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「人的資本」への投資の新しい潮流~次世代人材の育成手法はどうなるのか~

「人材版伊藤レポート」によれば人的資本経営の本丸は「戦略人事」の実現が中心となっている。パーソル総研が2021年に実施した「人事部大研究」によれば、戦略人事が実現できていると回答した企業は3割程度とのことであった。その調査では経営・人事部門に対して「戦略人事が実現されている状態」でトップに挙がってくるのは「次世代人材の発掘・育成」である。

またそのことが重要施策と認識しながらも実現度が低いという結果は、ここ何十年前から続いている。今回は「次世代人材の発掘・育成」という観点から人的投資の在り方について考察していく。

2020年6月にコーン・フェリー・ジャパンが実施した「経営者育成とサクセッションの進化ステージに関する調査」では、現在の取り組みに満足しているのは回答企業の14.9%のみとなっており、満足していないという回答は62.8%、「不満である」が18.1%という結果であった。

85%を超える企業が満足していない結果となっているが、次世代人材の発掘・育成の在り方にどう取り組めばいいのか。

今までの在り方は部門(本部)長が後任候補を決めて(発掘)、自部門で育成する。また、他部門の部門長が任命することもある。選抜された人材は自部門を中心に色々な仕事を経験したり、半年程度(1年間のプログラムもあり)リーダーシップ研修を受講するパターンが多い。

この時の後任候補の決定要因は高い業績を上げている、そして「評判の良い人」を候補者として選ばれることが多い。

以前の「作れば売れる時代」のように、業界が成長していて経営環境が安定している時には、合理的な判断である。

「売れるものを創る時代」になった昨今、5年以上続くヒット商品が60%を占める1970年代以前と比べ、2000年以降は5%程度(ヒット商品の20%近くが1年以下)となった。ある製品・サービスで高業績を上げることより、企業の課題解決のために自社の製品・サービスを長期に渡って提供し続けることの方が大切になっているのではないのだろうか。また、新しい製品やサービスをローンチする能力もこれから重要になっていくと思われる。

経営環境の不確実性などから現場の権限が大きくなって人事システムの運用がおかしくなった。「評判の良い人」は誰にとって「評判が良い」のか、「良い評判」の定義が企業価値向上に結び付くのかという問題が生じているように感じる。

誰にとっての高い評判が選抜されることになるのか。部下や仕事仲間から評判は悪くても上位者から受けが良い人材が抜擢されていることは少なくない。忖度が上手な覚えの良い社員に高い業績が上がる職務をあてがい、報酬アップや昇進、そして次世代人材候補者として選出されているケースも散見される。日本企業に入社した女性社員が2年目で昇進したくないと思ってしまうことや組織エンゲージメントの低さは「上司の資質と役職のギャップ」に大いに影響を与えているのだろう。

「良い評判」の定義はどうなのか。ひと昔前はジョブローテーションによって異動した部署で「爪痕」を残すことこそが「良い評判」の要因であった気がする。異動してきた人は今までと違う考え方や発言によって、職場の人達に影響を与え行動変容をもたらすことで「良い評判」を獲得していた。

しかし昨今は、異動先に溶け込む(なじむ)ことができるかが重要になった。異動した職場でいかに波風立たせず良好な人間関係を築かせるかということになる。良好な人間関係とは、職場リーダーやその職場の人達に色々言われても我慢し、職場になじむことができることである。「評判力」とは「忍耐力」が問われるのであって、企業価値向上につながるのであろうかと危機感を持っている。

そういった課題から候補者の人材プールを構築・可視化し、経営陣や社外取締役と一緒に後継者創りを行うというのが最近の潮流である。経営陣や社外取締役達と育成手法について議論し、教育手法やアサイメントの計画・実行を決めていく。「人的投資」することに継続的なコミットメントを引き出すことができるため、「デベロップメント文化(前回のコラム参照)」構築を目指すことに向かうのである。

そこでどのように計画・実行していくのか、留意すべき点は何かについて、長年様々な企業の導入支援してきたマネジメントサービスセンターの遠山社長にお話を伺った。

株式会社 マネジメントサービスセンター
代表取締役社長 遠山 雅弘氏
早稲田大学第一文学部卒。株式会社帝国データバンクを経て、株式会社マネジメントサービスセンター入社後、役員や事業部長などのエグゼクティブクラスの選抜・育成に関するグローバルプロジェクトに数多く携わる。2019年より現職。提携先のDDIとの連携を深め、企業戦略に基づくタレントマネジメントのコンサルティングに従事。 現在、経営陣をリードし、企業の人材戦略・育成分野において、企業の成長を支援し続けるHRパートナーとしての企業価値の創造に取り組む。

―次世代後継者候補の育成プログラムの取り組み方をヒアリングする機会があります。違うやり方を行っている会社からMSC様とパートナー企業のDDI社様がプログラムを提供している話を伺います。MSC社・DDI社様ではどのような手法を導入しているのですか?

