【対談】「社長塾」の内容を刷新、会社の持続的発展に何が必要かを自ら考えるリーダーを育成<株式会社中部プラントサービス様>
1.自ら考える主体的なリーダーを育てるため、「社長塾」を全面リニューアル
三村:私は昨年12月から御社の社長塾に携わらせていただいていますが、社長塾自体は以前から実施されていると伺っています。今回はどのような経緯で内容面を見直されたのですか。
栗山:社長塾は10年ほど前から実施しています。以前は、「社長と直接話をしたい」「社長の話を聞きたい」という人に手を挙げてもらい、時々の経営環境や経営上の課題について社長が講義し、社長と塾生でディスカッションをするものでした。塾生が「この課題について、私はこう思います」と提言したり、それに対して社長の思いを伝えたりと、有意義な対話の場だったと捉えています。
ただ、それとは別に「社長懇談」という施策があります。私が各事業所を回り、会社への提案や要望、自己アピールなどを聞き、参加者と懇談するものです(2023年度実績:11回、14事業場、延べ113名と懇談)。これと社長塾とが似たような内容になっていたため、経営戦略室の提案を受けて見直すことにしました。
三村:社長塾では、皆さん御社の将来について「ビジョン」や「重点戦略」を考えていただくことになりましたが、これはどのようなねらいだったのでしょうか。
栗山:新しい社長塾では、自社の将来を担うことが期待される人材を集め、会社の持続的な発展に何が必要かを自ら考えてもらいました。2024年度に経営ビジョンを再構築する計画がありましたので、その前段として、会社の将来ビジョンを自分たちで考えることをテーマにしました。私からも方針を伝えましたが、三村先生には基本的な講義をお願いし、経営分析の手法や会社の将来像の考え方をロジカルに習得できるようにしました。グループワークを中心とし、研修の最後には、私や役員の前でプレゼンテーションをしてもらいました。
三村:「自ら考え、自ら行動する」というのは、私も研修でよく使うフレーズです。多くの企業では、受け身に構え言われるまで待っている方や失敗したくなくてしり込みする方も多く見られます。「主体性」をキーワードとして、自ら考える人材を育成することは組織を機能させる上で大変重要なことだと思います。
栗山:ありがとうございます。今回は立候補制ではなく各職場からの推薦制にしましたので、中には嫌々参加した人もいたと思いますが、結果として25名が参加しました。
三村:おっしゃるように手挙げ式ではないので、開講時には「何で私がここにいるの?」というような表情の方もいましたね。3か月間にわたり、全体でレクチャーを3回、グループごとにリモートでサポートを4回させていただきました。最初はどうなることかと心配したグループもありましたが、徐々にチームワークも高まり意欲的な取り組みが見られるようになっていきました。皆さんが変化していく姿は頼もしかったですね。
2.社長塾への参加が刺激となり、リーダー候補の意欲が向上
栗山:終了後、参加者にアンケートを取りましたが、驚くほど好評です。「普段は目の前の担当職務に没頭していてほかに目が行かなかったが、経営というもの、会社というものを真剣に考える時間を持つことができた」「経営環境の分析の仕方や考え方を学び、非常に勉強になった」といった感想が数多くありました。
また、他部門の人とディスカッションをしたことで、「会社の中にいろいろな考えの人がいること、いろいろな仕事があることを実感した」という意見も多かったです。「一層、中プラ(中部プラントサービス)を好きになった」「中プラ愛が深まった」という意見もありました。
三村:それはすばらしいことですね。私も機会があるごとに研修の感想をお聞きしますが、皆さんの前向きな意見をお聞きできてうれしいですね。
特に今回は、年末年始を挟み年度末に最終発表でしたから、皆さんはかなり忙しい時期にご参加いただいていたと思います。その中で、3カ月の間に約30回もグループミーティングをしたチームもありました。「時間を割いて取り組めばできる」という自信にもなったと思います。それと、経営目線に立つということを曲がりなりにも体験できたのは、皆さんにとって視座を上げていくことにつながると思います。
栗山:そうですね。「経営者がこんなに真剣に考えているとは知らなかった」という感想もありました(笑)。
