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第2章<目標を定める>サクセス・プロフィール~リーダーを診断し、能力開発する言語

組織の状況が明らかになったら、次はその中でリーダーが成功するのに何が必要かを定義しなければならない。その定義は、「誰を主要な役割につけるか」、「どのように人材開発の加速化を進めるか」を話し合う際に使う言語で作られている。あなたの組織でもすでにサクセス・プロフィールを活用しているかもしれないが、正確さや一貫性を保証するためにも、あなたのサクセス・プロフィールが次ページ(図2.4)の4つの要素をきちんと測定しているか、確認するとよい。

🔶2.4図 サクセス・プロフィールの4つの構成要素

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・コンピテンシー…仕事の成否に関わる行動のクラスター(何ができるか)。

・個人特性…仕事の成否に関わる、個人の性質や能力――性格、認知力、モチベーションなど(どういう人か)。

・経験と仕事上の課題…与えられた仕事をする上でその人が直面すると思われる、あるいは事前に経験か訓練を積んでおくべき職務や状況(これまで何をしてきたか)。

・ビジネスおよび組織に関する知識…必要な知識、ビジネスへの理解、市場や技術、システム、プロセス、仕組み、製品、サービス、その他組織や部署の不変の要素を含む、組織や業界に関する認識(何を知っているか)。

ある企業の社長は、「われわれは、知識と経験に基づいて人を雇うが、コンピテンシーや個人特性――主に性格的な阻害要因――に基づいて人を解雇する」と言っているが、サクセス・プロフィールの要素の中でも、知識と経験は簡単に特定、開発できるものだ。従来、リーダーシップ能力を判断する際に経営幹部の関心を引いてきたのはこの2つだ。

これまでのキャリア、前職、実績、率いてきた取り組み、その成果、取得した学位は、どれも明確に把握することができる情報であり、ポテンシャルや準備度の判断に大きな役割を果たしてきた。だが皮肉なことに、これらは開発するのは簡単だが、特に高い階層では成功を左右する要因としての重要度は低い。リーダーシップのより高い階層に向かって加速化する際に重要なのは、コンピテンシーと個人特性である。これらが、成否を大きく左右する変数なのだ。

この章では、この2つの要素に焦点を当てる。知識と経験については第5章で深く掘り下げる。

1.卓越性を育むには卓越したコンビテンシーが必要である

卓越したコンピテンシーと言えるのは、幅広いビジネス状況への焦点――
ビジネス・ドライバー――から導かれたときのみであり、また、どのように習熟すればよいのかが、具体的な行動定義で正確に表現できたときに初めて、完璧なものとなる。この3点構造――幅広いビジネスの見方、コンピテンシーへの着目、キーアクションの明確さ――は、卓越したコンピテンシーを作る上で欠かせない。

まずはコンピテンシーのリストを適切な長さにまとめよう。われわれは世界のさまざまな業界のさまざまな組織について、CEOから工場の職員に至るまでの多数の職務分析を行ってきたが、サクセス・プロフィールを作るためにコンピテンシーを特定する際、最も難しかったのがリストを短くまとめることだった。そこで以下4つのスキル分野を理解して、すべてに当てはまるコンピテンシー・モデルを作ることをおすすめする。

・対人関係――1対1の、そしてグループ間の意思の疎通を容易にする対人行動、コミュニケーション行動。戦略的影響力、人脈およびパートナーシップの醸成、顧客関係の構築、説得力のあるコミュニケーションなど。

・リーダーシップ――与えられた責務を全うするよう部下を導いて組織の業績につなげるリーダーとしての行動。組織の鼓舞/活性化、コーチングと人材育成、変革リーダーシップなど。

・ビジネス/マネジメント――成果を出すためにビジネスユニットやプロジェクトを導く管理者としての行動。戦略的方向性の設定、業務管理上の意思決定、起業家感覚、組織の人材の育成など。

