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「FF14TRPG」、元ネタ「D&D」と比べて解説してみた(NGC配信版)

※最終更新:2023/9/21 商品化発表に伴い内容の見直し

先日、『ファイナルファンタジー14のTRPG』という話題を目にした。市販されているものではなく、公認の配信のいちイベントという扱いではあったが、一つ自分の目を引く要素があった。

どうもそのシステムは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をベースにしているらしい。

D&Dを布教せんとする者として機会に飢えていた私は、この記事を書くこととなった。
もちろん配信はD&Dを知らないと理解できないという物ではないので、副読本程度にご覧頂きたい。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とは?

読者の中にはもしかしたらこの名前に聞き覚えがあるかもしれない。1974年に生まれたD&Dは、卓上の戦争シミュレーションゲームを元に生み出された、元祖「ロールプレイング・ゲーム」である。

今でこそコンピューターのRPGと区別してTRPGと呼ばれるようになったが、元祖RPG、そして元祖ファンタジーRPGとして、現代のゲーム、そしてファンタジージャンルの礎となっていると言っても過言ではない。

その存在はFFとも深い関わりがある。RPGを簡略化しとっつきやすくした『ドラゴンクエスト』の流行に対し、FFはより「正統派」で源流に近い作品を目指し、DQ1にはなかったパーティ戦闘や職業の概念の導入、より「モンスター」らしいモンスターのデザインなどを組み込む中で、D&Dを多大に引用した経緯がある。

今回の『FF14TRPG』のベースとなったのは、もちろん最新の第5版。複雑化の一途を辿っていた第3/3.5版、システムの大幅刷新に伴い別ゲーとも評された4版の後、単純化と原点回帰を目指し2014年に正式公開された。

アメリカのプロ声優がまるで身内卓のような雰囲気、それでいてガチでD&Dをプレイするネット配信シリーズ『Critical Role』(アマゾンプライムで『ヴォクス・マキナの伝説』としてアニメ化もされた)の社会現象的人気や、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』などにも後押しされ、海外では新世代のD&Dブームを生み出し、留まるところを知らない。

D&Dのオープンライセンス

しかし既存システムを改変して、権利関係は大丈夫なのかと思うかもしれないが、ここにカラクリがある。

配信上でも軽く触れられていたが(配信アーカイブ 10:11)、第3版以降の版元であるウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、「オープン・ゲーミング・ライセンス」として、以下の条件に従う限り、D&Dの基礎のルールを自由に使用、改変してもよいとしている。

かいつまんで言うと、

  • 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の名前を出さない

  • D&D公式の世界観に登場する固有名詞や、一部の種族名(ビホルダー、イリシッドなど)を出さない

  • 同梱の文章(SRD=System Resource Document)を越える範囲のD&Dのルール内容に言及しない

このライセンスの関係上、配信では「オリジナル」を名乗っていたという訳だ。

これにより、海外では例えば「5e」(5th Edition=第5版)などと銘打ってサードパーティ製のサプリメントを出したり、改変したシステムを販売する(例えば第5版を元に「ダークソウル」を原作とするシステムが発売されている)などといった事が盛んに行われている。

ゲームシステム

ゲームシステムの解説は、配信中やTwitterで公開されたキャラクターシートを参照しながら行う。

使用するダイス

配信で使用されたダイスは、プレイヤー側は20面、6面、10面の3種類、GMは8面も使用していた。また、配信では登場しなかったが、D&Dでは4面も使用する。
このうち、20面は各種能力値を用いた判定、それ以外は主にダメージや回復に使う。

レベル

キャラクターシートにはFF14的なジョブレベルの隣にカッコ書きでゲーム上のレベルが書かれている。D&D5eのキャラクターレベルは1から20まであり、ルールブックでは基本的なキャラクターの強さのイメージをレベルで4段階に分けている。

