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リーダーシップ開発に変革を起こす

1.リーダーの行動変容を促す

日本企業が自社で企画しているリーダー養成プログラムには、「MBAや戦略立案」「リーダーとしてのマインドセット」、最近注目されている「リベラルアーツ」といったリーダーに必要な概念的コンテンツは、ほとんど網羅されています。MBAや戦略立案など、ビジネスのフレームワークに関する知識は、リーダーにとって必須の知識です。


しかし、一般的にMBAホルダーは、ビジネス感覚は優れていますが、一方で、重要とされるリーダーシップスキル(コーチング、人材育成、成果達成の推進、ビジョンの訴えかけ、等)は弱いという考察が、DDI社のアセスメント結果から得られています。MBAなど概念化能力を強化することと同じく重要なことが、“リーダーシップ開発”です。ビジネスの戦略立案も重要ですが、優れた戦略は実行されなければ結果につながりません。MBAだけでは、「世界で勝てる優れたリーダー」の育成を速めることは難しく、本人にとっても組織にとっても最も成功につながるリーダーシップ・コンピテンシーを開発することが重要です。

リーダーシップ開発の目的は、リーダーの行動変容を促すことです。リーダーの言動が変わることによって、メンバーの言動に良い影響を与え、それがビジネスに変化を引き起こす。結果としてビジネスインパクト(業績)に影響を与えること、それがリーダーシップ開発の最終ゴールです。

効果的なリーダーシップ開発は、リーダーの質を向上し、結果として業績に影響を与えるということが、 GLFの結果からも検証されています(第1章図表4参照)。

人事は、経営スキルの教育だけに偏重するのではなく、リーダーの行動変容を促すリーダーシップ開発にも力を入れ、現在のリーダー育成の取り組み方法をさらに改革していく責任があります。

2.民主的アプローチからの脱却

日本の人事は、これまで、個人に目を向けた「リーダーシップ開発」を重視してきませんでした。その背景には、新卒一括採用により同一性の高い組織をつくり、全員にできる限り民主的に機会を与え、課長までは“横並び”で昇進・昇格させていく横並び主義(平等)の育成が主流ということがありました。

右肩上がりの経済成長の時代であれば、民主的なアプローチであっても、次々と新たな仕事の機会があり、全体管理で民主的に進めていても、人は育っていきました。

しかし、入り口で粒のそろった人材を採用し、全体の底上げを図っていく従来のやり方では、グローバルポジションを獲り、世界で戦えるリーダー人材の育成スピードがビジネスのスピードに追いつきません。そのため、優れたリーダーを、輩出することができなくなっています。日本人のリーダーシップが停滞している現状を打破するためには、全員を等しく平等に育成する民主的なやり方は、限界にきています。

たとえ一括採用であっても、全員を横並び主義で育てる方法は、変えることができます。成長する可能性の高い“ハイポテンシャル人材”を見極め、優先的に投資して、成長スピードを速くすることが、ビジネスニーズ上、待ったなしの状態になっています。リーダー育成は、民主主義ではなく、もっと個の特性に目を向けて能力を伸ばしていくのが今のトレンドです。

個人一人ひとりを丁寧に見極め、客観性が担保できる方法で診断を行います。そのうえで、個人の特性をふまえた能力開発計画を策定し、組織的にリーダーシップ開発をサポートして育成を加速させていきます。リーダーシップ開発の手法を、ビジネスの課題に合わせて、関係者を巻きこみながら、進化させていく責任が人事にはあります。

3.ハイポテンシャル人材の発掘

DDI社の2014年GLF調査によると、ハイポテンシャル人材を登用・育成するプログラムを持っている企業は、グローバル全体では66%ですが、日本は33%です。日本でも増えてきたとはいえ、年次を重視し、民主的な育成を是としてきた日本企業には、差別化してリーダー人材を育成していこうという意識は、まだ弱いのが現状です。

