「静かなプロアクティブ行動」に関する研究~人の新たな可能性に光を当てる~【前編】
1.【研究レポート】 「静かなプロアクティブ行動」に関する研究
小社では、タレントアセスメントやデベロップメントを中心としたリサーチ活動を行っています。今回の研究レポートでは、「静かなプロアクティブ行動」に着目して実施した調査・研究結果を【前編】・【後編】の2回にわたり紹介します。
2.変化に柔軟に対応し、前向きに活動する=プロアクティブ行動への注目
近年、企業や組織は複雑かつ不確実な環境下において、変化に対処することが求められています。同時に、そこで働く人々も変化に対応しながら前向きに行動することが、より一層期待されるようになりました。それらの行動は、Grant & Ashford(2008)らにより「プロアクティブ行動」と命名され、今日では「個人が組織内において、将来を見越して変化をもたらす目的で起こした主体的な行動(Bindle & Parker,2010)」と定義されています。
服部(2022)によると、ビジネス場面におけるプロアクティブ行動の研究は、将来を見据えた「進取的行動」と、置かれた状況を積極的にコントロールして現状に変化をもたらす「統制的行動」という、2つの特徴が含まれていると述べられています。また、尾形(2016)による、新規参入者の組織社会化の文脈における行動研究では、「進取的行動」と「統制的行動」の双方は、新規参入(オンボーディング)場面において象徴的に表出するとしています。
3.実務におけるプロアクティブ概念の利活用の広がりと新たな課題
近年、前項で整理したプロアクティブ行動が求められる場面は増えています。離転職の一般化により、以前は一回限りだったオンボーディングは多くの人にとって複数回のイベントとなりました。また、「キャリア自律」や「変化する状況を前向きに捉える活動」、「レジリエンス」などの必要性が強調される中で、ビジネス場面や職場環境の中でも主体的な行動が求められる機会は以前に比べて増加していると言えるでしょう。このように、実務を中心に様々な場面で注目されるようになったプロアクティブ行動に関して、新たな尺度化や概念化も進められています。
例えば、日本総研(2023)は「受け身の従業員をどう変えるか?」というテーマで、①革新行動、②外部ネットワーク探索行動、③組織化行動、④キャリア開発行動という4要素からなる、プロアクティブ行動を捉える質問項目を提案しています。その上で、定量調査を実施し、4要素から確認された傾向とその背景にある課題を考察しています。この考察は大変示唆に富むものであり、日本企業を中心とした、プロアクティブ行動に関する実態の一端を示しています。
また、近年注目されているケイン(2015)『内向型人間のすごい力』やチャン(2022)の『「静かな人」の戦略書』では、アップル創業者のひとりであるスティーブ・ジョブズや名だたるエンジニアたちの行動に、プロアクティブ行動としてのアグレッシブな要素に含まれない別の要素がみられました。そこで、私たちは「近年実務で用いられているプロアクティブ行動という概念について、「アグレッシブ要素+α要素」へ適用範囲を広げて検討していくに至りました。
4.インタビュー調査を踏まえた、「静かなプロアクティブ行動」の抽出
そこで、私たちはまず、一般職層上級(係長)から課長相当の従業員の内、当該社においてプロジェクト活動や組織マネジメントで成果を挙げたと他者から認知されたビジネスパーソン複数名に対してインタビュー調査を行いました。調査は、自身の最も成長した経験やキャリア意識、職務遂行に関する事柄について自由回答方式で実施しました。
以下に、インタビューで、「プロジェクトの成果達成のために、どのように関わってきたか」の問いから得られた情報の一部を紹介します。
5.インタビュー結果:企業の変革時における成果達成のための関わり方
結果、プロアクティブ行動の定義を踏まえて、検討した結果、前向きさや進取性とは異なる行動スタイルの発露がみられました。私たちは、それらを「静かな行動リスト」と名付け、図1としてまとめました。
「活発な行動」として、「積極的に新しいアイディアや提案を積極的に行う」、「自ら行動を起こす」、「問題が発生した際に主導的に解決策を模索する」、「他のメンバーを引っ張る」などの言動がみられました。他方「静かな行動」として、「状況や人々の様子を注意深く観察する」、「冷静かつ慎重な判断を行う」、「チームでの協力を大切にし、他のメンバーの意見を尊重する」などの言動がみられました。「静かな行動」は内向的であり、表面上には発露しづらいですが、物事を熟考し、深い洞察を持って行動しています。
一見、「活発な行動」と「静かな行動」には、成果達成までのプロセス・アプローチ方法に違いはみられるものの、これらの相反する特性は、一方だけを満たせば良いわけではありません。個人内、ひいては組織内でのバランスが必要であり、異なるスタイルの人材が協力し合うことで豊かなアイディアや効果的な業務遂行が可能になると考えられます。つまり、組織においては、活発さや力強さと静かな深みの双方を活かし、最終的な成果に繋げていくことが重要であると言えます。
6.「静かな」要素を織り込んだ「プロアクティブ行動」研究の必要性
現在のビジネス環境は複雑かつ急激に変化しており、その中で組織が成功するためには、活発なプロアクティブ行動と静かなプロアクティブ行動の双方が求められると言えるでしょう。前者は、新しいアイディアや解決策を提供することができ、リーダーシップを発揮し、積極的な行動でチームを引っ張っていきます。後者は、深い観察力や洞察力を持ち、冷静で慎重な意思決定ができ、集中力が高く、複雑な問題に対して深い考察を行います。
これら「活発な」行動と「静かな」行動は、個人の中で概念的には両立し得ますが、人材活用の観点からは、どちらの行動特性をどの程度持つ人材かを特定する必要があるでしょう。それらの異なる行動特性を持つ人材を組み込むことにより、組織は変化に柔軟に対応し高い成果を生み出す力を獲得できると考えられます。そして、異なるスタイルの人材を尊重し、活かすことで、組織内に効果的なコラボレーションが生まれ、パフォーマンスは持続することでしょう。そのためにも、「静かな」要素を含むプロアクティブ行動に関する適切なリサーチを行い、実務にも適用可能な示唆を導き出していきたいと考えました。【後編】では、私たちの問題意識、仮説に基づいたリサーチ内容とその結果、考察について紹介します。
7.執筆者プロフィール
8.おすすめ関連ソリューション
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10.会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント