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BOOK REVIEW vol.092 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?-認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策-

今回のブックレビューは、今井むつみさんの『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?-認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策-』(日経BP)です!

著者は、認知科学、特に認知心理学、発達心理学、言語心理学の研究者である今井むつみさん。タイトルにある「何回説明しても伝わらない」という状況は、おそらく多くの方が経験したことがあるのではないでしょうか。私自身も過去に勤務していた職場や家庭、友人関係においてその経験は幾度もあり、「あれ?この前も言ったはずなのに…」、「なんでうまく伝わらないんだろう?」と、心のどこかでモヤモヤしたことがあります。こちらの書籍では、そのような“コミュニケーションの困りごと”について、人間の認知機能や記憶の仕組みの面からとてもわかりやすく解説されています。

人は、何をどう聞き逃し、都合よく解釈し、誤解し、忘れるか。
これを知ることが、「伝える」の出発点です。

『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?-認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策-』帯より引用

特に興味を持ったのは、第1章にある『人の記憶はどこまで「曖昧」なものなのか』という項目。実験例などから、私たちの記憶の脆弱さ、些細なことに影響を受けやすく、他人の発言や自分の願望や思い込みによって、いとも簡単に、“すり替え”や“つくり替え”が起こってしまうという事実に驚きました。

でもよく考えてみると、私自身も最近、“記憶のつくり替え”に似た事実が判明し、家族から総ツッコミを受けた出来事があったのです。それは、私の4歳上の兄がまだ幼い頃、店舗のガラスドアの存在に気づかず、ドアに向かって勢いよく飛び込み大怪我をした(イタタ…😭)という、今となっては笑い話があるのですが、先日もその話題になり、「あの時、ガラスが飛び散って大変だったよね〜」と私が発言すると、家族全員がギョッとした顔でこちらを見るのでその理由を尋ねると、当時、私は生まれる直前でまだ母のお腹の中にいた、という事実を告げられました(今度は私がギョッとしました)。おそらく私は、同じ話題を何度も繰り返し聞いているうちに、その光景を脳内でこと細かに想像し、いつの間にか自分もその場に居合わせたと錯覚していたようなのです。何の疑いも持っていなかった自分の記憶が、実は自分自身で作りあげたものだとわかり愕然とした出来事でした。(これは“記憶のつくり替え”ではなく、単なる“思い込み”のような気もしますが…苦笑)

自分自身の例を思い出した時、こういった何の悪気もない、無自覚に起こる記憶の“すり替え”や“つくり替え”等が、日々のコミュニケーションの中の「言った/言っていない」、「覚えている/覚えていない」等のエラーに繋がっていくんだな…と実感しました。

解説を読み進めるうちに、人間の脳の仕組みへの理解が深まり腹落ちする一方で、一人一人が持つ「当たり前」や「スキーマ(知識や思考の枠組み)」の違いを感じ、コミュニケーションの難しさに途方に暮れそうになってしまいます。「頭の中を、そっくりそのまま見せ合えたらどんなに楽だろう…」そう思わずにはいられませんが、コミュニケーションにおいて私たちにできることは、自分と相手のスキーマが重なり合う部分を探し出し、見えない心の内を擦り合わせていくこと・・・やはりそれは「相手の立場に立って考えること」なのだろうと思います。そして忘れてはならないのは、コミュニケーションにおいて、私も誰かにとっての“相手”だということ。自分の中に存在するスキーマやあらゆる認知バイアスにとらわれすぎないよう注意していこうと思いました。

認知科学の視点から幅広く説かれた「コミュニケーションの本質」についてのお話は、非常に学びが多く、またそのおもしろさにとても興味が湧きました。これからはより一層、相手の立場や信念を思いやりながら、日々、“伝えること”を諦めることなく続けていこう!と思わせてもらえた一冊です。

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もり さとこ
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