アンケートで実際のビジョン策定(今年度実施)に携わりたいかを尋ねたところ、3分の1のメンバーが「携わりたい」と答えてくれました。携わりたくないという人の中にも、「ビジョンをつくるのは高度な作業なので、まだ自分には早い。もっとしっかりと能力を身に付け、足場を固めてからやりたい」といった前向きな意見がありました。
三村:まずは、「自社のビジョンを策定したい」と思う方が、3分の1でもいらっしゃるということが貴重だと思います。実力不足という認識の方も、「こうすれば能力がアップする」という方向性が見え、成長意欲が高まったのではないでしょうか。
栗山:そうですね。
三村:拝見すると御社は大変真面目な方が多く役割意識も高いので、困難な中でも最後までやり遂げたい気持ちが強かったのでしょう。経営に対して不平を言うのではなく、自分たちの将来をどうしたいのかを自分たち自身で考えるきっかけになったと思います。当社の営業が言っていたのですが、最終プレゼン後の懇親会の盛り上がりは、まるで青春ドラマのようだったそうです。
栗山:塾生たちの達成感は大きかったと思います。ビジョン構築というのはまさしく経営そのものですから、先生におっしゃっていただいたように、数人でも経営に携わりたいという人がいたことがうれしかったです。
3.上司による動機付けや周囲へのフォローが重要
栗山:印象的だったのは、「上司に『君たちがこの会社の将来を担っていくリーダーだ。だから社長塾に行ってこい』と明言してもらったことがうれしかった」という感想です。推薦されたことが動機付けになり、モチベーションが高まったようでした。
三村:現場の上司はさすがですね。
栗山:そうなんです。
今回は上司の側にもよい影響がありました。社長塾のプレゼンは職場の上司にも見てもらいましたが、皆、「すばらしかった。職場に戻ってその思いを活かすとともに、周りにも広げていってほしい」と言っています。
三村:通常のスキルアップの研修を行う場合、研修効果が限定的であることが少なくありません。しかし、今回は本人たちの意識が高まるとともに、上司にも良い影響を及ぼしたというのは大きな成果です。今後も人材育成の風土が高まっていくといいですね。
栗山:おっしゃるとおりです。塾生も上司も期待以上に意義を感じてくれましたが、アンケートの中には、「周りの人に『忙しいのに何をしているのか』と冷ややかに見られていた気がした」という意見がありました。上司から周囲に対して、「今、彼はこういうことに取り組んでいるので皆も協力してほしい。帰ってきたら話を聞いてあげてほしい」といった働きかけがあると、風土の醸成も進むはずです。
4.今いる人材を早期に育成することが重要
三村:今後の人材育成について、社長がお考えになっていることをお聞かせください。
栗山:まずは、人材育成の早期化です。少子化や人材の流動化が進むなか、今いる人材をいかに成長させるか、しかも早期に成長させることが大きな課題です。
当社の教育はOJTが主体ですが、現場には要員のひっ迫感があり、なかなか十分なOJTができていません。もちろんOJTは一番効果があると捉えていますが、今後は、それを補完する集合教育やeラーニングをより充実させていきたいと考えています。また、個人個人が自分に足りないところを自発的に学べるメニューをそろえ、自発参加型の研修を充実させたいです。
三村:以前は、多くの日本企業が現場で手取り足取りメンバーを鍛え、背中を見せて育てていましたが、今の現場はやるべきことが多くなり、なかなか手間と時間をかけられません。だからこそ、計画的かつ効果性の高い育成策が必要ですね。カフェテリア形式やリモートによる教育など、各自のペースで学べるメニューが充実するとよいと思います。
栗山:併せて、自分のロールモデルや目指す人材像、キャリアプランをより意識させることも大事です。上司とのディスカッションの中で本人の意識を高めるとともに、会社側も上司を通じてその希望を把握し、できる限り実現していきたいと考えています。
三村:重要なのは現場の管理職ですね。上司が部下に対してどれだけ育成マインドを持ち、フォローしているか――そういった育成の仕組みや雰囲気を醸成していくことが重要です。
栗山:先生がおっしゃるように上司が肝であり、上司への教育が必要です。上司によって職場の雰囲気や部下のモチベーションが大きく変わりますから。
