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走馬灯

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【あらすじ】 不慮の事故でビルの屋上から落下した私。 そのとき過去のシーンが頭の中を走馬灯のようにめぐる。 だけどそのシーンの中に、本来、私が見るはずの無いシーンがあった。
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走馬灯(第14話)

走馬灯(第14話)

エピローグ

 ねえ、お母さん。
 私はどんな子供だった?
 私はあなたの望んだような子供でいられたのかな。私なりに精一杯そのような役を演じてきたつもりだったけど、あなたの目には全て見透かされていたのかもしれないね。でもね、私なりに本当に精一杯やってきたつもりなんだよ。
 ねえ、お母さん。
 私を生んで、良かった?

 気づけば私は、私を産んだときの母の年と同じ年齢になっていたんだね。
 私はお母

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走馬灯(第13話)

走馬灯(第13話)

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 朝から雨が降り続いている。
 隆志は窓から外を眺める。一日薄ら暗い空だったが、午後五時を回ってそろそろ本格的に夜が訪れようとしている。住宅街の街灯もボツボツと点灯し始めていた。カーテンを閉めてから家の中を振り返る。部屋の隅においてある小さな仏壇が眼に入った。
 隆志はその仏壇の前の座布団の上に正座をし、線香を取って火をつけた。
「美穂……。お前が死んで、もう一ヶ月になるのか……」
 静か

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走馬灯(第12話)

走馬灯(第12話)

 
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「鈴木さん、朝ですよ」
 40歳くらいの太った看護婦が部屋に入ってきた。窓のカーテンを開ける。外は曇っているのかまだ薄暗い。タンスの上の時計の針は午前七時を指している。母はベッドの上で一度小さくのびをした。
「鈴木さん、体調はどうですか?」
「ううん。普通かな」
 看護婦はベッドの周りを簡単に片付けていく。そしてタンスの上の片付けをしようとしたときにふと手をとめた。
「あれ? 何か、

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走馬灯(第11話)

走馬灯(第11話)

 
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 深夜の病院は、世界から見捨てられた場所のように静まり返っていた。
 ときどき、思い出したかのように、廊下をペタペタと歩く看護婦の足音が聞こえる。
 眼の前のベッドでは、先ほどの苦しみの表情が嘘のように母が穏やかな表情で寝ている。本当にあどけない顔をしている。だけど、母親になった女性特有の強さがその顔にはあった。その寝顔を見つめながら、私はずっと考えていた。どうしたら眼の前の母に、私

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走馬灯(第10話)

走馬灯(第10話)

 
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 特に物が置かれていない殺風景な部屋だった。
 ベッドの脇に置かれている小さなタンスの上には、私は見たこともない小さな花が一輪花瓶に生けてある。部屋は小さく、申し訳に取り付けられている窓からは何の変哲もない住宅街の様子が見える。
 ベッドには私の母が寝ていた。部屋の隅に突っ立っている私は、その顔をじっと見つめていた。その顔は本当に幼かった。年齢は私とそれほど変わらないのではないのか。

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走馬灯(第9話)

走馬灯(第9話)

 

 
 ふと気がつくと、私はベンチの片隅に座っていた。
 霧が晴れてくるようにあたりがはっきりとしてくる。
 そこはちょっとした休憩所のようになっていて、ベンチが一つとその横に自動販売機が置かれている。目の前には廊下があり、そこを時々看護婦が早足で通り過ぎる。どうやら病院の中らしい。建物自体は小さなこじんまりとした病院のように感じた。ベンチの向かいのある窓の外では、晴れた空の下、のどかな住宅

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走馬灯(第8話)

走馬灯(第8話)

 

 
 また、私の視界に光が戻ってくる。
 私はまた見知らぬ場所に立っていた。
(ここは?)
 
