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スマートカジュアルの呪いが追いかけてくる

ファッション用語に疎い。

疎い、なんて生やさしいものではない。
無知である。
いや、無知とはゼロのことか。
ゼロよりひどい、マイナスかもしれない。
おまけに、堅苦しい場をとにかく避け続けてきたので、冠婚葬祭のマナーもよく知らない。

そんな非常識な私のところに生まれた反動で、とても常識的に育った娘が、いよいよ結婚することになり、先方のご家族と顔合わせの場が設けられることになった。
それが銀座の「ちょっと良いお店」で、ドレスコードがあるという。
心配した娘が私にLINEを送ってきた。

一大事である。
私のせいで破談になっては、娘に申し訳なさすぎる。
しかし、喪服の次に高価な服は、山用のめちゃくちゃいいカッパ、その次がダイビング用ウエットスーツ(中華製)、そこからガクンとレベルダウンして、やっとユニクロが出てくるのが、私のクロゼットの中身である。
カッパやウエットスーツで都内の「ちょっと良いお店」に行くとしても、私の心理的抵抗はさほどない。
来いと言われれば、行ける。
ただ、ものすごく蒸し暑いだろうし、娘の心理的抵抗は、抵抗の域を超えた一個師団での徹底抗戦の構えになるだろうから、今後の関係を考えてやらない方がいい、というのもわかる。

なにしろ私には前科があるので、娘には全く信頼されていない。
中学時代の三者面談に、メカ沢くんのTシャツで出向いたことを、いまだにとんでもない悪事のように言われるのである。
私からすれば、そんなことは、先生だってとっくに忘れていると思うし、学校はそんなにフォーマルな場でもないと思うから気合い入れていくようなものでもなかろうと思う。
だが、多感な思春期に、親がこんな格好で進路を決める大事な三者面談に来たら、そりゃ怒るのも無理はないと、今なら理解もできる。

厳密にはこれではなく、色違いのもっと可愛いデザインだったけれど、メカ沢君とは、「魁!クロマティ高校」に出てくる主人公(人間)のメカの同級生なのである。

しかし、本気でオシャレに興味が持てないので、「スマートカジュアルでお願いします」と言われても、それがなんなのか、さっぱりわからない。

娘がサンプルとして送ってくれた服のリストを見るに
①地味な色合い
②無地
③足元はヒールのある靴
④ゴテゴテふりふりヒラヒラしていない
⑤ちょっとしたアクセサリーでワンポイント目を引く感じ
⑥化繊のツルッとした服(綿素材ではなさそう)
みたいなイメージかと理解したが、これが合っているのかどうかも自信がない。
そして、たぶん、私に似合わないだろうなあ、ということだけはよくわかる。
オシャレとかメイクとかってのは、日々の積み重ねがものを言う世界なので、その日だけ慌てて「スマートカジュアル」しようと思っても、絶対、そうは見えないと思うのだ。

「母は死にました」
とか言って、なんとかその日を乗り切ってくれないかなあと、アホみたいな妄想に浸りながら、ネットで服を見る。
やっぱり正解がわからない。
シンデレラの魔法使いが現れて、
「あなたを銀座の食事会に行けるよう、魔法をかけてあげましょう」
と、全身スマートカジュアルにしてくれないだろうか。
それか、今から会場を下町のもんじゃ焼き屋さんに変更してもらうとか。

考えても仕方ないので、とりあえず今日から、用もないのにメイクだけは毎日することにした。
これでスマートカジュアルに近づけますように。

**連続投稿247日目**

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はんだあゆみ
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