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兵士の墓(A Soldier's Grave,Francis Ledwidge)私訳 



兵士の墓

さうして風なき真夜中、優しき腕は
ゆつくり彼を運び死への傾斜に降ろす
戦場の、死にゆく嘆きの、苦痛を訴える呼吸の
恐ろしき警報をもう二度と聞かぬやう

花のための柔き大地に
せめて安らかにとわれらは墓を掘る
やがて訪れた春がこの墓を愛らしく飾り
雲雀は巣を作り露で濡らすだらう


原文(A soldier's grave

Then in the lull of midnight, gentle arms
Lifted him slowly down the slopes of death
Lest he should hear again the mad alarms
Of battle, dying moans, and painful breath.

And where the earth was soft for flowers we made
A grave for him that he might better rest.
So, Spring shall come and leave it sweet arrayed,
And there the lark shall turn her dewy nest

ANUNA  Midnight


補足

アイルランドのコーラスグループ・アヌーナの主催Mychel McGlynnはLedwidgeの「A soldier's grave」にメロディーを付け「Midnight」というタイトルで発表しています。詩の一行目、Then in the lull of midnight, gentle arms から取ったのでしょう。

レドウィッジの詩集は本人の生前に一冊、死後にダンセイニが作品をまとめたものを二冊刊行、その後全詩集を制作しています。
「A soldier's grave」はダンセイニによる全作品集には掲載されておらず、二十世紀に入ってから作られたレドウッィジの未発表作品含む作品集の中に掲載されています。
二十世紀にまとめられたレドウッィジの作品集は2冊、現在もっとも収録作品数が多いのはLiam O' Mearaの編によるものです。McGlynnはLiam O' Mearaが切っ掛けでレドウッィジに出会ったと自身のサイトで書いており(参考)、この詩に曲を付けたのもそうした背景があってのものと思われます。

grave、という語を辞書で引くと第一義に墓、死体を埋めるための穴、次に死そのもの、という訳が出てきます。死という意味で用いる場合はtheをつけますが、graveには土を掘った穴、というイメージが強くあるようです(tombも墓の意ですが、こちらはむしろ墓石のイメージの方が強いようです)。

最終行に出てくる雲雀は枝の上でなく地上、草むらの中や岩の影、土の上に巣を作る鳥です(参考・雲雀の巣のgoogle画像検索)。詩の中で巣を作るだろうと書かれた「there」とはついさっき死者を埋葬するため掘り返され埋められた土の上、墓の上です。
戦場の墓に立派な墓標はありません。石や枝が墓標代わりに置かれるかどうか、といったところでしょうか。Ledwidgeのこの詩でも、土を掘って埋めた以外のことをしたという描写はありません。掘り返され、埋められた兵士の墓はそうと知っているものでなければわからない、ただ平らな土の大地です。
やがて春が来て花が咲き、何も知らない小鳥が巣を作ります。

無名の兵士、本来ならばそれぞれに固有の名と生活と歴史を持った一個人が、戦争によって固有の存在としての価値を剝ぎ取られ、国家の所有する一兵士として死に、その死に際して本来あるべき手続きがなされなかった、そのことをいかに(個人が、あるいは国家が)補填し回復するか……こうした問いは一般市民が戦争へ動員されるようになってから、特に、戦闘行為において大量破壊兵器が使用されるようになった第一次世界大戦前後から登場してきたと思われます。
作家達が無名の兵士(あるいは兵士だけに限らず、戦争によって死ぬこととなった多くの一般市民)について、それについて文学が何ができると考えてきたか……その系譜は筆者も詳細を把握していませんが、「A soldier's grave」もその系譜の中のひとつに位置づけられる作品であり、この系譜は今なお更新され続けているといえるでしょう。

なお、翻訳はこちらにも収録しています。


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