「人間力」の育成を重視し、社員が社員を教えていく文化を築く~<株式会社ラック様>
1.人材育成で大事にしているのは、技術力より人間力の向上
三村:御社とは人材育成を通じて長いおつきあいとなりますが、DXが推進される中で御社の役割もより重要になってきていると思われます。そんな中で鎌田さんは、人事の責任者としてどのような方針で人を育てようとしていらっしゃるのですか。
鎌田:弊社はITの会社ですので、スペシャリストを養成するイメージがあるかもしれませんが、もちろん技術力を上げていくことはとても重要ですが、さらに重要なこととして、一言で言えば、「人間力をどう高めていくか」という人づくりに力点を置いています。人間力には様々な要素が含まれますが、例えば、人を巻き込む力や質の高いコミュニケーションをとる能力を含めています。その中で、特に必要性を感じるのが倫理観です。場合によってはIT技術を悪用することにもつながるため、職業倫理はセキュリティエンジニアやITエンジニアにとって非常に大切なことだと考えています。
三村:見方を変えると、IT業界においては、より一層倫理観を高めなければならない時代になってきたということでしょうか。
鎌田:倫理というのは、もともとは家庭や学校、社会生活の中で教えられてきましたが、学校や家庭ではあまり触れられなくなったように感じます。ですから、企業が責任を持って教育する必要があると考えています。 ちなみに、当社では以前から小学校や中学校に講師として社員を派遣し、セキュリティ教育を開催しています。そうした活動を通して、学校教育の中で正しいITリテラシーと倫理意識を植え付けていこうとしています。
2.社員が社員を教えていく文化を醸成し、「日常」の中で育成
鎌田:2021年に、「LAC Univ.(ラック・ユニバーシティ)」というバーチャルの教育機関を立ち上げました。技術力については、職場を中心として自発的に学んでいく面があります。ですから、ベースとなる人間力をつくることに力点を置き、人づくりに取り組んでいます。
三村:企業として本格的な取り組みですね、具体的にはどのような教育をされているのですか。
鎌田:ここでは、固定的な研修メニューだけではなく、社員が社員を教える文化を築き、その中に社員を組み込んでいく方式です。マネジメント教育もその一つで、マネジメントの使命はまさに人づくりであり、倫理観や社会性を教えることに基軸を置いています。一部外部研修もありますが、軸となるのは社員が社員を教育する形式です。「人間力」というと抽象度が高すぎてピンとこないので、日常の中で自然と育成が行われる形にするのがよいと考えました。
三村:企業の経営者の方とお話をすると、よく「人間力が大事だ」という話題が出ます。では、「人間力ってなんでしょう?」と尋ねると、個々の経営者の方の思いによって様々ですね。だからこそ、個々の企業において理想の人材像を明確に描き、研修などのOff-JTのみならず、日ごろから身近な場面での育成が不可欠だと言えますね。
鎌田:はい。人間力というのは、要素としてはたくさんあると思います。先ほど挙げた以外にも、教養、リベラルアーツのようなものも含まれるかもしれません。それらを養っていくためには、日常の生活の中に埋め込んでいくしかないと思っています。
三村:研修という場面で非日常を体験することは可能ですが、得られた「気づき」や「教訓」を日常に落とし込むことが必要です。鎌田さんがおっしゃるように、日常の中で教育の機会を得られれば、より自然な形でスキルは身に付いていくと思います。
3.シニアが「教える」スキルを身に付け、新たな活躍の場を見出す
鎌田:「LAC Univ.(ラック・ユニバーシティ)」では、人に教えるスキルのトレーニングを進めています。社内講師制度を設け、講師に認定された社員が社内研修を実施すると、給料とは別に手当を支給します。
三村:社内で教育者を育成しているのですね。人に教えるとなると、まずは自分を磨かなければいけなくなりますので、自己研鑽の機会の得ることができるわけですね。
鎌田:そうですね。それと、特にシニアにとっては新たな生きがいの一つになります。ある程度の年齢になると、不思議と人に物を教えたくなるものですよ。
三村:分かる気がします。(笑)
