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子どもが楽しめるゲームデザインのUI/UX設計のキホンのキ

はじめまして。
この世界から"勉強"を無くすべく、
"気づいたら知りたくなっているゲーム"をデザインしている、

タンキュー株式会社の森本と申します。

5歳〜小学校低学年向けに、凡そ50個くらいゲームデザインをやってきました。

化学を学べるカードゲーム、アトムモンスターズ(シリーズ累計 4万部)

漢字が好きになるカードゲーム、カンジモンスターズ(シリーズ累計1.5万部)


うまく設計できたものもいくつかありますが、
そのほとんどが、率直に言うと通用しませんでした!!

子どもは正直です。

大人よりもずっと。

説明し終わるまで我慢なんてしてくれませんし、
直感的におもしろいと思わなければどっかに行ってしまいます。

というわけで、UI設計において、子どもは最高の師匠!!
ビシバシ鍛えられました ><

てなわけで、学んだことをシェアさせてもらいます!!
子ども向けにゲームを開発したい人は、ぜひご一読を!!


さてさて、まず最も重要な問いからスタート致します。


そもそも、おもしろいって何よ!?


さて、ど真ん中のこの問いには様々な答えが存在すると思いますが、僕は大胆な定義をしてみました。

"おもしろさとは、ドーパミンの適切なコントロールである"

Mr.ビーンに似ているでおなじみ、フランスの社会学者ロジェ・カイヨワは、あそびを4つに分類しました。

〈アゴーン(競争:文字通り徒競走など)〉、
〈アレア(偶然:ルーレットなど)〉
〈ミミクリー(模倣:演劇やRPGなど)〉
〈イリンクス(眩暈:絶叫マシーンなど)〉


Wikiペディアより。ビーンかカイヨワどっちでしょう

あぁ、わかるわかる。。。。


ほんで??

こういうのは分析には有益なのですが、
作るときには、別の視点が必要ですね。

で、注目しましたのが "ドーパミン" でございます。

ドーパミン、改名事件!!


人をやる気にさせるとか、食べ物を食べたくなるように仕向けるとか、動機づけに重要ということで、"報酬物質"や"快楽物質"と呼ばれてよく知られていたこの物質ですが、実はエポックメイキングが起こりました。

なんと、、、、改名されたのです!


その名も、

命名:期待物質


同じやんと思いました?

おさるがモンキッキーに改名されたくらいと思いました?

それが、全然違うんです。

今までの解釈では、狩りをして動物を狩って、おいしい食事にありつけたことを報酬として脳に刷り込んで、

「これはいいことだよー!」
「もっかいやってみよー!」

という風に機能すると考えられてきましたが、

実は、違ったのです。

ワシ(鷲)がとんでる、、、(観察)

あれ?もしかして、、、ってことは、、、(形式知や暗黙知をリサーチ)

下に弱ってる動物いるんじゃね!??(期待仮説)


報酬にありつける

かもしれないという、期待をする時

に最もドーパミンの分泌量が多くなることがわかったのです。

(予測誤差を表現する物質とかって訳したりされてますが、わかりやすく期待物質と言い換えております。あしからず。) ※参考 スマホ脳P71あたり

ギャンブルをしている人はおなじみ、

脳汁プシャー!!

