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勝手に解説おめめどう(1)カレンダーを勧められるのはなぜか?

おめめどうというのは、兵庫県丹波篠山市にある自閉症の支援グッズを製造販売している会社です。うちには自閉症の子どもがいるわけでもないし、身内がそれで困っているわけでもありません。むしろ先天的な障害のある人との付き合いがないまま半世紀以上生きてきました。けれど、そんな私がおめめどうに出会い、その支援思想やノウハウを面白いと思ったのは子育てに必要な知恵をふんだんに含んでいると思ったからです。発達途中の「成熟しきっていない脳」を持っている幼い子供たちが時に見せる不思議な行動が、自閉症を理解することでわかることが多いように思ったのです。
何しろ私は自閉症の子どもや大人を支援する実践の場を持たないので理解が浅いところはあると思いますが、その分わたしなりに理論立てて自閉症を理解できているのではないかと考えています。そこで、私の理解と言葉で勝手におめめどうを解説してみようと思ったのがこのノートの主旨です。

第一回は初心者さんが必ず疑問に思うところを取り上げてみます。
それは何かというと「カレンダーをすべての基礎とするところ」。
おめめどうは、支援グッズの製造販売のほかに相談業務もやっています。
わが子が自閉症と診断され、おめめどうにたどり着いた人は先の不安とパニックの中で今困っていることをあれこれ質問します。
曰く、病院に連れて行くと泣き叫んで診察できない、幼稚園でみんなと同じ行動ができない、こだわりが強くて予定の変更が苦手、などなど。
こわごわと質問をした保護者に、必ず帰ってくる言葉がこれなのです。
「カレンダーやってる?」
言われた方は、何のことやらさっぱりわからないことでしょう。うちの子が病院で泣き叫ぶこととカレンダーに何の関係があるの?
長くおめめどうを続けていればわかることではあるのですが、逆に言うと、続けられずに辞めていく方々には伝わらないということです。もったいない。
そこで、これをまず解説したいと思います。

■人間関係の基本は相手の理解から

大変当たり前の話をしますが、人と人との関係においては「相手が嫌がることをしない」ということが大切です。そのためには「相手が何を嫌がるのか」を知ることが最低のラインとして必要だし、さらに進んで仲良くなるには「相手が何を喜ぶのか」を知らねばならないでしょう。それは相手が大人でも子供でも、障害があってもなくても同じことです。

アンパンマンも歌ってますしね。「何が君の幸せ、何をして喜ぶ? わからないまま終わる、そんなのは嫌だ」って。

夫婦でもそうですよね。相手の愛情表現が自分の求める愛情表現と一致していれば問題なく過ごせますが、これがずれているとうまくいかないことがよくあります。かたやサプライズやプレゼントなどの「テンションが上がる何かを与えてくれること」が喜びで そうされることを愛情表現と思い、かたや日々の生活の中のいたわりや やさしいスキンシップなどの「穏やかな交流」に愛を感じるなんて場合、相手に求めるものが違いすぎて不満がたまる一方でしょう。お互い相手に対する愛情はあって、自分なりの表現はしているのに、伝わらない。相手も同じ人間だから自分と同じようなことを喜ぶはずだ、と思っているからうまくいかないんですよね。

さて、そこでです。私たちは、宇宙人のような「話が通じない、寝ない、偏食のある、かんしゃく地雷がそこここに埋まっている」わが子となんとか仲良くなろうとするわけですが、ただでさえ削られる睡眠時間とHP さらに、他人様の目から発せられるチクチクビームによって心も体も常に疲労の限界、余裕がありません。そこに持ってきて障害を知らない人ほど「愛情が大事」だのなんだのマウントとってきますし。じゃあ、あなたがやってみれば?!と叫びたくなることでしょう。子どものことを理解しなくちゃいけないのは重々承知しているんです。愛情だって注ぎたい、でも、あまりに自分と違いすぎて理解の取っ掛かりが無いんです。

