偏見と固定観念を排除した合否判定~システマティックな意思決定法Vol.7(2/3)
4.統合会議は集めたデータでディベートする~偏見と固定観念を排除
さて、いよいよ合否の最終選考会議が行われるわけですが、この評価会識を「統合会議」とよんでいます。
効果的な採用システムの最後の砦(とりで)となる合否決定は、優れた品質管理プロセスのように勧めていきます。ここでは面接官の偏見と固定観念を排除するとともに、組織が求める採用基準を維持し、公正で正確な選考を保障するようなやり方で進めなくてはなりません。
「統合」という言葉をつかうのは、この会議には面接を終えた複数の面接官が参集し、それぞれが収集した有効なデータを突き合わせ協議しながら、学生一人ひとりのコンピテンシーを評価するとともに、応募者のプロフィール(強み・弱み)を総合的に描きだし、その学生が自分たちの組織で成功できるかどうかを予測して最終判定をまとめあげる――さまざまな評価や意見を最終的に一つの結論に「統合」する――会議だからです。
実際に、具体的な事実情報を準備できなかった面接官が、どんなに自分の勘である学生の素晴らしさを熱弁しても、他の面接官が収集したデータで判断して基準に達していなければ、その学生は不合格となります。
こうした形で複数の面接官が集まって統合会議を開き、そこで合否について協議することのメリットは、次のようにまとめられるでしょう。
この①~③については、以下順次述べていきますが、④について少し説明しておきます。
「焦りからくる採用基準の低下」とは、以前に「欠員による緊急募集(中途採用)」の際に陥りやすい例として触れたものです。ほかに新卒採用の場合でも、採用人員が予定人数に達しなかったため急遽2次募集を行ったときなど、面接官(評価者)が無意識にハードルを下げていることが往々にしてあります。
続合会議では①~③が機能するため、こうした「基準の低下」が防げるわけです。
さて、この統合会議は、次のような手順を踏んで進められます。
①にある「“必要不可欠”なコンピテンシー(自社にとって欠けていることが許されない必須のコンピテンシー)」についてはすでにVol.6で、②に記した「コンピテンシーの相互関係性や訓練可能性を考慮」することについては本章の前段でご紹介しましたので、ここではそれらを補説しながら、②の後半部分となる「候補者のコンピテンシー評点を比較検討する」方法にフォーカスして、その概要を次項以下で説明します。
ちなみに、統合会議で評点を比較検討する際の留意事項は次の4点です。
また、この統合会議では、いわゆる「声の大きい人」が主導するわけではなく、「STAR」に準じて行動情報を数多くとった人、あるいは重要な行動情報をきちんと把握している人が基本的に主導することができるはずです。
というのも、そうした面接官はそれらの情報をベースに、「なぜいいのか・なぜ悪いのか」の理由を明確に示すことができるからにほかなりません。そしてその理由を付したコメントこそが、統合会議では最も説得力をもった主導的意見になるからです。
5.最終合否決定はこのように決まる~合計点や平均点は意味がない
最終合否決定の方法についてご説明する前に、もう一度重要なポイントをおさらいしておきましょう。それは次のようなことでした。
さて、統合会議では各面接官から「評価表」に記された「評点」が、コンピテンシーの要素ごとに提示されます。もちろん全員の評点が一致することはまずありません。そこで、評点を確定するために検討が行われるわけです。
たとえば極端な話、ある応募者のあるコンピテンシーについて五人の面接官の評点が、それぞれ「5」「4」「3」「2」「1」だったとしましょう。「だったら、このコンピテンシーの評点は平均値の3だね」では、今までの努力はすべて台なしになってしまいます。どんなにそれまでのプロセスがシステマティックであったとしても、このような平均値評価をしたら最後の合否決定に妥当性がなくなってしまい、評価の「正確」さも期せません。
統合会議で最も時間をかけて話し合うべきは、ボーダーと思われる応募者についてです。評点でいえば、「3」なのか「2」なのかの見極めを最重要の議題とすべきだからです。
コンピテンシー評価においては「3」の基準が最も重要であり、この「3」の基準について面接官同士でコンセンサスがとれているということが、結果的に組織の活力を維持するうえで重要となります。というのも、面接官によって基準に対する“甘い辛い”があると、本来採用すべき人材を不採用にしたり、その逆の可能性も出てくるわけです。
したがって、評価にバラツキがある場合、ことに「3」と「2」の場合や、「5」や「1」といった極端な評点がなされた場合、あるいは評点に2点以上の開きが生じた場合には、どうしてなのかということを討議しなければなりません。
評点の極端な開きは多くの場合、コンピテンシーの定義や主要行動について面接官が誤解をしていたり、それに該当する行動事実を読み違えたことによって生じます。ですから、前項の「留意点」に記したように、あらためて「コンピテンシーの定義や主要行動」に立ち返って再確認し、もし間違いがあれば評点を修正してください。
なお、コンピテンシーの認識に間違いや食い違いがない場合は、その評点をつけた元となる行動情報の妥当性――たとえば、それが当該コンピテンシーを推し量る材料として適切かどうかや、その行動事実を自社での業務行動に移し替える判断(こういう行動をとる人は仕事でもこういう行動をとる、という判断)が妥当かどうか、などについて検討すべきでしょう。
もちろんこうした検討は、先の例でいえば「5」と「1」についてだけ行われるのではなく、他の評点についても同様です。要は評点に差があれば、常にコンピテンシーの“原点”に戻って討議してください。最終的な評点の精度を高めること。それが最良最善の方法です。
このような討議を通じて評点の誤差は徐々に是正され、最終的には精度の高い評点がコンピテンシーの要素ごとに決まっていきます。このとき最終的な評点の妥当性を判断するベースとなるのは、けっして会議参加者の職位ではなく、あくまで「自社にとって必要なコンピテンシー」についての正しい認識と収集した行動情報の的確さであることは、繰り返すまでもないでしょう。
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