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ソン・ウォンピョン著『アーモンド』の感想

ソン・ウォンピョン著、矢島暁子訳『アーモンド』

年末年始に読んで心に残った作品の感想メモです✍🏻

あらすじ

生まれつき扁桃体が小さく、感情をうまく感じ取れない主人公ユンジェ。

彼は、母と祖母が目の前で凄惨な通り魔事件に遭遇した際にも動揺を見せることはありませんでした。

孤独な高校生活の中で、ユンジェは不良少年ゴニと出会います。

一見相容れない二人が少しずつ心を通わせていく様子はぎこちなくも温かいもので、人と人が繋がることの不思議さや尊さを感じました。


感想

ユンジェの視点で描かれる物語は感情が削ぎ落とされた簡潔な文体で、事実ベースで進むのでとても読みやすかったです。

その分、彼が恋をしたりゴニとの友情を築いたりする場面では、彼なりの感情が立ち上がり揺れ動く様子が印象深く残りました。

競争社会が狭める共感の余地

著者と訳者のあとがきを読んで、この物語が韓国の厳しい競争社会を背景にしていることが伝わってきました。

効率や成果を重視する社会では、他人の痛みに寄り添ったり、自分の感情に丁寧に向き合ったりすることがかえって生きづらさに繋がることもあるでしょう。

わたしたちが「正しさ」や「優秀さ」という光を一挙に目指せば目指すほど、その影となったものに愛や共感が与えられる余地は狭まってしまう。そんな現実が、ユンジェの物語を通して静かに問いかけられているように思いました。

診断名の背景にあるもの

ユンジェの状態は医学的には失感情症(アレキシサイミア)とされています。

確かに一般的なものと比べると控えめかもしれませんが、彼の中にも感情の芽生えや変化はあり、ふとした瞬間にその存在が感じられる描写が印象的でした。

診断名が付くことには、周囲の理解が深まり、支援の幅が広がるといったメリットがあると思います。一方で、その人自身の特性や個性が病的に見なされてしまうことの危うさについても考えました。

幸せのヒントは、病名だけでは語り尽くせない「その人らしさ」や「自分らしさ」にどれだけ目を向けられるかに隠れているのかもしれません。

ユンジェの母や祖母、それから彼に関わる人々の優しさや葛藤に触れて、普通とは何か、幸せとは何かを問い直す時間をもらえた気がします。


おわりに

ユンジェを「普通の人」として育てたかった母の気持ちと、「怪物」でも愛していた祖母の気持ち。そのどちらも理解できる自分がいました。

ユンジェにとっての幸せ、そして周りの人にとっての幸せ。その間で揺れる答えのない問いが、物語の余韻として心に響いています。

人間は柔軟で、変化する力を持っていると思います。ですが、自分自身や目の前の人をそのままに受け入れることは、簡単なようでとても難しいことですよね。

この本を読みながら、「変化したい自分」と「そのままでいたい自分」のどちらもが心の中にいることに気づきました。そしてその矛盾を抱えながら、これからも人と関わり、繋がっていくのだろうと感じました。

『アーモンド』は、感情を共有しながら周囲と関わることの意味を優しく問いかけてくれる一冊です。

ユンジェの物語を通して、どんなふうに他者と向き合い、どんなふうに自分を受け入れていきたいのかを考えるきっかけをもらえたように思います📚


韓国のドラマや映画は好きでよく観ますが、韓国文学にもやはり独特の視点があって惹き込まれました。

「韓国・フェミニズム・日本」をテーマにした短編集『あなたのことが知りたくて』も面白かったです。

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