鎌田:シニアの方に、そういう機会で自分の価値を磨いていただくと、生き生きしてきます。当社は65歳が定年になりますが、60歳で役職定年になった方の中から講師認定して管理職扱いの処遇にし、人を教えることに意識を向けていこうとしています。
彼らは良い経験を持っています。だから、教え方を身に付ければ、自らの経験を活かせると思うんです。シニアの方の中には、「もう学ぶことはない」と勝手に決め込む人もいます。自分自身が新たな分野のスペシャリストになるのは難しいとしても、後進を育成するスキルを身に付けることで、その人の価値が高まっていくと思います。
三村:最近、定年を迎えるシニアクラスの社員に対して、嘱託機関の間モチベーションを維持していくための研修のリクエストが増えています。御社のように、制度として自主的なスキルアップのチャンスを与えることは、大変魅力的な仕組みだと思います。
鎌田:当社は、研修会社への講師のあっせんも始めてます。社員を副業で募集し、ITエンジニアのリスキリング用の研修コースなどに講師派遣します。弊社の売上ではなく、完全な副業として社員に関わってもらっています。現在、若い人が知らないレガシーな技術のニーズが高まっていますので、その方々が若い人たち向けに実践経験を交えて教育しています。
我々の会社は受託案件が多く、どうしても対外活動に目が向かないのですが、この仕組みによって社員が外に出て会社にもフィードバックされると、いい循環になると期待しています。
三村:かつてIT業界においては、ダウンサイジングやオブジェクト指向など変革の時期を経て、最近ではコンピュータの構造を知らなくてもシステム開発が可能となってきていますよね。若い方にとっては、シニアの方の経験を学ぶことはよいことだと思います。
鎌田:そうですね。今の若い人たちは、原理原則を知らずに、ある一定レベルのところから業界に入ってきているところがあります。 それと、弱い点が対人的な関係構築です。当社はお客様あってのビジネスですが、どうしても技術的な側面に偏ってしまい、お客様との関係作りが弱いんです。特に若い世代は、同年代の人たちとしかつながりがなかったのでしょうが、社会人になって親と同年代のお客様や上司と関わるようになります。多くの若手がその距離感に悩んでいますので、シニアが過去の苦労話を交えて研修をすると、有益だと思います。
4.多様性を認め合う風土がある
三村:現在はダイバーシティの時代ですが、異質な価値観の方を受け入れる風土がどうであるかというと、正直、企業や団体によって差があるのが実態のように感じます。御社はキャリア入社の方も多いですよね。御社の研修で受講者の皆さんの様子を見ていると、ディスカッションの場では多様な意見が飛び交いますが、結果的にうまくまとまっていきます。つまり、個々人が異なる意見を述べ合うものの、そこで物別れせず、互いに認め合い、合意形成していく力があるように感じます。また、研修中に障害のある方に対しては、気負うことなく自然にサポートを行っていきます。
鎌田:三村先生に見ていただいている受講生は、職場から推薦されてきているのでそういう素養がありますが、そうでない社員も多いですよ。
三村:それも含めてダイバーシティかもしれませんね。
鎌田:そうですね。(笑)そこを抑え込んでも仕方ないので、オープンにしています。
三村:そのオープンさが御社の社風を支えているのではないでしょうか。心理的安全性が確保されていないと、会社への文句だけでなく、不正や不合理なことをおかしいと言えなくなってしまいます。
鎌田:そうですね。それでも当社もまだまだ無言の同調圧力はあると思います。そこで今年から、3か月に1回だった上司との1on1ミーティングを月1回に増やしました。そういう機会を通して、心理的安全性や上司が部下を見ていることを伝えていきます。
5.1年間かけて、エンジニアのステージからマネジメントのフィールドへ
三村:次に、私どもがお手伝いさせていただいている「課題解決力向上研修」について伺いたいと思います。私も興味があるのですが、担当させていただいている研修は、1年近くかけて管理職を養成するプログラムの一環ですよね。