でございます。

麻雀でいうと、リーチの瞬間。
スロットでいうと、法則ハズレの演出の瞬間。
ポーカーでいいますと、リバーが開く瞬間。

ビジネスでいうと、新規事業で良いアイディアが浮かんだ瞬間,,,etc

と、いうことで、うまくいった時ではなく、

「あたるかもしれない!」
「いけるかもしれない!」

その瞬間にドーパミンが分泌されるのです。

この変更が示しているのは、

おもしろさ=ドーパミンの分泌量 (僕定義) としたときに、

一番重要視するべきなのは、
報酬(達成した時に手に入れられるもの)ではなく、

期待(達成できるかもしれないという予測)の瞬間であることがわかりました。

さて、ここで重要になってくる情報がもう一つあります。

予測できないとおもしろくない


と、いうことは、僕の定義では、期待できないと面白いとは思えないわけです。

しかし、ここで、非常に重要な生物学的事情があります。

それは、子どもの脳と大人の脳は違うということです。

子どもの脳と大人の脳は違う

脳は、後ろから前へと発達していきます。

まず幼児の段階から発達するのは視覚。

小さな子どもが昆虫に注目したり、
電車や車の大きくて動くものに反応したり、
Youtubeの画面遷移に気を取られたりするのは、これが要因かも。

前頭葉は、論理や思考を司ります。

そして、この部分は個人差はあるものの、10代になってから発達してきます。

つまり、ドーパミンは期待物質であることを踏まえると、

子どもは、10手先の詰将棋のように、《これがこうなってああなっとすると、、、、》みたいなものは、面白さを感じにくい

という性質にあります。(もちろん、トレーニングをすれば感じられると思いますし、個人差もあります)

「この宿題をやったら、将来こんなことがあるよ!」という遠い未来を引き合いに出す論理も通用しにくいですよね。

一方で、視覚が発達するのは早いので、視覚情報にはとても敏感です。

子ども向けのギャグマンガはほぼ顔芸です。
人気の芸人は、大体裸かリズムネタです。

(もちろん個人差ありますよ!)

と、いうここまでの情報をまとめますと、

① ルール設計をシンプルにし、予測しやすくする(でないと面白さを感じない)
② 視覚で直感的に理解できるUIにする必要がある。

情報が揃ってきました。

しかし、そんな予測を遥かに上回る、最も重要な怪奇現象が、いつもわれわれを待っているのでした。


こどもの行動は、予測不可能!!


ごたくを並べたのは良いものの、実際にやってみないと何もわからないのがプロダクトデザイン。

小学校1年生〜6年生の子を呼んで、テストプレイを繰り返しました。しかも、カードゲームを好きでない子。

よく、経営者は、蟻の目と鷹の目を持ちなさいと言いますが、蟻を育てていた人間からすると、これはウソです!

なぜなら、

蟻は視力がほぼゼロです!!

よく観察すると、触覚で障害物かどうかを判断し、嗅覚でエサを見つけたであろう他の蟻のフェロモンを嗅ぎ分けます。

ということは、

現場で、手探りでないと、何が障害になるかわからないのです!!

決してエクセルのデータを蟻の目で見ることではないのです!!
(現場で苦労しているみなさん、一緒に一揆しましょう)

子どもたちと話していると、トレーディングカードを持っている子どもは多いものの、実は集めている方が主で、ゲームを楽しめていないという実態が明らかになってきました。

ということで、

部首を合体させて、漢字を作ったら技が発動する!

そんなぼんやりとしたアイディアをベースに、トレーディングカードを、子どもにもわかりやすくリデザインすることにしました。

さて、そのリデザインしたゲームをやっていると、思いも寄らない衝撃的な光景が!!(特報王国風!!)

その課題はトレーディングカードゲームの、一丁目一番地とも呼べるところにありました。

なんと、、、


手札が持てないのです!!


うそ、、、だろ、、、、


手札が持てない!


僕「あいてに見えないようにカード持ってね」

子「はーい!」

(カードデローン〜)

僕「あいてに見えちゃうとさ、作戦ばれちゃうじゃん?見えないようにカード持ってね」

子「はーい!」

(カードデローン〜)

こ、これは、、、

無理だ!!


そしてさらに、手札が何枚もあると、選択肢がありすぎて、考える時間が長くなりすぎ、

子「はやくきめろよー!!」

と言い出してゲームを止めてしまいました。

え、でもトレカって、山札からひいたカードを、「あれひけたら勝てる!!」とかって考えながら、相手にバレないように、コンボをあーしてこーして、って考えるのが面白いんじゃないのか、と思っていたので、これは困りました。

