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甘い幸せ

ある日の夜中に、母から電話がかかってきて、「気持ちが悪くって」と切羽詰った様子だったことから、すぐに母の家に行ってみたが、起き上がれないほどの気持ち悪さで、うずくまっていた。「救急車を呼ぼうか?」というと、「派手にサイレン鳴らし来たら、近所の人が起きちゃうね。」という。そこで、救急車の方に、深夜なので、家の近くに着いたらサイレンを小さく又は無音にしてほしいという要望を伝え、そのまま母は、救急車で運ばれた。診断結果は、糖尿病だった。その後、2週間ほど入院しながら、栄養士さんから食事療法を教えてもらっていた。

糖尿病になる前は、休日の日は食料品の買い物も一緒にしたりしていて、食事には注意を払っていたはずだったが、一人暮らしということで、食事がおざなりになっていたようだ。

それからというもの、栄養士さんの指導の下、野菜中心の食事へと変え、最初の頃は、大好きだった甘い食べ物を一切食べず、果物も 1日何gとお医者さんからもらった目安表を元にしっかり量って食べていた。その結果、半年もしないうちに血糖値はほぼ正常になり、日々の運動の中で万歩計を持って、歩くということをしっかり実行して、健康体そのもののような数値に改善した。それからもお医者さんの指導を守って、甘味や塩分を控えた生活が日常となった。

たまには甘いものが食べたくなってしまうのも仕方のないことだと思うし、度を超えた不摂生でなければ問題ないという、お医者さんの言葉によって、たまに母も甘いものを食べる日を作るようになった。その当時、外食などはほとんどしていなかったようだ。

そんなある日、母が「シフォンケーキのお店があるんだって。一緒に行ってみない?」という。私も娘も普段はあまり甘い物は、食べないことから、その誘いはとっても嬉しかった。喜んで母の指定するお店にナビを合わせて行ってみた。そのお店は、シフォンケーキの食べ放題をしていた。母に、「食べ放題って知ってた?」と聞くと、笑いながら、知っていた様子を醸し出していた。今日は、たくさん甘い幸せな時間を過ごしたいのだろう。

そのお店は、紅茶味やいちご味やメイプル味、ココア味などさまざまなシフォンケーキの食べ放題をしていて、チェリーやブルーベリーのシロップ漬けや、生クリームがボウル一杯に入っていて、自由にシフォンケーキにのせられるように準備されていた。その他、ブラウニーやクッキーのバラエティーも多彩だった。母は、そのケーキを見ながら、「たくさんあるねぇ。どれを取ろうか。」と迷いながら笑みがこぼれて、嬉しそうだ。


シフォンケーキを取って、席に座って紅茶を飲みながら、食べ始めると、母は、「上品な甘さだね~。」「さっぱりした甘さだね!」「あんまり甘くないね。」などと、言いながらせっせと席を立ち、お代わりをしていた。実際はとっても濃厚な甘さだったりもした。。

まるで、お笑い芸人サンドイッチマンの“0カロリー理論”のようだった。ドーナツの形状をよく見ると、ゼロに見えることから、ゼロカロリー。穴が開いているものは、カロリーゼロ。ゼロという形を表しているものは、カロリーがないという証拠。カロリーは真ん中に集まってくる。真ん中がなければカロリーゼロ。糖分はすぐにエネルギーになることから、カロリーゼロ。プチシュークリームは、小さいから太らない。1個目が太らないのだから、2個目を食べても太らない、つまり、何個食べても太らない。カロリーゼロ。というゼロ理論の延長線上に、母はいた。

母の話では、このケーキを食べたいために、2日前から、炭水化物を半分にしたり、控えたりと調整していたらしいことを聞き、もう、お代わりどうぞ!どうぞ!という心境だった。健康も大事だが、心の健康も大事だ。節制ばかりではつまらない。楽しめる時は、思いっきり楽しんでほしいし、その楽しい時間の共有を喜んでしたいと思った。その後も、母は席を立ったり、座ったりを繰り返しながら、味の違う新しいシフォンケーキを嬉しそうに席に持って来てケーキを食べながら、紅茶やオレンジジュースを飲んでいた。そして、クッキーを1枚紙ナフキンにくるんで鞄の中にこっそり入れていたのを、私も娘も知っている。

これからも、母と過ごせる大切な時間を共有しながら、いつまでも笑って過ごしたいと思いました。

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
今日も素敵な1日になりますように。

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momotan
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