三村:最近は、「上司ガチャ」と言われるように、上司次第で部下の働き方が決まると捉えられてしまうところがあります。先日の新聞報道によると、今春の新入社員の4割以上がすでに転職を検討しているとのことです。「人が足りないなら、取ってくればいい」という時代ではないので、先ほど社長がおっしゃっていた通り、「今いる人材」をどう定着させ、どう育成するかというのは、多くの企業にとって共通する課題と言えます。
5.1on1ミーティングを本格導入、上司のレベルアップにもつなげる
栗山: 社員が職場を離れていく背景に、「会社の将来像が見えない」とか「自分のやりたいことができない」といった理由があるのだとしたら、それを解決してあげればいいわけです。「キャリアアップしたい」という理由で辞めていく人もいますが、それも、当社の中で本人が望むキャリアアップをできるようにしてあげればよいのです。そのためには、会社のビジョンを明確にして伝えていくこと、この会社で働きたいと思えるようなエンゲージメントの高い職場風土をつくること、達成感や自身の成長を感じてもらうことが大事です。
三村:ある調査機関のデータによると、入社3年以内の社員は「自分の将来が見えない」という悩みで辞めていく方が多く、それ以降の社員は「会社のビジョンや将来が見えない」という理由で辞める方が多いそうです。つまり、入社3年以内の若手は自分のことで精いっぱいですが、3年を過ぎると会社の実態をある程度見透かしていくのでしょう。だとすると、ケアの仕方や動機付けのポイントも世代ごとに工夫が必要ですね。そうした事情を含め、管理職に育成のノウハウが高まっていくといいですね。
栗山:そうですね。今年度から1on1ミーティングを本格導入しました。そこでまず、管理職に対して、1on1ミーティングのやり方やそこでどのような話をするかを教育しています。
三村:それはいいことだと思います。但し企業の中には、1on1ミーティングに加えジョブ型人事などもそうですが、本来の主旨を理解しないまま、はやりのものを取り入れようとするケースが見受けられます。1on1ミーティングでよくあるのが、時間を取ったけれども何をやってよいかわからないとか、気付いたら30分間説教をしていたという場合も散見されます。そうならないようにするには、御社のように、導入制度のねらいややり方をしっかりと周知し、1on1の本質を理解させることが大事ですね。
栗山:我々も試行錯誤しているところですが、うまく定着させて上司のレベルアップにもつなげていきたいです。
6.アンテナを高くして社会や経営の変化を捉え、自ら変革していく人材が必要
三村:栗山社長は自社の将来のため、どのような人材が必要だとお考えですか。
栗山:会社の成長・発展を考え、自分も一緒に成長していく、一体感を持った人材です。会社側の努力も必要ですし、個人の努力や成長も必要ですが、中プラを好きになってほしい。私自身、この会社が大好きなんです。社員は真面目ですし、社会インフラの根幹を担っている自負や誇りを持っています。そういった風土やDNAを吸収していってほしいですね。
そのうえで、社会環境や経営環境が大きく変わっていきますので、その変化をアンテナ高く捉え、自ら変革を促していける主体的な人材が必要です。
三村:変革を推進するリーダーは、どのように育てていきますか。
栗山:育て方は難しいですが、現実に自分たちの携わっている事業がどんどん変化していることを実感していると思います。
三村:具体的にはどのような環境変化が影響を与えているのでしょうか。
栗山:当社の中核事業は火力発電所や原子力発電所の建設・メンテナンスですが、原子力発電所は、東日本大震災以降、長期停止が続いており、そのなかでどう技術や協力会社との関係を維持していくかという課題があります。火力については、FIT(再生可能エネルギーの固定価格の買取制度)ができてから太陽光発電や風力発電が伸び、火力発電が調整電源化してきています。稼働の仕方が変化したことでトラブルの出方が変わったり、効率の悪い火力発電所が廃止されることもあります。また、電力の小売りが完全自由化され、我々のお客さま自体がコスト競争力を求められています。基幹事業の収益が減っていくなか、石油化学プラントに大きく乗り出し、今では事業の柱に育っていますが、その内容は1件1件違います。そういうなかで、日々、事業領域の変化を実感しているはずです。