さらに、もう一つの課題は、
一丁目二番地と呼べるところにありました。

ライフ計算の瞬間はおもしろくない

トレカといえば、ライフの計算だと思うのですが、子どもたちの様子を観察していて、あることに気づきました。

ライフ計算をしている間、そこに気をとられて、

その瞬間は面白いと感じていないということです。

ある子は、計算している間に、「おもしろくなーい」となってしまいました。

今のカードゲームがまさに小さい子になかなか遊ばれず、大人向けのものが多くなってしまっていることも、このあたりに要因があるのではないかと考えるようになりました。

そもそもトレーディングカードゲームを諦めることも考えましたが、このさきになにかあると思い、粘ることにしました。

なにか良い方法はないだろうか、、、

解決編①:アイディアとは、一度に複数の問題を解決するものである


そこで、うんうん唸ってる中、こんな言葉に出会いました。

アイディアとは、一度に複数の問題を解決するものである

宮本茂

マリオ、ゼルダ、どうぶつの森、ピクミン、、など、ゲームの創造神と言っても良い人物、宮本茂の言葉を信じ、なーんか一つのアイディアで解決できないかと知恵を絞っていました。

「どう手札を持ちやすくするか?」
「どうライフ計算をしやすくするか?」

という、"改善"を頭に考えていましたが、

問いを変えてみました。

「どう改善するか?」

ではなく、

「どう手札を無くすか?」
「どうライフ計算を無くすか?」

もしも手札がなければ、
もしもライフ計算の必要がなければ、

そもそも問題は発生しません。

ということで、作ったプロトタイプがこちら!

開発時作ったゲームコンセプトビジュアル


・手札をなくし、常に相手に見えている状態の3体のモンスターカードで戦うようにしました。

・山札=ライフにし、1枚ずつ山札をめくります。山札がゼロになってしまったら負けというルールにしました。

このことは、ピンチとチャンスが山札の多い少ないでわかるので、低学年が視覚の情報が優位であり、直感的なUIである必要があるという要請とも合致します。


こうすると、子どもたちはルールを理解し、すんなり遊んでくれるようになりました。


このゲームを持って、毎日いろいろな学童を回って、たくさんの子供たちにゲームを触ってもらいました。

おもしろさはどうやって生み出すのか?


さて、冒頭におもしろいとは、ドーパミンの適切なコントロール

という定義をしましたが、このおもしろさを、どこで、どうやって作れば良いのでしょうか。

その指針になったのは、ポケモンの生みの親、田尻智さんの言葉でした。

ゲームは動詞でできている

田尻智

ゲームは動詞でできている


前述の宮本茂さんのインタビューなどと総合すると、

"おもしろさは、足してはいけない"
"動詞一つになるまで絞らなければならない"

という哲学があることを知りました。

(くわしく知りたい方はこのあたりを参照ください)

あのおもしろさも、このおもしろさも足したいよね!

作り手は楽しいのですが、ユーザー(特に新規ユーザー)が混乱し、
どんどん参入できなくなってしまうのです。

そういったことが、トレーディングカードゲームにもあると感じました。

おもしろさを動詞一つに絞る。

おもしろさを、動詞一つに絞ってしまおう。

まずはトレーディングカードゲームのおもしろさを表す動詞を並べてみました。

この中で、「あつめる」はIPブランドも確立していないから、初期では実現不可能なのでNG。

デッキをかんがえる、というのは、前述の小学校低学年のドーパミンのメカニズムを考えてこれもNGとしました。

というわけで、プレイに最も重きを置くことにしました。


そして、プレイをさらにアクションごとに区分けしました。

このゲームは、
① 山札から部首カード(マナ・カードとよぶ)をひく
② ひいたカードと同じ色の場所につける。
③ 漢字が完成すればワザを出す。

というアクションでなりたっています。

〜かもしれない。という不確定な可能性が、ドーパミンを分泌させます。
②と③は確定要素なので、①が適切だと考えました。

と、いうわけで、このゲームのおもしろさを表す動詞は、

"カードをめくる"