そんな時に知っておきたいのが自閉症の「特性」です。その子の個性を理解する前に、自閉症の特性を理解してほしいのです。

■カテゴライズはそこに共通項があるから生まれる

「まず、特性の理解を」なんて話をすると「自閉症である前に人間です。個性を持った人間としてその個性を尊重する気持ちが大事なのでは?」みたいなことを言い出す人がいて、うんざりするのですが、尊重なんてのはあったりまえの大前提です。尊重したいから仲良くなりたいんだし。もっと具体的な話をしてほしいですね。

うまい比喩が思いつけないので雑なまま出しますが、例えば私たちがペットを飼おうと思ったとき、犬でも猫でもその「飼い方」を学ぶために、彼らがどんな生き物で何を嫌がり、何が好きか、何を食べたら毒になり、具合が悪そうなときはどんな様子なのかをある程度勉強しておこうと思うんじゃないでしょうか? もちろん「うちのポチは食べ物は肉より魚が好きみたい」「遊ぶときはボールよりもフリスビーの方がお気に入りです」など細かい個性はあるんでしょう。でもその前に大枠として「肉食の動物だからたんぱく質を大目に。間違っても味噌汁かけご飯なんて食べさせないで。ねぎはアウト」ということは学びますよね。それは、犬という種の特性、猫という種の特性を学ぶことにほかなりません。

そして、犬でも猫でも、あれだけ多種多様な見た目やサイズの違いがあるのに、どうして「犬」「猫」と分類できるかというと、カテゴライズできる共通項があるからです。

「自閉症である前に人間です」というのは、当たり前ではありますが、同じ人間なのに分かり合えないから困っているんですよね? だとしたら、理解を遠ざけている「自閉症」という障害の共通項をまず学び、その育て方や、彼らにしてはいけないことを知ったほうがいいと思いませんか?

■まずはカレンダーと言われるのはこういうわけ

自閉症の人たちのもっとも特徴的な性質の一つに「同一性保持」というものがあります。

複数回繰り返し起きたことは「そうするものである」とマイルールとして定着してしまうことを指します。障害を持たない人たちの中にも、自分のルーチンから外れるとなんだか気持ち悪くて落ちつかなくなると感じる人は多いことでしょう。それが「我慢できない」レベルでやってくるのか「同一性保持」です。

どうしてそうなるのかはわかりません。そういう脳なのです。たぶん、今日と変わらない安心できる明るい未来を予想することが苦手なため(想像力の障害)、日常的に不安が大きく、自分を安心させる手段として「過去に倣う」ことを採用しているのだと想像します。小さい子たちが繰り返し遊びが好きなことによく似ています。あの人たちは繰り返しによって安心を得ていますよね。

これが他人にとっては迷惑に感じることが多いため「こだわり」などの言葉で困った行動として認識されているのです。

さてでは、この同一性保持から抜け出すにはどうしたらいいか?

「先のことがわからない不安」から「過去に倣う」ことを採用しているのなら、先のことをわかる形で提示してあげれば良いのです。これから先の予定をカレンダーやスケジュール表など「見ればわかる形」で伝えればよいのです。

ここがわかると、支援の基本がわかります。

「予告もなく知らないところに連れてこられて、理由もわからず知らない人に体を触られる」経験はだれだって恐怖です。けれど、「○月○日に✖️✖️病院に予防接種に行きます。予防接種というのは、△△という怖い病気にならないようにするための注射です」という事前情報が与えられ、病院の外観、先生の顔などを写真で見せられ、予防接種の段取りまでわかる形で伝えられれば、ある程度の不安は取り除けるのです。

これをしないで、不意打ちで連れていくと恐怖の記憶だけが頭にこびりつき、その後の病院受診に差し支えることでしょう。繰り返し恐怖を与え続ければ成長してからもパニックは消えません。

ここを知っているかどうかで、自閉症の人たちとの付き合い方がうまくいくかどうかが決まると言っても過言ではないのです。

基本的支援をした上で、その人の個別性に目を向けるというのが正しい順番です。

カレンダーで「この先起きることを視覚的に伝える」(それがきちんと伝わるまで行うためにもいくつかポイントがあるのですが、それはまた別の話で書きます)、ここをきちんと押さえているかどうかをおめめどうは訊いているのです。

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はんだあゆみ
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