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枯れ木に花咲かす

ラジオをつける


流れ出した音楽は知らない洋楽

でもなんだか心地よい

今なら考え事なんて全て忘れられそうだ


朝からの憂鬱も

帰りの悩みも

それもこれも全て…


あぁ、馬鹿だな


結局、思い出してしまってるじゃないか


もう何ヶ月も前の出来事なのに

僕から言い出したことなのに
どうしても君の顔が浮かんでしまうんだ



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カフェにいる僕たちは普段と変わらない

静かな店内も

流れる音楽も

満面の笑みを浮かべる目の前の君も


ただ一つだけ違うところがあるならば
今にも破裂してしまいそうな爆弾を抱えている
僕の心だろう



『どうかした?』



そんな僕を心配してか
なにも喋らないことに不安なのか
彼女は僕の顔を覗くように首を傾げる



「あっ、いや、その……」



歯切れの悪い返事に先程までの笑顔は消え心配そうに僕を見つめる

その表情にまた胸が苦しくなる



“決めただろう  今日は伝えるんだって”


「さくら。話があるんだ」



彼女の目をとらえる
後悔しないように、しっかりと

彼女はなにも言わず僕を見つめ続ける



「別れよう」

『えっ…』



表情が変わる前に僕はそっと視線を落とす


そのまま、また喋れなくなる



『なんで…。どうして?』



声が震えている


それでも、僕は前を向けない



「ごめん」

『説明……してよ』

「…ごめん」

『ちゃんと言葉で欲しいの』

「さくらは何も悪くないよ。僕が悪いんだ」



僕はやっと言葉を紡ぎだす



「なんかさ、一緒にいる時間が長すぎて」


“一緒にいる時間が好きで”



「さくらへの感情が薄れてきたっていうか」


“いつも君のことを考えてばかりだ”



「そんな気持ちのまま一緒に居ても楽しくないんだ」



机の上で組んでいた手にぬくもりが



『そんなことないよ。だから…』



僕は包まれている君のぬくもりから逃げるように手を引く


「ごめん」


ダラダラ言っているせいで
余計に君を傷つけている

だから、ちゃんと、はっきりと



「もう僕はさくらのことが……」



「好きじゃないんだ」


“好きだ”



2人の間に静寂が生まれる


そんなことはお構いなしに
店内の音楽は明るく
陽射しは暖かかった


「大丈夫だよ。さくらならいい人に巡り会えるはずだよ。僕なんかよりもずっといい人に…」



『嘘でも、そんなこと言わないでよ』



今日始めて聞いたハッキリとした大きい声


「違う、本当に…」と否定しながら下げ続けていた顔を上げた

怒っているだろう
失望しただろう


嫌いになっただろう

君のその怒りを受け止める気持ちで上げた視線の先で、君は大粒の涙を流していた



『嘘つき』



そう言って


君は笑った



席を立ち、横を通り過ぎる君を僕は見届けられなかった



『それでも、私はあなたが……』

『    』



その言葉に振り返っても君の走る背中しか
目に入らなかった


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いつの間にか曲は終わり
ラジオDJたちが先程の曲の説明をしている

そんな説明をよそに僕はベランダへ



綺麗な夜空を見上げると無性に叫びたくなった


不甲斐ない
本音すら喋れない
もう吹っ切れたはずなのに思い出してしまう

自分に



いや、やっぱり僕は嘘つきだ


だって見えている通りの向こうには
君の住んでいる家が

朝と帰りだって時間をずらすだけでいい

あの時の言葉だって
ただ僕に自信が無くて

逃げただけだ



好きじゃないって言ったけど


本当は

まだ



「僕は君が好きだ」





やっと口に出せた本音は


宛名の人物を見つけられないまま


夜空をゆらゆら舞いながら


消えていった






































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