし、得意分野も違うから、無駄に気を揉まずに進められています。
自分の向かいたい方向くらい自分で決められる人でいたい
ーー今回のグループ展のテーマ「セルフハグ」に込めた想いを教えてください
グループ展にあたって、ニーズや誰かの目を気にするのではなく、自分のために作ろうと3人で決めました。私は陶芸ですが、それぞれが好きなものを好きなように作ることを楽しんでいます。
最近はSNSの投稿ですら、友達や他人の目を気にする人が増えているじゃないですか。でも、無駄だなと思ってることにこそ価値があるから、今からじゃ遅いかなとか、周りはどう思うかとか、ためらいがある人にグループ展をきっかけに一歩踏み出してもらえたらな、なんて思っています。
あとは、自分を抱きしめたときにできる「円」が、私がつくる円形の花瓶に似ているってことで、円がひとつのテーマなんです。
ーー杏珠さんの姿勢に勇気付けられる人はたくさんいると思います。人の目を気にせずに生きるって、難しいですもんね。
今はAIなどの技術が発達して、人の仕事を奪うとも言われる中で、自分だからこそできることに価値があると思ったんです。人間である自分が幸せに生きるために、向かいたい方向くらいは自分で指し示せる人でありたいと思ったんですよね。
自分の好きなことややりたいことに素直になり、選択できるのが大切だと思っています。陶芸を始めて半年でグループ展をしてる人もいるんだから、年齢や経験にとらわれなくても、今からでもなんでもできるのだと伝えたいです。
ーーすてきな想いのこもったグループ展を、楽しみにしています。ありがとうございました。
好きなものを食べたり、好きな服を着たり、日常の中でも周りの目ではなく自分の好きなものを選択する機会はあるのだという杏珠さん。あなたもこのグループ展をきっかけに、明日は好きな服を着てお出かけしてみませんか。