一晩中。
夜中にスマホの着信音が部屋に木霊する。
この時間帯にかけてくるのは、あなただけ。
案の定、スマホの画面には見慣れた名前が。
《もしもし》
《あぁ~出るのが遅いぞぉ~》
《ごめん》
《もう、私がどうなっちゃってもいいわけ?》
《すぐ行くから》
《ふふ…待ってる。私には〇〇だけが頼りなの》
またそんなこと言って、思ってもないくせに。
僕は彼女から指定された場所へと車を走らせる。
到着すると女友達に介抱されているあなたを見つけた。
『ほら、彼が来たよ』
「やっと来た~もう遅い!」
「ごめん」
『いつも以上に飲んじゃってて』
「大丈夫、慣れてるから」
「いつまで他の女と話してるの~」
そう言って僕の胸へと飛び込んでくる。
「〇〇は私のなんだから!」
やめてくれよ、僕の鼓動が早くなっているのがバレるだろう。
「ほら、いくよ」
「うん。じゃあ皆またね~」
おぼつかない足取りのあなたに肩をかしてなんとか車まで運ぶ。
車を走らせる。家につくまであなたはずっと話し続ける。
今日はどれだけのんだとか
どんな話をしたのだとか
僕はそれを聞き流すだけ。
家についた。インターホンを鳴らす。
中から1人の男性が。
『〇〇くん、ごめんねいつも』
「いえ」
『美月も、ちゃんとお礼を言うんだぞ』
「わかってまーす」
車を降りたあなたはもう一度僕に抱きつくと
僕の頬にキスをする。
「はい!お礼!」
あの人が見てるのに、なんでキスなんかするんだよ。
『まったく、いつ見ても仲がいいね君たちは』
「へへ~いいでしょ」
『ほら、〇〇くんも困ってるだろう』
引き離されそうになり抵抗するあなた。
なんとか離れてくれたが不服そうに愚痴をこぼしている。
『帰り道、気をつけてね』
「はい、ありがとうございます。後はよろしくお願いします」
「またね~〇〇!」
2人に見送られながら自分の家へと戻る。
部屋の中はさっきまでの騒がしさが嘘のように静かだった。
布団に入り、目を閉じる。
寝られるわけがないのに。
思い出すんだ。
微笑む表情、何気ない仕草、あなたの香りを。
あなたに言われた言葉たちを。
頭の中で繰り返されるんだ。
だから、音楽をかける。
意味がないと分かっていても。
もしも、違う出会い方をしていれば
その場所は僕のものになったのだろうか
いや意気地無しな僕には、同じ末路を辿ることしかできないんだろうな
正直に僕が「好きだ」と伝えたら、何と返してくれるのだろう
「私は愛してるよ!」なんて巫山戯ながらも嬉しい言葉をくれるかな
ただそれは、僕の【好き】とは違う意味なんだ
こんな僕をどう思う
姉さん
いや、本当は義姉さんだったんだけど
事実を知ったのは、義姉さんが結婚した後だった
もっと早く知っていれば…
なんて、結局はさっきと同じ答えで
大丈夫だよ
ゲームのアップデートと一緒さ
このバグは、いつかは更新されるんだ
時間が経てば
いつか
必ず
そう言い聞かせるんだ
今日も、 一晩中。
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