また、ハイポテンシャル人材プログラムがあっても、それが有効に機能しているとは限りません。グローバル全体でも「あまり有効でない」と回答した人事担当者が74%におよび、日本では、なんと90%が有効でないと回答しています。

ここからは、ハイポテンシャルプログラムの運用が、どうすれば有効に機能し、リーダーの育成を加速できるかについて考えていきます。

4.ポテンシャルを定義し、診断する

ポテンシャルとは、仕事ぶりではなく、「個人がリーダーとして速く成長する可能性」ということです。その個人が特定のポジションに合っているかどうかは別のテーマであるということも留意すべき点です。

ポテンシャルを診断する目的は、成長のための投資を決めるためです。ハイポテンシャル人材としてプールメンバーに入ったタレントには、特別なトレーニングに参加させたり、重要な仕事にアサインするなど、会社としてハイポテンシャル人材には、将来の成功に向けて大きな投資をすることになります。そういった理由から、成長する可能性の高い人材を選ぶということは、ROI (投資利益率)の観点からいって、重要となります。

ただし、ポテンシャルの診断は、リーダーとしての準備度の診断ではないことも、明確に切り分ける必要があります。

DDI社では、リーダーに求められるポテンシャル要素を以下の四つのカテゴリーに分類しています。(図表17)

図表17 リーダーシップ・ポテンシャルの要素

① リーダーとしての素養

課題が浮上したときにリーダーの役割に直ちに就くことができ(公式にあるいは非公式に)、他者の最も良いところを引き出すことのできる人。信頼性が高く、私利私欲なしに、組織やメンバーのためになるような結果を達成することに尽力する人。

人を率いることに興味があることは、リーダーとして活躍するための大事な要素です。そもそも、人を通じて何かをすることに関心の薄い人は、リーダーとしての成長の可能性は高くないでしょう。優れたリーダーにお話を伺うと、多くの方か「人を育てることが好き」ともおっしゃいます。

リーダーの役割というのは人を通じて成果を出すことですから、人の良いところを引き出すことができるということは、リーダーとして成長していくうえでの重要な要素です。

② 成長志向

新しい経験を重んじ、フィードバックと新たに学んだ知識を利用して成長しようとする人。改善に向けた他者の助言に好意的な反応を示し、建設的なフィードバックを求める。新たに学んだことを取り入れて、常に自分のとるアプローチを調整する人。

優れたリーダーは、いくつになっても、「成長したい」という意欲を持っています。言い換えれば、学習能力が高い人です。多様な情報がインプットされたり経験が付与されたりしても、そこから学ばない人は、成長が頭打ちになる可能性が高いです。

フィードバックに対する受容性も必要です。ある会社で360度診断の実施を企画したところ、経営トップは前向きでしたが、その下の役員クラスが抵抗を示したそうです。何歳になっても、フィードバックを求め、それを自分の中に取り入れていく姿勢が大切です。

③ 組織バリューと成果の両立

常に、組織独自の文化に合う方法で有益な結果を出す人。組織の価値の柱であり、職務を最後までやりとおして、目に見える結果を出すことに情熱を持っている人。

リーダーは結果に対するコミットメントが高くなければなりません。「絶対に結果を出す」「もっと高い成果を上げる」という成果達成意欲がとても大事です。

一方で、その企業の文化に適応することも欠かせません。個々の会社には、その会社の歴史の中で培われた組織風士や価値観があり、それを踏みにじってまで成果を出そうとすると、うまくいかないことが多いものです。

例えば、日本らしさを大事にする組織において、徹底した個人主義で成果を出そうとしても、よい結果を生まないことが容易に想像できるでしょう。壊してよい価値観もありますが、成果を出すことと組織が大事にしているバリューを両立させていくことが求められます。

ポテンシャルの各要素は、普段の行動に表れます。職場で観察されたその人の行動を具体的な行動情報として収集し、関係者がデータを持ち寄り、客観的に診断します。この方法を導入している人材育成委員会のメンバーか自ら現場にいき、人材情報を収集したり本人と面談したりするなど、組織的にリーダー人材を育成していくことへの関心や問題意識が、以前に比べて高まっているという例もあります。