に決めました。

さて、そんな頃、また新しい課題が出てきました。

子どもの行動は予測不能その②

キャラクターの上に、カードを置けない


部首カード(マナ・カード)を山札からめくり、同じ色の場所においていくと、勝手に漢字が完成され、技を発動する。

というルールなのですが、子どもたちを見ていると、共通して困っている、あることに気づきました。

「同じ色のところにおいて!」

と指示を出すと、

カードを置く手が止まるのです。

ゆっくり観察してみると、
どうやら子どもの中に、

キャラクターの上に、カードを置けない

というマイルールがあることを発見しました。

うーん、どうしよう、、、と唸っていると、
これまた奇抜な解決策が思い浮かんできました。

解決編②:アイディアとは、一度に複数の問題を解決するものである


通常のカードゲームでは、モンスターカードの裏面は、手札で持って相手にどのカードかばれないよう、ほぼ共通のデザインで構成されていました。

しかし、カンジモンスターズは前述の通り、公開しているモンスターカード3枚で戦うので、裏面のデザインを統一する必要がありません。

だから、裏面には、モンスター図鑑と称したモンスターデータを載せていました。



これは、学びにつなげてもらう重要な要素と考えていたのですが、よくよく考えたら、別にカードの裏側に書いてある必要もないと思い始め、学びの部分は、別でモンスター図鑑というのを作り、あそびとまなびを分離することにしました。

というわけで、裏面をこんな風に変更。


こうすると、キャラクターはいませんから、カードを置くことに抵抗がなくなりました。この枠が埋まったら、うらがえして技が出せます。


こうすると、子どもたちに戸惑いがなくなりました。

どこにカードを置いて良いか、迷わなくて良いよう、枠をつけてカードを置く場所も指定しています。

ここでは、アフォーダンスという概念を利用しました。

ドアノブの形は、こちら側の手の形を普段とは違った形にするように仕向けます。

枠があったらそこにハメたくなるのが人間の性。

すべては、「カードをめくる」という動詞に集中してもらうため、解決するべき課題でした。

そして、さらにこの変更は、「カードをめくる」という動詞を、より強化する副次的効果もありました。


この状態を見れば、白色のカードをひくと、技が出せる!ということを、直感的に理解できます。

そうすることで、カードをめくる手に力がこもります。

さらに、めくる手に力がこもるよう、一つひとつの技を、既存のトレーディングカードゲームではありえないくらい強烈にしました。

山札は20枚ずつなので、このカードは、一撃で相手を倒すことができます。

もちろん、リスクとリターンは計算していますが、シンプルに、「あのカードをひけば勝てる」と想起しやすくした方が、より"おもしろい"と感じやすくなります。

そのことにより、プレイタイムが大幅に縮まりました。

事前に現在の小学校1-3年生の理想のプレイタイムは5分と設定していたので、その範囲内に収まりました。

そのようなことを支持していただいてか、カンジモンスターズは2022年11月にクラウドファウンディングをおこない、

1541人に購入いただき、420万円を調達することができました。

これは、当時のクラウドファウンディングのカードゲームで、調達額が過去1番だったと思います。(※いい加減な自社調べです。ご容赦を)

というわけで渾身の作品ができたわけですが、

ユーザーの行動を観察するうちに、新たな課題が山積みに!!

というわけで、この夏にカードをリデザインすることになりました!!


ゲーム開発は課題解決


"ゲーム開発は課題解決である"

桜井政博

星のカービィーシリーズや、スマブラシリーズを生み出した桜井政博さんは、このように語っています。

当時の格闘ゲームが、どんどんコマンド入力が難しくなっていく中、

「格闘ゲームのおもしろいんってそこだっけ?」

と、コマンド入力を練習しなければうまくなれないという課題に向き合い

「格闘ゲームのおもしろさは、駆け引きである!」

と、思い切って必殺技を1ボタンで出せるようにしたのでした。

(そのあたりに興味がある方はこの動画で)

と、いうことで課題を発見できるかぎり、ゲームはどんどんおもしろくなります。

僕は、ゲーム開発自体を、社会の課題解決として使用しています。

このお話は、自分が事業を行っている理由でもありますので、よかったら読んでみてください。


みなさまの開発するゲームがおもしろくなりますように。

そして、息の詰まるような世の中で、子どもたちの過ごすたいせつな時間が、笑顔で溢れていますように^^


〜森本佑紀 通称:モリソン〜 タンキュー株式会社 代表取締役 「学びをエンタメにする」という思いのもと、小学生向け教育コンテンツを開発。「世界っておもしろい。」を伝えるアナログのゲームの制作・販売事業と、小学生向け通信教育サービスを提供。2021年には、Amazonと楽天で「知育・学習玩具カテゴリー」で第1位を見事獲得。制作したゲーム作品は、マンガ誌『コロコロコミック』 『てれびくん』(共に小学館) にて漫画化された。

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