懐炉。。
櫻坂46/大園玲さん
夏の朝は早い。 朝6時にもなると明るさで目が覚めるくらい。 外に出た私は大きく息を吸い込む。 まだ少し冷たい外気で眠気も覚める。 「よし!」 久しぶりに訪れた地元の道を歩き出す。目指すはもちろん彼の家。 周りを見渡せば沢山の自然。所謂、田舎というものかな。 でも私はそれが好きだ。 もう畑仕事を始めている近所の人に挨拶をしながら歩いていると、あっという間に彼の家の前に。 庭先にいる彼のお母さんに挨拶をし、少し話をした。肝心の彼はまだ寝ているようだけどお母さんが快く家
「いいね、青春してんな若人たちよ」 グラウンドには部活で汗を流している生徒達 オレンジ色に染まりかけの空 その光景をぼけーっと眺める時間が僕は好きだ。 やっぱり何かに一生懸命に取り組んでいる姿ってのは格好良いもんだとしみじみ思う。 「君はいつからおじさんになったんだい?」 一人きりだった教室に賑やかな声が響き渡る。 「やぁ、五百城さん」 「やぁ、〇〇くん」 今の挨拶もおじさんぽかったかな それを分かってか、僕のマネをしながら挨拶を返す五百城さん。 こぼれる笑
山の中にある少し開けた場所 遊具は老朽化が進み 遊んでいる子供はほとんどいない その隣にはひっそりと佇む神社 そんな人気のない公園に一組の子供の姿 「嘘っ!今日も小吉だぁ…」 女の子は手に持ったおみくじを見てがっくりと項垂れる 「さすが、名前負けしてないね」 そんな様子を木陰から見ている男の子 「笑ってないで“ビー”も引きなよ」 女の子から【ビー】と呼ばれた男の子は笑いながらも首をふる 「やめとくよ。小吉に悪いし」 「ねぇ、やっぱり私の引きが悪いのはその
ラジオをつける 流れ出した音楽は知らない洋楽 でもなんだか心地よい 今なら考え事なんて全て忘れられそうだ 朝からの憂鬱も 帰りの悩みも それもこれも全て… あぁ、馬鹿だな 結局、思い出してしまってるじゃないか もう何ヶ月も前の出来事なのに 僕から言い出したことなのに どうしても君の顔が浮かんでしまうんだ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ カフェにいる僕たちは普段と変わらない 静かな店内も 流れる音楽も 満面の笑みを浮か
君の姿が見えない いそうな場所を手当たり次第に探してみるが 「見つかんないな」 ふと窓の外を見てみる小さな子供が楽しそうに走り回っている 空からの熱光線にも負けずに 腰にはヒーローベルトをつけて それはもう、楽しそうに 微笑ましく思っていると先の部屋からなにやら物音がした そこは倉庫として使用している場所だ ゆっくりと扉を開けると、一人の女性が一枚の作文用紙を読んでいるところだった 「何読んでるの?」と声をかけると薄ら笑いを浮かべながらコチラを振り返る 「小
「あ、飛鳥ちゃん…?」 僕の一言に返事はなく ただエアコンの音だけが響く 目の前の彼女は黙々と目の前の食べ物を口に運ぶ 態度だけでわかるだろうが 彼女はご機嫌ななめである 事の発端は、間違いなく僕にある なんせ、今日は彼女との一年記念日 準備はしていた それは嘘じゃない 間違いがあったとすれば 僕が日にちを間違っていたことくらいだ そう、あれだけ念入りに計画したサプライズは 一ヶ月後に行われる その事実を君に伝えたのが 昨日の夜 意外にも返信はすぐ返って
「あっ……」 静かなことが売りの病院の待合室で 私の声が響く。 だってしょうがない、アイツがいたんだから。 ほら、私の声に気づいて大きく手を振ってくる 学科1の陽気者。 初対面の相手にも臆せず話しかけ、どんな相手でも友達になる奴だ。 例に漏れず、私もよく話しかけられる。 無視したのが悪かったのか必要以上に話しかけられるので迷惑していた相手だ。 うつむいて早く母が返ってくるのを願う。 ソファの左側が沈む。 「飛鳥ちゃんだよね?やっぱりそうじゃん」 私は苦手なの
『先輩、あのね?』 スピーカーにしたスマホから聴こえてくるのは 元気すぎる君の声 「どうしたの?」 『へへっ……先輩!』 謎のやり取りを繰り返し話し始めたのは 今日の夢の話 夢の話から始まり、1日のあらすじを これまた嬉しそうに話す 僕はただそれを静かに聴いているだけ いつから始まったか、寝る前の電話 僕はこの時間が好きだ 何にもなかった1日が 意味あるものに変わる気がするから 『それに、今日の夕飯は唐揚げだったんです!』 「おっ、それはいいな。奈央の母さ