三村:私見ですが、特に東海地区はどの業種も全国的に見て競争環境が一段厳しい地域のように感じます。
栗山:中部電力が火力事業を切り離して東京電力と共にJERAという世界最大級の発電会社をつくるなど、既存事業でも競争環境が激しくなっています。ましてや、一般のお客さまの競争意識は高く、受注するのもすべて競争ですし、工事コスト原価の抑制も厳しく求められます。
三村:今回皆さんが、社長塾に真剣に取り組んでいただけたのも、下地として、社会や業界が大きく変化していて、その変化に適応することが必要命題だという共通認識があったのだと感じています。
現在、貴社にとって共通の課題はどのようなことになりますか。
栗山:そうですね。我々の会社にとって今一番のキーワードは「カーボンニュートラル」です。社会の要請が高まり、法整備が整ってきたことで、各事業者が一斉に動き出しました。カーボンニュートラルに向けての投資、より低炭素の燃料への転換工事の需要が高まっていて、我々はそれを拾い上げることができるわけです。
そういう環境にあること、そういった仕事に携わることで会社も自分も成長できることを認識してもらうことが、育成の視点から非常に大事だと考えています。事あるごとに経営層からもアナウンスしますが、日々の仕事をするなかで変化を実感してもらい、どうするべきかを自分たちで考えてもらう――それが、将来の中部プラントサービスのあるべき姿を考えることにつながっていくと思っています。
三村:社長塾の最終発表の中でも、カーボンニュートラルなどの経営課題をかなり意識したものが多かったですね。ディスカッションやグループワークを通じて、皆さん同士が互いに社内、社会、業界の課題を共有する機会にもなったと思います。
7.幅広い視点で自社の事業ポートフォリオを描ける人材を育てたい
三村:最後に、社長として、企業活動や人材育成に向けた抱負をお聞かせください。
栗山:先ほど申し上げましたように、社会環境、事業環境、お客さまの動静が本当に急速に変革していますので、そういった情報にアンテナを高くして敏感になってほしい。そういう人材を増やしていきたいと考えています。これが将来の経営層になるベースの感覚だと思います。
それと、今後、当社がどこに注力していくべきかという事業のポートフォリオを描けるようになってほしいですね。当社は工事会社ですけれど、私は、工事だけでやっていくのではなく、運用まで踏み込んでいいんじゃないかと捉えています。今もバイオマス発電所を自社設備として建設し、売電事業をしていますが、売電に限らず、設備を運営していくことで収益化していくビジネスモデルが考えられます。事業環境を捉えてどこにチャレンジするかを常に意識し、それを含めて事業のポートフォリオを描ける人材が求められます。
三村:塾生の発表に「ワンストップサービス」というキーワードがありました。時代の流れとしてニーズが高いでしょうね。御社の経営理念の一つである「お客さま第一」にもつながりますよね。
栗山:はい。ただ、今は受注環境がよい一方で、要員確保が厳しい状況にあります。そして、今後、少子化でますます要員の確保・維持が難しくなっていくことが想定されます。そのミスマッチをどう埋めていくかということも含めて、将来、当社はどのくらいの規模で、どういう事業ポートフォリオを目指していくのかを考えてほしい。そういうことを自ら考える人材が増えていくことで、中部プラントサービスの持続的発展が実現できると考えています。
三村:今はもう高度成長期のように右肩上がりというわけにはいきませんよね。社長がおっしゃる通り、会社の規模感や受発注状況と要員等のリソースの兼ね合いの見極めは、非常に重要ですね。御社が今後も発展され、社員のやりがいや「中プラ愛」がさらに高まっていくことを願っております。本日は貴重なお話をありがとうございました。
8.対談者プロフィール
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~Leadership Snapshot
10.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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