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詩人の墓にて (At A Poet's Grave, Francis Ledwidge)私訳


詩人の墓にて

友なるパイプを置き
愛する花を散らされひとり 眠るとき
わたしの心に兆したうたは
自然のなかにあらわれる

ここに心やさしき詩人が眠り
歌われなかったうたをわたしは聞く
吹く風に花々は揺れ
アリウムの花房が鳴る

原文(参照

When I leave down this pipe my friend
And sleep with flowers I loved, apart,
My songs shall rise in wilding things
Whose roots are in my heart.

And here where that sweet poet sleeps
I hear the songs he left unsung,
When winds are fluttering the flowers
And summer-bells are rung.

Anúna My songs shall rise

Anúnaの主催Michael McGlynnはこの詩にメロディーをつけたものを作曲、「My songs shall rise」と別のタイトルを付して発表しました。
(アルバム「Songs of the Whispering Things」では、この曲のタイトル表記は「My songs shall rise(from "At a Poet's Grave")」となっています)

補足

Anúnaの曲のタイトルになっている「My songs shall rise」は詩の第一パラグラフ3行目から引かれたものです。
動詞riseはのぼる、上昇するという意味ですが、神学用語としては(キリストなど)死者が蘇るという意味合いがあり、ここではこちらのニュアンスを意識していると思われます。とはいえ「roots are in my heart」という表現から、上昇運動のイメージも皆無ではありません。
(拙訳では「兆す」としていますが兆すは萌すとも書き、根を持つ植物が地上に芽生くという意味合いがあります)

詩の最終行、"And summer-bells are rung."というフレーズについて、拙訳では"アリウムの花房が鳴る"としています。
実際、summer-bellsでgoogle検索しようとすると、plant,flower,tree,alliumといった語が併せて提案されます。
花としてのsummer-bell、別名アリウムと呼ばれる花はこちら。まっすぐ伸びた茎の頂点から、釣り鐘型の小さな花を放射状に広げ釣らせる花です。また、カンパニュラの中にもサマーベルと呼ばれる品種があります。
木としてのsummer-bellはこちら。10メートル弱の花を咲かせるノウゼンカズラ科チタルパ属の木ですが、アメリカなどが主な植生地域なのかな、と思います。

拙訳ではsummer-bell=アリウムとして訳しましたが、上記に動画リンクを置いたアヌーナの曲では後半、鐘の音を思わせる、女声による緩やかな下降音階が重なりこだまします。詩の内容は詩人の弔いであり、作曲者Michael McGlynnはこの詩のsummer-bellを文字通り、(教会の)弔いの鐘の音として曲中に表現したのでしょう。自然の中にあらわれた花の釣り鐘は教会の金属製の巨大な鐘と違い、さやかな風のなか、人間にもどうにか聞き取れるかどうかの、かすかな優しい音を響かせます。レドウィッジとしても弔いの鐘のイメージは念頭にあったことでしょう。

亡くなったのは詩人、poetですが彼が遺したものも、作者自身が亡くなった時にあらわれるだろうものもいずれも歌われるもの、songsである……つまり、poemとsongとがこの詩の中ではほぼイコールの概念となっています。
レドウィッジの第一詩集タイトルは「SONGS OF THE FIELDS」です。献辞では"TO MY MOTHER / THE FIRST SINGER I KNEW"(母へ/わたしの知った最初の歌い手に)と書いており、ここでもpoemとsongの概念は重なります。
筆者は英語ネイティブではないためこのあたりのネイティブの使い分けの感覚は正確にはわかりませんが、このようにsongとpoemがイコールの概念として扱われるのは、詩の朗読や歌による物語の文化があるアイルランドらしい捉え方ではないか……と思います。
Michael McGlynnのX(Twitter)でのリプライからも同様のことを感じました)

なお冒頭一行目、When I leave down this pipe my friendの「pipe」は、この文脈では楽器でも煙草でもどちらでも解釈可能と思われるため、そのまま「パイプ」としました。
wikisourceのレドウッィジ全集を「pipe」で検索するとこの詩のほか、「Fate」「Glowing old」がヒットします。

These things I know in my dreams,
The crying sword of Lugh,
And Balor's ancient eye
Searching me through,
Withering up my songs
And my pipe yet new.

Fate

We'll fill a Provence bowl and pledge us deep
The memory of the far ones, and between
The soothing pipes, in heavy-lidded sleep,
Perhaps we'll dream the things that once have been.
'Tis only noon and still too soon to die,
Yet we are growing old, my heart and I.

Glowing old(抜粋)

” yet new”"soothing"と形容されるこれらの詩のpipeはほぼ確実に、煙草の方の意味でしょう。

日本語訳はこちらの対訳詩集に収録しています。

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