〚1日〛 〚もう1日だけでいい〛 ︎ ✧ 「私の話ちゃんと聞いてる?」 前を歩く君は振り向きながら不機嫌な顔をこちらに向ける。日が長くなり帰り道もまだ明るい。 「あぁ…悪い聞いてなかった」 「普通、嘘でも聞いてたって言うもんだよ」 頬を膨らませるが怖さなんて微塵もなく。 逆に『かわいいな』なんて思ったりもして、つい君の頭に手を乗せてしまう。 「何、この手」 「なんとなく?」 「どけて」 でも自分から払うなんてことはしなくて、ただ黙ってこちらを睨みつける
夜中にスマホの着信音が部屋に木霊する。 この時間帯にかけてくるのは、あなただけ。 案の定、スマホの画面には見慣れた名前が。 《もしもし》 《あぁ~出るのが遅いぞぉ~》 《ごめん》 《もう、私がどうなっちゃってもいいわけ?》 《すぐ行くから》 《ふふ…待ってる。私には〇〇だけが頼りなの》 またそんなこと言って、思ってもないくせに。 僕は彼女から指定された場所へと車を走らせる。 到着すると女友達に介抱されているあなたを見つけた。 『ほら、彼が来たよ』 「やっ
この胸の高まりは一体何なのだろう。 その答えに私はまだ、たどり着けていない。 ︎ ✧ 外から差し込む光。 図書室の温度が光により暖まる。 私は持ってきた本を開き窓の外を見る。 放課後の校庭では部活前の生徒と彼。 楽しそうにボールを追いかけている。 彼は隣のクラスの〇〇くん。 明るくていつも元気 無邪気で人懐っこい性格な彼は、どんな人とも直ぐに友達になれるらしい。 女子の人気も高い…と思う。 クラスの女子もよく彼らの話を話しているから。 「私とは正反対」 暗く
「ん~冷たい!」 夕陽の沈みかけている砂浜に僕と君。 真面目でしっかり者な君がこんなにはしゃぐなんて。 「転ばないようにね」 「一緒に走らない?」 手招きしながら微笑む。魅力的な誘いだが僕は断る。 「僕は、いいよ」 顔が悲しげに曇った。その表情を見ないように視線を下げる。 僕だって君の隣を一緒に走りたい。でも、僕にその資格は無い。 それに夕陽に照らされる君をこうやって見ていたい気持ちもあるんだ。 「それに濡れちゃうと…」 言い訳を重ねようとしていると右手に
「はぁ…」 ため息をつく。寒さのせいで煙を吐いているかのように空へと浮かぶ。 手に持った箱の中には、残った10本の煙草。いつもなら、この時間が楽しみなはずだった。 残りの本数が半分を切ったから 外が寒いから 彼が、私に、冷たくなったから? いや、そんなわけない。 私は、1本取り出し口に咥えた。 ライターをつけると、私の瞳は温かいオレンジの光に吸い込まれた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1日目。 どれだけこの日を待ちわびただろ
『玲ちゃん、いつの間に不良になっちゃったの?』 私の隣には、慣れた所作で煙草を吸う彼。 その存在を私はまだ信じられていない。 だって彼は先月、 交通事故で亡くなったのだから。 ︎ ✧ 『大園先輩はまだ残るんですか?』 「うん、もう少しだけ」 『そう…ですか。お先に失礼します』 「お疲れ様」 最後の後輩を見送るとフロアには私一人。 今日の分の仕事は終わっているけれど 「頑張らないと…」 自分を鼓舞し作業に戻る。 そう、頑張らないと ︎ ✧ 「ただいま
「コテツ~」 わふっ 「ふふ…起こしてごめんね。ゆっくり寝てて」 私の声に反応し返事をくれたのは愛犬の『コテツ』。 人間の歳だとおじいちゃん。 美しかった毛並みも艶がなくなってきた。 体力も衰え、一日中寝て過ごすことが多くなり 一緒に散歩をすることも出来なくなってしまった。 「じゃあ学校行ってくるね~」 ……わふっ 珍しく起き上がり私をお見送りしようと後をつけてくる。 「まてだよ」 しかし、コテツの動きが止まることはなかった。 結局、つたない足取りで玄関まで
とある教会。 白い衣装を身に纏った二人組が出番を待っていた。 『ねぇ』 『どうしたの?』 『いや…何でもない』 『もしかして緊張しているとか?』 『……するに決まってる』 『僕もだよ…心臓が飛び出そうだよ』 『何よ…本当に飛び出るかもね』 『怖いこと言わないでよ!』 『ふふ…』 真っ白なウエディングドレスを着た君は 今日はじめて柔らかい笑顔を見せた。 白のタキシードの僕は君の笑顔を見て同じように 柔らかい表情に。 『でもまさか君も緊張するなんて…』