  • 1~4:駆け出しの冒険者。主な相手は農場や村々を脅かすレベルの脅威。

  • 5~10:一人前の冒険者。都市や国レベルの脅威を相手取る。

  • 11~16:常人とは一線を画する力の持ち主。敵は地域・大陸クラス。

  • 17~20:世界一つや多元宇宙レベルの敵と戦える大英雄。

ステータス(能力値)

一部能力の名前がFF側に合わせて変更されているが、基本的にD&Dを踏襲している。

  • STR(筋力)

  • DEX(器用さ):D&D側では「敏捷力」と訳されているが、「Dexterity」には「器用さ」の意味も内包されているため、どちらの訳が正しいとは言い切れない。

  • VIT(生命力):D&DではCON(Constitution、耐久力)となっている部分。

  • INT(知力)

  • MND(精神力):D&DではWIS(Wisdom、判断力)。D&D側の解釈では直感や感覚の鋭さなどと関連する。

  • CHA(魅力)

スキル(技能)

キャラクターシート左上に、各能力値の下に書かれていたのがスキル。特定の分野への習熟を表す。TRPG方面では訳して「技能」と呼ばれることが多い。

MP

単一のMPリソースや自動回復など、かなりFF14を意識した改変がなされている。

原典の基本のルールでは「呪文スロット」といって、基本的に呪文のレベル(ファイア、ファイラ、ファイガのような段階)に対し、一日あたりの使用回数が設定されている。
この仕様はFF1(ファミコン版、ピクセルリマスター)の回数制のモデルとなっている。

D&Dにおいてはその他のアクティブ能力の回数も小休憩(1時間程度)や一日の終わりの大休憩を基準に設定されており、ターン数やフェーズによるクールダウン、特定の行動で変動するインナービーストなどの要素はFF14版固有の要素である。

イニシアチブ

D&Dなどのシステムでは、戦闘や逃走など、一瞬一瞬の行動が成否を分ける状況では、「イニシアチブ」(先制)の判定順に処理を行い、全員行動が終われば繰り返す。
コンピューターゲームでもお馴染みのターン制戦闘の起源と言える。

移動力

配信ではマス目を使うルールを採用した上で、それしか表記されていないが、D&Dのルールではフィートもしくはメートルを基準とし、5フィートもしくは1.5メートルで1マスに換算される。

アクション / ボーナス・アクション / リアクション

D&Dには3つの行動枠があり、これはFF14版でも変わっていない。
それぞれ自分のターンが回ってくる度に使用回数が1回、回復する。

  • アクションは武器の攻撃や一部の道具の使用などの通常の行動。

  • ボーナス・アクションは手早く行える、アクションとは別枠の行動。

  • リアクションは条件を満たした時にしか使用できないが、他人のターンであっても割り込んで使用できる。

命中率とパリィ/ドッジ(攻撃判定、AC)

AC(アーマー・クラス)は呪文スロットと並ぶD&Dの特徴的な要素である。

FF14側で「パリィ/ドッジ」と表現している通り、回避も、鎧や盾による受け流しも、いずれもACとして換算される。
武器や弾を打ち出す呪文などによる攻撃は、攻撃判定が相手のACを上回ればヒットとなる。

ダイレクトヒット(セーヴィング・スロー)

通常の能力値判定ではなく、セーヴィング・スロー(縮めてセーヴ)はブレスなどの範囲攻撃や、呪文、罠、毒などに抵抗する場合に行う。技能への習熟同様に、セーヴにもクラスによって習熟がある。

AC同様、どちらか一方だけがダイスを振ることで手間を少しでも減らそうというシステム上の努力が見える。

一部の能力に「○○セーヴ・終了」という表記があるが、これは「効果を受けている相手が毎ターンの終わりにセーヴを繰り返し、成功すれば持続効果が終了する」というD&D側でもたまに登場するセーヴ形式と思われる。