ハイポテンシャル・リーダーをキャリアの早い段階で特定し、経営幹部に求められる一般的な能力(特定の役職や業務ではなく)の獲得に向けて成長を加速化することに重点を置く実践的な基盤を導入してきました。そういったコミュニティを「アクセラレーション・プール(AP方式)」と呼んでいます。「アクセラレーション・プール方式」は、重要な役職の後任者を確保する一方で、早くから広く網を張って隠れた有能な人材を見つけ出し、複数のタイプの役職に就けるリーダーを多く育てておくことです。リーダー確保のための機動性・俊敏性を高めることができます。つまり、重要なポストに空きができた時に即戦力としてあとを引き継げるリーダーのプールを作ることが可能になります。

―「アクセラレーション・プール方式」は、どのように設計すればいいのですか?また実行するにあたり留意すべき点はなんですか?

誰もがリーダーになれるわけでもなりたいわけでもありません。
即戦力になるリーダーを多く作りだすには、加速化を集中的に行う個人やグループを特定しなければなりません。

誰の能力開発をいつどのように加速されるか、難しい選択が迫られますが、ビジネスへの投資として人材開発の加速化は必要かつ重要となります。

今後2~4年間に組織が成功できるためのビジネスの優先事項(戦略的優先事項と求められる組織文化)を実施することが求められます。そのためにリーダーが直面する大きな課題を3~4つ選び出し、そこに重点を置くことから始まります。そのリーダーシップの最優先事項を「ビジネス・ドライバー」と呼んでいます。

「ビジネス・ドライバー」の例としては効率性のアップ、新製品のリリース、プロセス革新の推進、競争戦略の実施、ハイパフォーマンス指向の組織文化の構築などが挙げられます。これらがビジネス戦略ではなく、ビジネス戦略から生じるリーダーシップ課題であることです。

どんなビジネス・ドライバーも成功するために複数のコンピテンシーが必要となります。ハイパフォーマンス指向の組織文化の構築であれば「成果達成志向の醸成」「コーチングと人材育成」「戦略的影響力」が挙がります。

戦略的人材の必要性について、この3つの「ビジネス・ドライバー」のみを話し合えばいいのです。話し合ってコンピテンシーの定義とキーアクション例が掲載されたコンピテンシー・リストを作成することが次のステップになります。

この時留意すべき点は、能力開発すべきは実際にはコンピテンシーではなく、キーアクションであるということです。コンピテンシーを診断するためには、まずはキーアクションの診断から始め、すべて判定したら、それをコンピテンシーの評価にまとめていくことです。逆であってはいけないのです。またコンピテンシーを開発するために、個人にとって最も重要だと特定されるキーアクションに重点を置くことです。リーダーがコンピテンシーを習熟する唯一の道は、キーアクションを実践して磨きをかけることです。

このようにして組織の状況が明らかになったら、「誰を主要な役割に就けるか」「どのように人材開発の加速化を進めるか」を話し合わなければなりません。組織の中でリーダーが成功するには何が必要かを詳細に定義してある「サクセス・プロフィール」をつくらなければなりません。「サクセス・プロフィール」は「性格」「モチベーション」「認知力」「リーダーシップ・ポテンシャル」の4つの個人特性のカテゴリーを盛り込んでつくります。

「ビジネス・ドライバー」と「サクセス・プロフィール」を特定し、経営陣と人事でそれらを(人材開発委員会などの場で)ツールとして実際使用していくことで「アクセラレーション・プール方式」が次々とビジネスリーダーを産み出していくのです。

事業部から推薦された人間を半年程度のリーダーシップ育成プログラムで育成するやり方からあるべき姿から人材要件を定め、早期キャリア時から人材プールに入れて長期にわたって成長に寄与する経験や学びをさせるというやり方にグローバル企業を中心に変わってきている。その内容や構築のし方、運用の一部について遠山社長から伺った。もっと詳細を知りたい方は「次世代リーダーシップ開発(Profuture,2017)」を一読いただくことを薦めたい。

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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