鎌田:はい。マネジメントを実践するには、経営者の目線でリソースを見ていく必要があるので、そのための教育を1年間かけて行います。三村先生には、その中の一つとして、経営視点での課題解決の考え方のトレーニングを実施していただいています。
以前は、管理職登用の入口で業務上の成果を基準としたかなり高いハードルを設けていました。しかし今では、人間力や人材育成がマネジメントの主たる役割だという観点で素養がある人材を選抜してもらい、プレーヤーからマネジメントに移行するための教育を1年かけて行っていくことにしました。出口での試験はもちろんありますが、それをパスすれば、マネジメントの登用資格を得ます。
三村:時間と手間を惜しまず管理者育成を行っている印象ですね。一般の企業では、ある日辞令が出て、いきなり「あなたは管理職です」と言われ、「どうすればいいんですか?」となってしまいがちです。時間をかけてじっくりと意識付けを行い、その過程で、同じ立場の仲間が互い刺激し合うという土俵を準備されているのですね。
鎌田:まさにおっしゃっていただいたとおり、他部門の社員との関係性もなしに、直列的にポンと管理職に登用されると、マネジメントとしての役割を果たすのが難しいと考えています。全社の同列の人たちが集まり、部門を越えた横のコミュニケーションを取りながら土台をつくっていかないと、マネジメントとしての機能は果たせないと考えます。
三村:私も多くの企業で人事制度の改訂や人材育成のお手伝いをしてきましたが、1年もかけて意識付けをするという例はあまりなかったと思います。研修の受講者を拝見していても、本人たちにとってすごくいい機会になっていると思いますし、皆さんは、管理職になることを自覚されて参加されていますよね。
鎌田:管理職登用に向けた1年間の活動では、中期経営計画を実現するために自分たちに何ができるのかということについて、経営陣に提言することが卒業試験のテーマです。それを実現するに当たって、どういう課題の捉え方や考え方をすればよいのかという導入の教育を、三村先生にやっていただいています。考え方を学ぶうえで大変有効な研修と位置付けています。
三村:ありがとうございます。皆さんは一つひとつのカリキュラムの意味を感じながら最終ゴールに向かっているので、モチベーションも高まっていくのだと思います。
1年間のプログラムの中で研修以外の取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。
鎌田:もう一つ意図的に行っているのが、本を読ませることです。彼らは、技術書は熱心に読んでも、一般的なビジネス書はあまり読まないんです。毎月課題本を与えてレポートを出させていますが、半年もすると、世の中で使われている言葉が共通言語化してきます。
三村:読書を通じて、世間一般の知見を身に付けられるわけですね。エンジニアの中には専門知識が高まると偏った思考に走る方や、やや独善的になってしまう方もいますよね。客観的に自身を見つめ、謙虚になれる機会があるといいですね。
鎌田:謙虚になるということでいうと、当社は年1回、幹部を集めて京都のお寺に行きます。宗教的な意味ではなく、創業者の墓参を兼ねて行くのですが、そこで聞く説法が、原点に返るというか、物事をゼロに戻して考えさせてくれたり、精神的な拠り所の教訓を教えてくれたりしてとても新鮮なんですよ。幹部になると、まさに謙虚になって世の中を見ることが大事なので、幹部研修に取り入れています。
6.とがった人材を受け入れ、活かす風土
三村:ところで管理職登用に向けたプログラムの期間中のグループ編成は、結構考えられていらっしゃるのではないですか。どのグループにも、中心になる人がいればサポーターもいる、かき回す人がいればまとめる人もいて、毎年いい組み合わせになっていると感じます。
鎌田:そうですね。いろいろな部門が混じるように、人事で組み合わせを考えます。
三村:御社の研修では毎年、何人かはとがった人材がいますよね。そういう方ほど経営的な視点での発想や考え方には興味を示します。マネジメントの一般論については「そんなの分かっているよ」という感じで斜に構えて見ていますが、経営的な話になると関心を示し、より大きな仕事やより広い視野が必要だと気づいた瞬間に彼らの中に意識が芽生えるように感じます。