 こじんまりとした喫茶店の中のようだった。
 客は数人しかいなくて、カウンターに暇そうにした若い女性の店員が立っている。
 そのような場所に私は立っていた。
(なぜ、この場所に来てしまったのだろう?)
 私は辺りを見回す。すると、その理由はすぐに分かった。一番奥の席に、先ほど目の前にしたばかりの

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走馬灯(第7話)

走馬灯(第7話)

 

 
 私は知らない家の居間らしき場所に立っていた。
(ここはどこだろう?)
 周りを見回す。
 小さな部屋は色々なものが散らかっていてひどく汚かった。男性ものの衣服もところどころに脱ぎ散らかされていて、それによってここの住人が若い男性であることが分かった。
 そのときだった。
 ドアの鍵ががちゃという音を立てて回った。乱暴にドアが開かれる。そして20代後半くらいの男性が不機嫌そうな顔をして

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走馬灯(第6話)

走馬灯(第6話)

 

 
 目の前で少女が泣いていた。
(どうしたの?)
 言葉をかけようとしたけど、それは実際に声として外に発せられることは無かった。
 部屋の電灯はつけられておらず薄暗い。廊下の蛍光灯の光がかろうじて部屋の輪郭を浮かび上がらせていた。ただ、私の眼には部屋の隅でうずくまって泣いている少女が小さい頃の私なのだと分かっていた。なぜだか分からないけど、それを一つの事実として私は受け取っていた。
「ど

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走馬灯(第5話)

走馬灯(第5話)

 

 
 茶色く薄汚れた建物が目の前に建っている。
 その建物の庭には小さな公園のような広場があって、そこで二、三人の子供が遊んでいる。だけどその子供たちはじっと黙り込んで、ひたすら砂場の砂を掻いていた。
 私はその建物の前に立って、ぼんやりとその中の光景を眺めている。
(私は、この建物を知っている)
 正面の玄関のドアが開いた。
 中から先ほどの中年の男性と少女が出てくる。先ほどの光景で見た

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走馬灯(第4話)

走馬灯(第4話)

 

 
 私は見知らぬ場所に立っていた。
(ここはどこなのだろう……)
 当たりを見回してみる。ひどく古ぼけた街だった。何もかもがくすんでいる。一見どこにでもあるような住宅街なのだけど、まるで茶色の色眼鏡をかけているかのように全体が茶がかって見える。だけど、その光景は遠い昔に見たことがあるような既視感を感じた。
(私は過去に、この光景を見たことがある……)
 思い出そうとした。急に頭痛が襲って

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走馬灯(第3話)

走馬灯(第3話)

 

 
 ぐらりと重心が傾いた。
 私の回りの世界が大きく回転していく。ジェットコースターに乗っているかのような猛烈な無重力感が私の全身を包んだ。全てがスローモーションの中で世界の光景が流れていく。どこまでも落ちていくような感覚があった。
 私はどこまで落ちていくのだろう。
 きっと、すぐに終わる。私はもうすぐ死ぬのだ。
 心の中では、それを事実として冷静に受け止める自分がいた。
 だけど、何

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走馬灯(第2話)

走馬灯(第2話)

 

 
 私は自分のことを平凡な女子高生だと思っていた。
 両親はそろっているし、生意気な弟もいる。別に周りのほかの子と何か特別に違った境遇にあるわけでもない。そのように考えて小学校を通ったし、中学校も通った。だけど、少しずつ、私は自分が周りとは違った種類の人間なのかもしれないと感じるようになっていたのだ。
 私はずっと、この世界は死ぬまでの暇つぶしなのだと考えていた。どうせいつか死んでしまう

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走馬灯(第1話)

走馬灯(第1話)

プロローグ
 
 ねえ、お母さん。
 私はどんな子供だった?
 私はあなたの望んだような子供でいられたのかな。私なりに精一杯そのような役を演じてきたつもりだったけど、あなたの目には全て見透かされていたのかもしれないね。でもね、私なりに本当に精一杯やってきたつもりなんだよ。
 ねえ、お母さん。
 私を生んで、良かった?
 
 
 

 
 私は屋上に立っていた。
 家の近くにある10階建ての商業ビ

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