④ 複雑な状況への対応力

複雑な課題に直面したときに、特に優先度の高い少数の事項に重点を置き、障害に素早く適応できる人。概念的にモノを考え、難しい職務の曖昧さをうまく切り抜けることができる。また、周囲の状況の変化に応じてアプローチを変えることができる。

複雑で変化の激しい状況にも柔軟に適応し、方向を示せることは、現代のリーダーにとって大変重要です。物事を俯瞰し、本質を見抜くコンセプチュアルスキルも求められます。こういったことは、能力開発で育成して伸ばしていくことが難しいと言われています。

5.ハイポテンシャル人材の割合

ハイポテンシャル人材のプールを形成するときに、検討すべきポイントは、どのくらいの人数を、ハイポテンシャルプールに入れることが妥当かということです。

選ばれた人のエンゲージメントと定着を最適化する適切な割合は、15~30%と言われています(図表18)。100人の若手リーダー候補の人材がいたとしたら、ハイポテンシャルプールに入るのは、15~30人が最適な人数です。

図表18 ハイポテンシャル人材のエンゲージメントと定着を最適化させる適切な割合 (出典)DDI「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2014|2015」

仮に10人以下に絞ると、「どうせ私は入れない」「別の会社に移ろうか」とプールからこぼれた人材のモチベーションが下がる可能性があります。逆に35人以上の人がプールに入ると、「誰でも入れる」という印象になり、本当のハイポテンシャル人材のモチベーションが下がってしまいます。

この割合は、若いうちは多く、リーダーシップ・パイプラインの階層が上がるとだんだん割合を少なくするというものではなく、どの階層においても15~30%が最適とされています。ただし、リーダーシップ・パイプラインの階層が下のほうが候補者の母数が多いので、人数は必然的に若手ほど多くなります。

6.「人を見る眼」を磨く

「人材育成委員会」と称する機関を設置し、経営の優先事項の一環として、ハイポテンシャル人材のタレントレビューを行い、組織的にリーダー人材育成に取り組んでいる企業が増えています。各ビジネス部門のリーダーにとっては、組織のタレントを発掘し育成する責任は自分たちのアカウンタビリティであるという意識改革にもつながり、人材育成への関心も高まる良い効果があります。

一方で、ここには大きな落とし穴が一つあります。ハイポテンシャル人材の発掘を見誤ると、その後、どんな効果的なリーダーシップ開発を行っても、優れたリーダーに育成することはできません。大事なことは、最初の発掘で間違った判断をしないようにすることです。

人材育成委員会を意味あるものにするために、人事がすべきことは、人材育成委員会の構成員の「人を見る眼」を磨くことです。「人を見極めることは、機械ではできない、組織にとって重要な仕事」だからこそ、人事の専門性と価値が求められます。人事のプロフェッショナルとして、人材育成委員会メンバーの評価眼を磨くと同時に、隠れた人材を発掘するための仕組みづくりや、委員会の話し合いの質が高まるよう、参加メンバーのファシリテーション力の向上も課題です。

「優秀な人材はこういう人」という個人的な主観や従来の価値観に偏重したタレントレビューが行われている限りは、誤った判断を生む可能性が高いです。隠れた人材が発掘されなければ、企業にとっては大きな損失になります。往々にして、人材に関する話し合いは、主観的になりがちです。だからこそ、客観性の高い事実データを提示することが重要です。

そして、人の話し合いだけに終始するのではなく、会社のビジネスや経営戦略の話し合いと関連づけながら、タレント戦略を話し合うことが前提です。人の問題とビジネスの問題を切り離すことはできません。

人材育成委員会は、メンバーが集まって、人材について評論する場ではないということです。

7.おすすめ人材アセスメントソリューション

8.グローバルポジションを獲りにいく

グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。

日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。

9.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター

創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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