・個人の業務遂行の効果性――職務の成否につながる個人のスタイルや行動パターン。積極的なアプローチ、勇気、信頼性、自己成長指向など。

🔶2.5図 コンピテンシーの分野とコンピテンシーの例

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経営幹部階層のコンピテンシーの例は、図2.5のとおりである。階層の低い、それほど複雑ではない職務には8~10のコンピテンシーで十分だが、経営幹部には12~15が適切であることが判明した。15を超えると、変数が多すぎて実用性と説明力が大きく下がってしまう。

🔵コンビテンシーの定義とキーアクションの例

🚩コーチングと人材育成

定義
フィードバック、指示および能力開発のためのガイダンスを与え、他者が現在または将来の職務で高い能力を発揮できるよう支持する。個人のスキルや能力の開発を計画し、支援する。

🚩キーアクション

仕事ぶりを明確にする…
個人の現在の仕事ぶりと長期的な能力開発ニーズについて、本人に情報と見解を求める。

タイムリーにフィードバックを与える…
仕事ぶりや能力開発ニーズ、能力開発の進捗度について、具体的かつ適切なフィードバックをタイムリーに与える。努力と進捗を認めて、褒める。

期待する仕事ぶりとその意義を伝える…
高い期待値を伝える。仕事ぶりの改善とスキルの向上が本人の目標とビジネス上の目標にどのように関連しているかを示す。業績目標と能力開発目標、およびフォローアップ方法について、理解と同意を確認する。

不足するスキルを見極める…
現在および将来の仕事ぶりの土台となる知識や経験、スキル、行動の不足部分を突き止める。新たに得た情報に基づいて、適宜評価を修正する。

能力開発への手引きを与える…
組織内の能力開発支援体制を活用し、能力開発の障害を取り除く。本人に代わって組織上層部にかけあい、能力開発機会を作る。ガイダンスや良い手本を与える。仕事ぶりを向上させる提案を求める。本人と意見交換しながら、特定の能力開発目標を達成するための計画を作成する。

能力開発指向の関係を醸成する…
相手の能力に信頼を示したり、相手の自尊心を大切にしたり、共感を示したり、自らの見解を開示したりして、自分は重要視されている、コーチングや能力開発の話し合いに参画している、と相手に感じさせる。

コンピテンシー・リストが適切だと思っていても、それがコンピテンシーを習熟するのに必要な行動――キーアクション――を正確に反映していると確信できるまでは安心してはいけない。ほとんどの人は、上司かコーチ、講師、製品マニュアルなどからお粗末な指示を受けた経験があるだろう。そして指示に従ってうまくいかないと、非生産的になり、いらだちが募る。適切なキーアクションのないコンピテンシーは、人を惑わす指示のようなものだ。上記の補足説明に「コーチングと人材育成」のコンピテンシーが示してある。定義では、効果的なコーチングのあり方を大まかに述べているが、キーアクションはコーチングという幅広い概念を観察可能な行動要素に落とし込み、信頼性の高い診断と容易な開発を可能にしている

ここに、ごく一部の組織しか理解していない大事なポイントがある。それは、能力開発すべきは、実際にはコンピテンシーではなく、キーアクションであるということだ。コンピテンシーを習熟するうえで何より大きな障害となるのは、「自分のやっていることの何がまずく、または、何をやっていないから効果が高まらないのか」について、洞察が不十分であることだ。適切なガイドラインがあれば、リーダーとしてのより大きな成果を素早く獲得できる。このことは2つの大きな意義を持つ。

①コンピテンシーを診断するためには

まずキーアクションの診断から始め、すべて判定したら、それをコンピテンシーの評価にまとめていく。逆であってはならない。科学的なアルゴリズムや、訓練を受けたアセッサーあるいは面接者によるコンピテンシーの評点と組み合わせることで、正確さと信頼性が保証される。

🔵インタアクション・スキル~大部分のコンピテンシー・モデルに見られるキーアクション

われわれのアセッサーや面接者が大勢のリーダーと数々の行動について評点を行った結果、大部分のコンピテンシー・モデルにおいて成功の鍵となるキーアクションが浮かび上がってきた。画家が絵の具や素材を把握するように、テニスプレーヤーがラケットの持ち方を工夫するように、すべてのリーダーシップ職務には重要な基礎がある。われわれはそれをインタアクション・スキルと呼ぶ。リーダーシップのサクセス・プロフィールには、必ずこれらが組み込まれなければならない。

