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【読書】武器になる哲学|哲学の使い方がわかる
私のバイブルの1冊です。著者の山口周さんが豊富なコンサル経験をもとに、"使える"哲学や思想のコンセプトを取り上げた本。
よくわからない学問とイメージされがちな哲学を、「いかに役に立つか」「役に立つものだけ紹介する」という功利的な視点でとらえるスタイルは目から鱗。
組織で働くビジネスマンに超おすすめ。以下、本書を引用しつつ、気になった点を記録します。
哲学を学ぶ4つのメリット
俗に地頭が良いと言われる人は、この哲学的な思考が自然にできているような印象があります。
1.状況を正確に洞察する
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「いま、何が起きているのか、これから何が起きるのか」という問いは、ビジネスパーソンが向き合わなければならない問いの中でも最重要なものでしょう。このように重要な問いについて考察する際の、強力なツールやコンセプトの数々を与えてくれるのが哲学だということになります。
クライアントとの会議で、課題が整理されておらず、問題の輪郭が不明確な状況や問題の原因が整理できない場合がある。
ただ、こうした状況でも、哲学や心理学、経済学のコンセプトを適用することで、新しい視点や洞察を得たり、問題の見通しを明確にすることができることがある。
ある意味で、これはビジネスでよく使われるフレームワーク(例: PDCAやSWOTなど)よりも、より根本的な思考の枠組みであると言える。この本では、具体的な例を交えながら、このアプローチを解説しています。
2.批判的思考のツボを学ぶ
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「自分たちの行動や判断を無意識のうちに規定している暗黙の前提」に対して、意識的に批判・考察してみる知的態度や切り口を得ることができる、というのも哲学を学ぶメリットの一つとして挙げられると思います。
常識に縛られず、自分たちの考え方やアプローチを柔軟に見直すツールとして、哲学が役立つことがある。これは一般的にクリティカルシンキングと呼ばれる思考プロセスの一部。
古い考え方やアプローチを批判的に検討し、新しいアイディアを提案すること。仕事の中ではこれが当たり前のことかもしれないけど、「古い考え方を改める」ことには必ず抵抗が生じる。
これについて説得することも、これまでの哲学者が行ってきたことの一つ。
3.アジェンダを定める
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アジェンダとは「課題」のことです。なぜ「課題を定める」ことが重要かというと、これがイノベーションの起点となるからです。
イノベーションの追求は課題設定能力を高めることが重要。そのためには、異なる視点から日常の常識を相対化するスキルを養うことが大事で、教養を広げることが有効だと述べられています。
「常識を疑え」と言われることがあるが、その中でも「見送っていい常識」と「疑うべき常識」がある。その選球眼を持つために、幅広い教養が役に立つ、とのこと。
過去にnoteにも書いた『イシューからはじめよ』と主旨は同じ。マネジメントが求められる立場になるほど、課題設定の重要性が謳われますね。
4.二度と悲劇を起こさないために
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これまでに人類が繰り返してきた悲劇を、私たちは今後も繰り返していくことになるのか、あるいはそこで払った高い授業料を生かし、より高い水準の知性を発揮する人類、いわばニュータイプとして生きていけるかどうかは、過去の悲劇をもとにして得られた教訓を、どれだけ学びとれるかにかかっていると、私は固く信じています。
よく言われる「歴史に学べ」ということ。過去の悲劇的な出来事から学び、愚かな選択を避け、高い知性を発揮し、将来の悲劇を回避するために、哲学の教訓を活用するよう奨励されています。
特に実務家に対して、自己流の世界像に基づく誤った理論を捨て、哲学的な視点を持つことの重要性を強調。
気になったところ
本編では50種類もの「哲学・思想のキーコンセプト」が具体例とともに紹介されていて、問題解決や洞察を得る際の有用なツールであることを強調されています。
その中から、3つ取り上げてみます。
ルサンチマンとビジネスチャンス:ニーチェ
弱者の嫉妬がビジネスチャンスになるという話。
ルサンチマンは、弱者が強者に対する嫉妬や劣等感などの複合感情を指す。この感情が価値判断や行動に影響を与え、その解消のために人々は商品やサービスを求める。
ルサンチマンにより人々の価値判断が歪むことで、自己肯定感や優越感を求める欲求が生まれ、ビジネスチャンスとなる。
ルサンチマンがビジネスチャンスになるのは、人々が自己肯定感や優越感を得るために高級品やブランドなどを求める傾向があるから。
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これにより、市場が成長し、商品やサービスの需要が増大する。価値判断の歪みは、人々が自分の価値基準や価値判断を転倒させてまでルサンチマンを解消しようとすることにつながる。
ルサンチマンは人間がいる限り無限に生み出せる。それに対して価格がつけられているから、特に高級品や優越感を提供する業界では、ルサンチマンの解消を促進するマーケティングが行われ、市場の拡大につながっている。
フローの追求:チクセントミハイ
自分の能力を発揮し充実感を得るためのヒント。
自分の技量とタスクの難易度は、ダイナミックな関係であり、フローを体験し続けるためには、その関係を主体的に変えていくことが必要だということです。
仕事の充実感や他者の力量を引き出す方法について考えるビジネスリーダーや個人に向けて、この課題が提示。
自己成長と幸福を追求するためには、自分のスキルと挑戦のバランスを調整し、居心地の良い「コンフォートゾーン」を超えて「不安」や「強い不安」のゾーンに向かう必要性を示唆。
自分の能力を最大限に発揮するには「フロー」の状態を追求し、自己成長に取り組むことを奨励。
「フロー」の状態に至るためには、挑戦レベルとスキルレベルのバランスを調整し、不安や強い不安のゾーンに向かう覚悟を持つことが必要かもしれない。
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無知の知:ソクラテス
「無知の知」は、聞いたことがある人も多いんじゃないでしょうか。単純に言えば、「知らないことを知っている」こと。この認識があって、初めて学びのプロセスが始まる。
ソクラテスが指摘するのは、その前段階の「知らないことを知らない」という状態。これはただ「知らないこと」よりもさらに深刻なもの。
最近、Vtuberが「化学」を"ばけがく"と読みました。これは「科学」と区別するための一般的な読み方なのですが、それを知らない視聴者に嘲笑される出来事がありました。視聴者の「知らないことを知らない」という状態が悪い形で浮き彫りになった一例です。
私たちは容易に『わかった』と思ってしまいがちです。しかし、本当にそうなのか? 英文学者で『知的生活の方法』の著者である渡部昇一は『ゾクゾクするほどわからなければ、わかっていないのだ』と指摘しています。あるいは、歴史学者の阿部謹也が、その師である上原専禄から『わかるということは、それによって自分が変わることでしょう』と言われたというエピソードはすでに紹介しました。両者ともに『わかる』ということの深遠さ、自分へのインパクトを指摘しているわけです。
この本、内容が濃すぎて何回も読み返しています。Amazonレビューも超高評価。ぜひ入手してみてください。
カバー写真の表紙画像は版元ドットコムさんからお借りしました。
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