鎌田:研修の目的はそこにあります。今までのステージから変わってもらうきっかけづくりが狙いです。
三村:御社には、そういうとがった人を受け入れる風土があると感じますね。受け入れるということは、同時に、そういった人を活かす方がいらっしゃるということだと思います。
鎌田:そうですね。それはトップの西本が得意としています。言い方が適当でないかもしれませんが、猛獣使いというか(笑)、少し変ったキャラクターをうまく活用することに長けています。
三村:すると御社では、とがった人材が「この人はダメ」と烙印を押されたり、角が取れて丸くなったり、あるいはスピンアウトすることなく、組織の中で活躍できているのですね。
鎌田:好きなんですよ、社長が。普通の会社だったら採用しないような人を採用してくるし、登用する。まったく人事泣かせです(笑)。
三村:お察しします(笑)。「うちにはとがった人間がいない」と嘆く経営者の方は多いですが、そういう方に申し上げるのは、「御社ではとがった人材を採用していないでしょう」ということです。本気でとがった人材を採用し、職場の中で活かすことが御社はできているのでしょう。異質な人材や多様な価値観を活かしていくことは、簡単にはできないと思います。
鎌田:面白いもので、角が取れそうになると、社長の西本がその人材を違う部署に移してしまうんです。やはり企業の文化は社長がつくりますね。
7.規則で縛って制約する組織は伸びない
三村:最後に、鎌田さんが考える理想の人材像とその育て方についてお聞かせください。
鎌田:理想の人材像は、やはり人間力の高い人。人をうまく巻き込んでいく力や倫理観を持つ人材です。それをどうつくっていくかというと、これも繰り返しになりますが、社員が社員を育てていく風土をつくることが大事だと思っています。昔から、「企業は人なり」と言うじゃないですか。人づくりが経営の根幹であり、その仕掛けづくりに取り組んでいるところです。
三村:人間力の育成という大きなテーマですね。技術系の企業の場合、どうしてもテクニカルな教育を重視しがちで、ヒューマンスキルには目が向きにくい傾向があります。それでも近年は、リーダーシップやマネジメントが重要だという認識が定着してきましたが、御社のように人間力を前面に出されることに対しては、こだわりを感じますね。
鎌田:ありがとうございます。今の人たちには、おせっかいなくらいに踏み込んで行かないといけないと思っています。そうでないと、どうしてもマニュアル的な動きになってしまいますから。
その際に、「あれはやっちゃダメ」「これはやっちゃダメ」と規則で縛るべきではありません。「やっちゃダメ」と規制して行くと、どんどん角が取れていってしまいます。規則で縛るのではなく、「どうするのが世の中のためか」といった“善き行い”のようなところに発想を持っていく必要があります。制限をかける会社は絶対に伸びないと考えています。
三村:鎌田さんのお話を伺って思い出したのが、クラーク先生の言葉です。「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ、大志を抱け)」は有名ですが、クラーク先生はこれとは別にある名言を残しています。当時の札幌農学校は男子のみの寮制だったこともあり風紀が乱れ、「あれはダメ」「これはダメ」とすごい数の規則ができたらしいんです。クラーク先生はそのことを嘆いて、寮の規則は「ビー・ジェントルマン(紳士たれ)」、この一言でいいと言ったそうです。
鎌田:まったくそのとおりですね。その行動が紳士として正しいか、紳士たる振る舞いかを考えれば、ダメなことかどうかは分かるはずです。規則をつくりすぎると、規則を管理する部門が重箱の隅を突っつきたがり、それこそ、とがった人の角が取れてしまいます。
三村:セキュリティを事業とされている御社だからこそ、重要なテーマかもしれません。本日は大変参考になるお話をありがとうございました。
8.対談者プロフィール
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~Leadership Snapshot
10.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント