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マーケティング戦略の地図① セグメンテーションの要点と設計図

マーケティング戦略を考えるうえで、まず最初に押さえておきたいのが「誰に対して、どのように価値を提供するのか」という問いです。この問いに答えるためには、“セグメンテーション”を正しく理解しておくことが極めて重要です。セグメンテーションとは、多様な顧客をいくつかのセグメント(グループ)に分け、それぞれのニーズや特性に応じたアプローチを行うための考え方です。近年は消費者の行動や嗜好が多岐にわたり、メディア接触や購買チャネルも急速に変化しています。こうした環境下で、すべての消費者に画一的なマーケティングを仕掛けても効果は得られにくくなっています。そのため、適切なセグメンテーションを行い、狙うべき顧客像を明確にしたうえで、ピンポイントな施策を打ち出すことが勝敗を分ける大切なポイントとなっています。

(1)セグメンテーションの意義――なぜ切り分ける必要があるのか

セグメンテーションの最大の利点は、自社が提供する商品・サービスと、顧客が求める価値を“適合”させやすくすることにあります。現代のビジネスにおいては、自社の強みを把握するだけでなく、顧客が抱える課題やニーズを詳しく理解することが欠かせません。セグメンテーションによって、複数の“候補となる顧客層”を切り分けることで、それぞれが何を重視し、どのような行動パターンを持っているのかをより明確に把握します。

たとえば、同じ「健康食品」を販売するとしても、

  • 「ダイエットをしたい若年層」

  • 「生活習慣病を意識し始めた中高年層」

  • 「スポーツやトレーニングに本格的に取り組むアスリート層」

では、製品に求める内容や販売チャネル、広告の打ち方などが大きく変わってきます。セグメンテーションを正しく行うことによって、こうした多様な顧客層の違いを細かく捉え、自社の経営資源を最も効果的に投下できるターゲットを選定するわけです。結果として、競合との明確な差別化が可能になり、顧客とのコミュニケーションも取りやすくなります。特に広告費などのマーケティングコストを効率的に使える点で、セグメンテーションは非常に有用な手法となります。

(2)セグメンテーションの代表的な切り口

セグメンテーションを行う際のアプローチには様々なものがありますが、ここでは代表的な2つの視点として、デモグラフィック(人口統計学的変数)とサイコグラフィック(心理・価値観的変数)を紹介します。

デモグラフィック(人口統計学的変数)
性別・年齢・家族構成・所得・職業・居住地域など、数値的・客観的な要素を基に顧客を分類する方法です。シンプルで分かりやすいという利点があり、事前に入手しやすいデータも多く、基礎的なマーケティング設計に役立ちます。ただし、同じ年齢や性別の人でもライフスタイルや価値観が大きく異なる場合も多く、一様に括るのは限界がある点は留意が必要です。

サイコグラフィック(心理・価値観的変数)
消費者のライフスタイルや興味関心、購買行動に影響を与える心理的側面に着目し、たとえば「健康志向が強い」「トレンドに敏感」「節約を最優先する」「自己投資意欲が高い」などの観点でグループ化する方法です。こちらは定性的な分析が中心となるため、明確なデータが得られにくい一方、顧客の行動原理に深く切り込めるという特徴があります。独自のアンケート調査や、SNS上の行動データなどを活用すれば、より精緻なセグメント設計が可能になります。

さらに、近年はDXの進展によって、オンライン上での行動データや購買履歴などを個別に分析し、AIを活用したカスタマイズ型のセグメンテーションを行う企業も増えてきました。たとえばECサイトでは、過去にどんな商品をカートに入れたか、どんなページを長く閲覧したかなどのビッグデータをもとに、「似た嗜好を持つ顧客」を自動的にクラスタリングし、それぞれに最適な商品レコメンドやクーポン配信を行っています。このように、セグメンテーションの切り口は時代とともに多様化しており、自社の事業内容やターゲットとなる市場環境に応じて柔軟に設計する必要があります。

(3)セグメンテーションの実践手順

実際にセグメンテーションを行う際は、以下のようなステップを踏むと効果的です。

  1. 目的・ゴールの明確化

    • まずは「何のためにセグメンテーションを行うのか」を定義します。新商品開発のためか、既存顧客とのロイヤルティ強化か、広告ターゲティングの精度向上か、目的によって分析の深度や切り口が変わってきます。

  2. データの収集・分析

    • デモグラフィック情報や購買履歴、アンケート調査、SNS分析など、可能な限り多角的なデータを集めます。定量データだけでなく、インタビューなどによる定性情報も有効です。

  3. 分析軸の設定・分類

    • 収集したデータをもとに、「年齢×ライフスタイル」「所得×購買頻度」「健康志向×情報収集チャネル」など、目的に合った軸を設定します。ここで決めた軸によって、どのようにセグメントを切り分けるかが大きく左右されます。

  4. セグメントのプロファイリング

    • 分類された各セグメントがどんな特徴やニーズを持ち、どのような行動パターンを示すかを詳細に記述します。「このグループはSNSの口コミを重視し、割引クーポンに弱い」「このグループは高くても品質やブランドを重視する」など、具体的なイメージを共有できるように作り込むのがポイントです。

  5. 優先セグメントの選定と戦略立案

    • 全てのセグメントに同じリソースを割くわけにはいかないため、企業として最も魅力的かつ攻略可能性が高いターゲットを絞り込みます。そこから、プロダクトや価格、プロモーション施策などを検討していくわけです。マーケティング・ミックス(4P)を最適化するうえでも、この段階の明確化が欠かせません。

この一連のプロセスを経て「自社が狙うべき顧客層は誰なのか」を明確にすることで、その後の施策全体に統一感が生まれ、成果につながりやすくなります。

(4)「桃屋」のケースから見るターゲット再定義と顧客ニーズ把握

先にも触れたように、“ごはんのお供”で有名な桃屋は、従来の既存顧客だけでなく、新たな顧客層の発掘に成功してブランド価値を再構築してきました。同社の戦略からは以下のような示唆を得られます。

  • 若年層のライフスタイルを考慮したセグメント設定
    近年、単身者や共働き世帯が増えたことで“時短ニーズ”が高まり、「簡単に美味しい食卓を用意したい」という層が増加しています。桃屋は「ごはんですよ!」などの定番商品に加えて、手軽に使える辛み調味料や万能調味料などを拡充し、短時間調理で“ひと味違う”食事ができる楽しさを訴求。若年世帯を新しいターゲットセグメントのひとつとして強く意識したと考えられます。

  • 海外志向や多国籍料理を好む層への訴求
    SNSの普及や海外旅行の経験増により、料理のレパートリーが国際色豊かになったり、スパイスやエスニック料理を好む人が増えたりしています。桃屋は、こうしたトレンドに合わせて“ご飯のお供”の範囲を広げ、レシピ提案などを通して「定番和食」だけでなく「ちょっとしたエスニックテイスト」にも応用できることをアピール。これによって「伝統的な漬物・佃煮のメーカー」というイメージを超えて、多彩な料理好き層へも届くブランドになっています。

このように、桃屋はデモグラフィック面(年齢、家族構成など)とサイコグラフィック面(時短志向、海外料理への関心など)の両軸で顧客層を切り分け、新しい需要の取り込みを実現したと推測されます。結果として、新商品のヒットやSNSでの話題づくりにつながり、従来の既存顧客との両立もしっかり維持しているというのが大きな強みです。

(5)セグメンテーションを成功に導くためのポイント

セグメンテーションは多くの企業が取り組んでいる手法ですが、必ずしもすべてが成果を上げているわけではありません。セグメンテーションを成功に導くためには、以下のようなポイントを意識するとよいでしょう。

  1. データに基づいた客観的な判断と、想像力を活かした解釈の両立

    • 定量的なデータ分析だけでは顧客の心を掴むのは難しい場合があります。逆に、感覚や憶測だけに頼ると、マーケティングの方向性がぶれてしまう恐れがあるため、データと顧客理解のバランスをとることが重要です。

  2. 絞り込みすぎない、拡散しすぎない

    • セグメントを細かく分けすぎると、かえってターゲットが少なくなりすぎ、採算が合わなくなるリスクがあります。一方で、広すぎるセグメント設定では差別化が難しくなります。自社の経営資源や目的に合わせ、適切な粒度を見極めましょう。

  3. 継続的な検証と更新

    • 一度セグメンテーションを行って終わりではなく、顧客ニーズは刻々と変化していくため、定期的に評価・更新を行う姿勢が求められます。商品ライフサイクルや技術革新などによって、顧客セグメントそのものが移り変わることは珍しくありません。

  4. 全社的な理解と連携

    • セグメンテーションの成果を最大化するには、マーケティング部門だけでなく、営業・開発・製造・経営陣など全社的な連携が欠かせません。たとえば新たに発見したセグメントのニーズに合わせて商品を改良しようとすると、開発や製造部門の協力が必要になりますし、価格戦略の変更は経営判断が絡むことも多いです。組織横断的に情報を共有し、意思決定を早める仕組みを築くことが成功への大きな鍵となります。

まとめ

セグメンテーションは、現代のマーケティング戦略において避けて通れない手法です。多様化する顧客ニーズを正しく捉え、「どの層にリソースを集中させるのか」を明確にすることで、競合市場での差別化や販促コストの効率化を図ることができます。加えて、顧客とのコミュニケーションも具体化しやすくなり、より深いブランドロイヤルティを育む土台づくりに繋がります。

企業が限られた経営資源を効率的かつ効果的に投入し、競争優位を築くうえで、セグメンテーションが果たす役割は今後ますます大きくなると考えられます。デジタル技術の進化によって、より細かな顧客分析が可能になる時代だからこそ、ビジネスパーソンはセグメンテーションの考え方をしっかり身につけ、絶えずアップデートを図ることが重要です。

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『最強のマーケティングOODA』
『基礎から学ぶデータサイエンス講座』
『経営マネジメントのための基礎講座』
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『DX人材の育成方法 完全ガイド: 技術革新に対応する戦略とプログラム』
『最適化 全ノウハウ: 分析のポイント』
『非線形最適化 全ノウハウ: 分析のポイント』
『コミュニケーションで人生を変える!: 誰もが羨む究極の方法』
『仕事のミスをなくす黄金ルール: 職場のトラブルを90%減らす秘訣』
『見るだけ中小企業診断士: 忙しいビジネスパーソンのための要点図解』
『エネルギー事業者必見!成功する 発電アセット投資: 火力発電所を事例に評価手法を紐解く』
『水素ビジネスの成功ハンドブック: 未来を切り拓くロードマップ』
『欠損データの正しい対処手法: 実務で使える理論と方法』

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