🚩人間関係を円滑にするキーアクション
・自尊心を守る、あるいは高める(社会的つながりを作るため)。
・共感的に聴き、反応する。
・協力を求め、参画を促す(協力関係を強化するため)。
・考えや感情、結論の根拠を共有する(信頼を得るため)。
・貴任を持たせたまま側面から支援する(当事者意識を引き出すため)。

🚩効率的に話し合いを行うキーアクション
・オープニング:話し合いの最初に目的と重要性を述べる。
・状況把握:情報を求め共有することで状況を明確にする。
・選択案づくり:他者のアイデアを発展させる。
・合意決定:具体的な行動として合意する。
・クロージング:行動と次のステップを要約して話し合いを終える。
・理解を確認する

②コンピテンシーを開発するためには

コンピテンシーを開発するために、個人にとって最も重要だと特定されたキーアクションに重点を置く。リーダーがコンピテンシーを習熟する唯一の道は、キーアクションを実践して磨きをかけることだ※。

※確実に観察できないためにキーアクションとして機能しない要素を持つコンピテンシー (創造的な解決策を心に描く、維持すべき最も重要なアライアンスを理解するなど)をわれわれは数多く見てきた。観察できなければ、診断することも開発することもできない。また、重要なキーアクションを定義から外してはいけない(例:他者のニーズを理解するのに相応しい質問をするスキルがなければ、影響力を使いこなすことはできない)。

コンピテンシーを定義する際には、コンピテンシーをリーダーシップのパイプラインの各階層に合わせなければならない。表2.2は、コンピテンシーがすべてのリーダーシップ階層に上から連鎖的につながっていることを表している。これは、コンピテンシー・モデルを簡素化し、学習経路を明確に示す良い方法だ。これにより、学習者たちは、自分のスキルがパイプライン内でどのように開発されていくかを、よりよく理解できるだろう。

この連鎖モデルは、新たなリーダーが昇進していくごとに、考慮すべき課題を示している。表2.2の4階層から成る構造は、多くの組織に通用する枠組みだが、階層の数を増減した別の構造を必要とする組織もある。階層の数にかかわらず、すべてのコンピテンシーと階層が一覧できれば、連鎖するコンピテンシーとその連結点が明らかになる。表2.2の右から左に向かって、昇進するごとに変わっていくコンピテンシーが紹介されている。

🔶2.2表 連鎖的なコンピテンシーの枠組みの例

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このような移行期を説明するサクセス・プロフィールを作ることには2つの目的がある。

1つ目は、リーダーシップのより高い階層のスキルを理解し、習得しようとしている人に、各階層で求められることをわかりやすく示すことである。キャリアアップの必須要件が明確になるので、自己の能力開発の目標がはっきりする。

2つ目は、この枠組みを組織のアセスメントと能力開発システムの設計図にするためだ。例えば、これを見ると、前職では成功してきた多くのリーダーが上級管理職(副社長、取締役、管理部門の長など)に就いて、初めて悪戦苦闘する理由がわかるだろう。

この階層に昇進すると、成功のために欠かせない新たなスキルが必要になるのだ。人事部門のリーダーは、アセスメントと能力開発システムを構築して、新しいリーダーが事前に移行に向けて準備できるよう、そして移行中にガイダンスを受けられるようにすることができる。

2.リーダー階層の移行期に伴う課題

昇進するごとに、リーダーは新たな課題に直面する。そしてその階層によって課題の数が多くなるときもある。果たして役割の難度を上げているのはどのようなことだろう。リーダー階層の移行期にどのような変化が起こるのだろうか。以下に、経営幹部階層への移行に伴う主な変化と、それに対応する準備ができていないリーダーによくみられる反応を示す。

3.おすすめ人材アセスメントソリューション

①コンサルティングソリューション

②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム

③オンライントレーニング&ディベロップメント

4.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。

DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。

DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

5.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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