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ひーろーべると

君の姿が見えない

いそうな場所を手当たり次第に探してみるが



「見つかんないな」



ふと窓の外を見てみる小さな子供が楽しそうに走り回っている
空からの熱光線にも負けずに
腰にはヒーローベルトをつけて

それはもう、楽しそうに


微笑ましく思っていると先の部屋からなにやら物音がした

そこは倉庫として使用している場所だ

ゆっくりと扉を開けると、一人の女性が一枚の作文用紙を読んでいるところだった


「何読んでるの?」と声をかけると薄ら笑いを浮かべながらコチラを振り返る


「小学生の頃の将来の夢だって」



その笑いはどう見ても俺を馬鹿にする笑い方



「ちょ、何でそんなものが…!」



咄嗟に彼女から奪い取ろうとするがひらりと躱されてしまった



「あ、飛鳥…」

「ふふ……。僕の将来の夢は」



あろうことか彼女は音読し始める



「ああぁぁぁ!」

「スーパーヒーローになることです。だって」



その場に座り込みうなだれる

今、俺の顔は真っ赤になっているだろう



「…ひとおもいにやってくれ」

「そんな恥ずかしがることじゃないって。小さい子の夢なんてこんなもんだよ」

「小学6年生でもか」



「うんうん」と頷いてはくれているが口角は上がりっぱなしだ



「それにヒーローに憧れていたことなんて、初めて会ったときから知ってたよ」



言われてみれば彼女との出会いはこんな空が綺麗な日だった




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それはいつものパトロールの時間に起きた

その日も手頃な棒を握りしめ、その頃ハマっていたヒーロー番組の主題歌を歌いながら歩いていた

すると近くの公園がいつもよりも騒がしいことに気がついた



「これは事件だ!」



そう確信したオレは一直線にその現場へと走り出した

到着すると1人の子を数人の男の子が囲んでいた

座り込んでいる子は髪が長く、赤いランドセルを背負っていた

腕で顔を隠すようにしている
その男の子たちから身を守るように


オレは女の子を助けるため勝負を仕掛けた



そして見事に撃退することができた



逃げる時に『おぼえてろよ!』と言いながら走り去っていく

“テレビだけじゃないのか”と感動したのを今でも覚えている


後ろに女の子がいることを思い出し「もう大丈夫だ!」と声をかけてあげた

しかし、彼女から言われた言葉は



「別に助けてなんて言ってない!」


強がりの言葉だった



「次はあんたがいじめられるよ」



でもそれは言い方がキツイだけで
優しさからのものだってすぐにわかった



「ねぇ名前は?」

「変なやつに教える名前なんて無い」

「オレは〇〇!」

「だから言わないってば!」



ふと足元を見ると一冊のノートが
それを拾って彼女に渡した



「よろしくね、飛鳥ちゃん!」

「なっ……」



驚いた表情で差し出されたノートを奪うかのように取り上げる



「これで友だちだね!」

「はぁ?誰がよ!」



差し出した手は無情にも空を切った



「それに…友だちなんていらないし。いないし」

「えっ、じゃあオレが友だち1号か!」



喜ぶオレを呆れた目で見ている

そんな彼女の腕を掴む



「な、なにすんの」

「何って遊びに行くんだよ!友だちだから!」

「私は…」



腕を振り払い下を向く

だから今度は優しく彼女の手を握る



「えっ、えっ…」

「ほら行くよ、飛鳥ちゃん」



そして彼女が抵抗する前に手を繋いだまま走り出した



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「よく覚えてるな」

「忘れるわけないよ。散々あんたに振り回されたんだから」

「ぐっ……」

「木には登らされるし、終いには迷子にまでなって親にちょー怒られたし」

「わ、若気の至りですやん…」

「しかも次の日にはボコボコになってるし」

「それは、あいつらが中学生連れてきたからで…」

「心配したんだからね」

「謝っただろ」

「それなのに不良の道を歩んだ人は誰かな?」

「そ、それもあいつらのせいで…」



思い出す数々の日々

どれもこれも想像していた未来とは全然違った

でも今では、それもまた良かったんじゃないかって思える


それは、いつも君がそばにいてくれたからだと思うんだ


こんなことを思えるようになったのも
君のおかげだ


君から貰った分

これからの人生をかけて
何倍にして返すんだ



ヒーローになるためのベルトなんて
もう必要ない


ただ君を幸せにできるようなそんな男になるから



隣で微笑む君と
これからの人生を共に過ごしてくのだから



︎ ✧



本を探していたら古い一枚の作文用紙を見つけた

内容は彼が小学生の頃の将来の夢について

気になり読んでいると本人が扉を開け登場

慌てる姿が
おもしろくて
愛おしくて
ついからかってしまった



そして思い出す
あなたとの懐かしい日々を


ついつい話し込んでいると



『パパ!はやくかえってきてよ!』



と外からあの子があなたを呼ぶ声が


「はぁーい!」と、あなたは大きく返事をして立ち上がる


私はもう一度、あなたの作文に目を移す



そんな私にそっと手を差し伸ばす



「えっ……」



その手は子供の頃よりもはるかに大きい

当たり前だ


変わっていくものだ

でも変わらないものもある



声だって
年齢だって
互いの呼び方だって

変わっていく



でも

いつも私に手を差し伸べるのは


これから先も

ずっとあなたなのだろう



「ほら行くよ、ママ」

「ふふ……はいパパ」



手を握りあなたと歩き出す

外に出ると待ちくたびれた息子が勢いよくあなたに抱きつく

なにやら2人で約束をしていたようだ


そして始まるヒーローショー


もちろん息子がヒーローで 

あなたは悪役



2人だけのショーが終わって
あなたは私の隣へ座り込む



「悪役にはなれたみたいだ」なんて笑っている


あなたは『ヒーローにはなれなかった』と思っているでしょう



「まったく、困ったパパだね」

「な、なんだよ急に」



確かにテレビや映画のような
スーパーヒーローにはなれていない

特別な力もないし

格好良く変身だってしない


私だってそんなこと望んじゃいない



「まぁ、別にヒーローになれなくても愛する人の隣にいることができているから。俺は幸せだよ」



あなたはそう言いながら、私を真っ直ぐ見つめる



「なに?急にかっこつけちゃって」

「茶化さないでくれよ…。真剣なんだぞ」

「じゃあ私からも、言うことがあります」


「ん?」と、首を傾げるあなた



「わたしを」





夢は叶っているよ


だってあなたは地球上で唯一の存在



私に手を差し伸べてくれたあの日から


今も変わらず



世界中の皆を守る力がなくても

ヒーローベルトなんてなくても

 
ずっと



私の





私だけの





「見つけてくれて、    ありがとう」



“スーパーヒーロー”なんだよ



























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