
西加奈子さん『i アイ』自己肯定感で揺れ動く「私」と「愛」の物語
本日は、西加奈子さんの『i アイ』をご紹介します。
この本は、これからも大切にしたい作品になりました。
私自身が「自分とは何か?」とか生きる意味を、なんとなく無意識に考えてしまう癖があるんですね。
まさにこの小説は「そんなことまで、考えない方が楽に生きられるでしょうに・・・。」と人からは思われてしまうような、不器用で繊細な女性の物語です。
複雑な出自を持つ主人公アイの成長を通して生きるとは何かを強く考えさせられる、本当に素晴らしい作品でした!
人からの理解や共感が得られにくい、生きていることへの違和感や罪悪感について、丁寧に描かれています。
主人公の名前は、ワイルド曽田アイ。
アメリカ人の父と、日本人の母がいます。
アイは2人の養子で、シリア生まれです。
両親は慈愛に満ちていて、アイへの理解もあります。
裕福で恵まれた家庭環境でありながら、子どもの頃からなんとなく負い目を抱えています。
アイという名前は両親に名づけられました。
英語の「I」は自分自身を指し、日本語では「愛」に相当します。
小学校卒業までは、ニューヨークの高級住宅街で暮らし、それ以降は日本で育ちます。
両親はアイが幼い頃から、世界の不均衡について教えます。
そして、アイがいかに恵まれているかということも。
世界のさまざまな過酷な状況で生きる子どもたちの写真や映像を見せられ育ったアイは、自分が「不当な幸せ」を手にしているとはっきり自覚するようになります。
なぜ自分が養子に選ばれたのか?
その思いは幼いアイを苦しめ、以後ずっと影のようにつきまといます。
私という輪郭が曖昧で、心もとない。
ファミリーツリーの中で、血の繋がりのない自分だけ異端なのだと所在ない気持ちでいます。
「恵まれた環境を幸せに思わなければいけない」と、半ば周りからも静かに役割を強いられているようで、胸が締めつけられました。
それは、アイにとっては、真綿で首を絞められるような環境だったかもしれません。
もしかしたら今、過酷な状況のシリアにいるのは自分かもしれない。
そして、ひょっとしたら生死も定かではないかもしれないのです。
世界中で起こる、紛争、事故、災害、テロ。
夥しい数の人々が、罪もないのに死んでいく事実。
なぜ、私は生き延びているのかという、罪悪感。
いつか、その中に選ばれるのではないかという、恐れ。
そして、現実の幸せを実感する度に、ふつふつと沸き起こる自分を恥じる気持ちとの狭間で、アイは揺れ動きます。
呪いのようにいつまでも消えないひとつの言葉。
「この世界にアイは存在しません。」
中学時代の数学教師の言葉だった。
ことあるごとに、聞こえてくるこの言葉。
そうして起こった、東日本大地震で、アイは贖罪に似た気持ちで日本にとどまり続ける。
どこの国で生まれるか。
人種、セクシュアリティ、宗教。
結婚のあり方、不妊治療。
この世のあらゆる苦痛や苦悩を忘れないように、世界中の悲劇の死者の数を記したノートと、アイの小さな世界はいつもどこかでつながっている。
アイの成長を通して、生きる意味について投げかけてくる、感動作でした。
西加奈子さん、凄い作家さんです!
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