えどさん/学者の能力

  • HPバリア:D&Dの「一時ヒット・ポイント」にあたる要素で、FF14側での表現通りバリアとしての機能を持つ。

  • 迅速魔:特定のレベルに上がった時に選べる「特技」に「戦場の術者」があり、その一部。本来近接武器でなければできない機会攻撃を、1アクションの呪文で行うことができる。

ケイ/忍者の能力

忍者のアビリティはD&Dのモンクやローグをモデルに設定されている。

  • 移動速度アップ、落下ダメージ軽減:モンクの各種能力として登場する。

  • ぶんどる:スキルの習熟の補正値を倍にするというのは、ローグやバードが持つ「習熟強化」の仕様である。

  • だまし打ち+トゥルーノース:ローグの「急所攻撃」。仕様は完全に同様。

  • WSコンボ→旋風刃:いかにもコンボ技らしい表現がされているが、D&Dの物理職の多くが持つ「追加攻撃」である。

  • かくれる:D&Dではクラスを問わず1アクションで同様の事ができるが、ローグの能力「巧妙なアクション」の一部としてボーナス・アクションでもできるようになる。

  • 機会攻撃:D&Dの近接武器に関して、同様のルールがある。機会攻撃を誘発しなくなる「離脱」アクションはクラスを問わず、1アクションで行うことができる。

ヒルヴァーナ/戦士の能力

戦士はD&Dのファイターやバーバリアンのような能力を持っている。

  • 「敵視」状態:D&Dの一部の能力に同様の状態にするものがあるが、明確な名前のある状態として設定されていない。MMO的な表現としてタグ付けされたのだろう。

  • タンクマスタリー:「特技」として「追加hp」があり、それと同一。

  • 戦嵐:D&Dの物理職が選べる「両手武器戦闘」の能力と同一。原典では常に適用されるが、名前通り、両手持ちの武器にしか効果がない。

  • (機会攻撃:ケイに同じ)。

セリカ/黒魔道士の能力

  • 移動速度5マス:ララフェルであるセリカが、特殊な能力もなしに移動速度が1マス少ないのは、D&Dでのノームやハーフリングといった小型種族の移動速度が25ft/7.5m=5マスだからだろう。

  • エーテリアルステップ:ボーナス・アクションで行える瞬間移動としてD&Dにも「ミスティ・ステップ」がある。こちらは30ft/9m=6マス分。

  • (迅速魔:えどさんに同じ)。

ホビージャパンの意図?

ここからは完全に私見となる。
実はこのD&D、以前はホビージャパンが日本語版を管理していたが、2022年6月にウィザーズ日本支部の直轄となり、同年12月から再展開がスタートしている。

その後ホビージャパン時代以上の積極的な広告展開や、映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』、コンピューターゲーム『バルダーズ・ゲート3』の登場により、D&Dはますます注目を集めている。

一方でホビージャパン側も、この配信以降にオープンライセンスを利用したサードパーティの製品『サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG』を輸入、翻訳しており、コミュニティの広がりも込みで横からD&Dを応援しようという魂胆なのかもしれない。

あとがき

時は流れ2023年9月21日。FF14公式から『FF14TRPG』の製品化が発表された。
商品画像や東京ゲームショウでの展示にあった20面ダイスやキャラクターシートから、おそらくNGCの配信のものをリファインしたものと思われる。

シートから読み取れるシステムではACとセーヴが「物理防御力」と「魔法防御力」として、どちらも敵側の達成値と思しき数値になっていたり、技能の欄が消えているなど、配信版からさらにD&Dの面影がなくなっている。

しかし、D&Dをルーツの一つに持つファイナルファンタジーが、まさかこのような形でD&Dと再開するとは、筆者も夢にも思わなかった。

そして、図ってか図らずか、D&D側が確かに盛り上がりつつあるこの状況で、FF14TRPGを通して光の戦士たちが波のなかに放り込まれる形となるのかもしれない。この出会いはゲームの外でも、新たな物語を紡ぎ始めるのだろう。これからFF14、そしてD&Dのコミュニティに何が起こるのか、筆者は楽しみにしている。

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