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蓮 そこはとても素敵なカレー屋

「蓮根、苦手ですか?」
食べかけ、いや、食べ終わりかけのお皿から顔を上げると、
カウンター越しにマスターが笑ってた。
 
1年前に突然現れたそこが気になっていなかったといえば噓になる。
昭和な街の昭和な商店街前に突然あらわれたアイボリー調の玄関とドアにカフェ風のロゴ。
家? バー? スナック? 何?
バーだとガラス越しに中が見えることが多い。
スナックだと重厚なドアの向こうが見えない。
もう一回言うけどアイボリー調のカフェ風で中が見えない。
いつからかカフェやバーには不釣り合いな海の家的のぼり(旗)が立てられた。
でかでかと「カレー」って書いてある。
 
思いきってそのドアを開けたきっかけにおおきな理由はない。
むしろ、開ける前、ちょっとひるんだ。
テイクアウトを知らせる看板のカツ丼だったか親子丼のキャッチコピーにコケたから。
「なか卯さんよりちょっと美味しいです」
 
そのノリか。
アイボリーでオシャン(死語)やけどそう来るか。
これ、テンションスイッチをオンにしてから入らなあかんやつ?
せやけどそれってつまりだいぶ美味しいんちゃうん。
 
ドアを開けたら中はやっぱりバーみたいなカフェみたいな空間だった。
でもメニューにはやはり「そのノリか」的キャッチコピーで、
でも夜のコース料理とかもあって、
写真をみると食材も盛りつけ方もとても丁寧でこだわっていることが一目でわかった。
そこは全くチョケてなかった。
カレーの種類もとても多い。
俗っぽいもの、俗っぽすぎるもの、昭和な商店街に来るお客さんにウケそうなもの、
ギャグみたいなもの、がっつりしたもの、カレー以外のもの……
 
「スパイスカレー下さい」
 
まず運ばれてきたスープの中の柚子の見た目と香りに「わぁ」ってなっていると、
マスターが大きくもないちいさくもない声で訊いてきた。
 
「スパイスカレーは、エスニックにします? それともふつうがいい?」
「エスニックがいいです!」
 
欧風ばかりの中このメニューをぜったい選びたかったのだが、
さらに訊いてくれて、「お」ってなって、
訊く訊いてくれる理由や背景とかもちょっと考えてふふふとなった。
にこっと笑って下さり、ちょっと時間をかけてくれる。
その間、カウンターやテーブルの他のお客さんの皿をちらっとみると、
カツカレーとかカキフライカレーとか「お子さまでも食べられる辛さです」とか
「マクドナルドと同じ量のハンバーグが乗ります」とか「カツのカット数と大きさはお好みに合わせます。でも36分割(だったかな)はやめてね」とかいろんなのが目に入って忙しかった。
 
わぁ。

嬉しくて、食べすすめて、食べ終わりかけのときに、言われたのが、冒頭の言葉。
 
「好きです(笑)」
「最後に残しておくタイプなんですね(笑)」
「はい(笑)」
 
いや、別にそうじゃない。そうな時もある。
けれど必ずしもそうではない。いや、そうかもしれない。
実はもうひとつ悩んでいたメニューが「揚げ野菜カレー」だった。
キャッチコピーは「こだわっているのでそうたくさんは作れないのでないときもあります」。だから運ばれてきたとき、嬉しかった。
 
蓮根とかぜったいおいしいやん、おいしかったわ。
 
カウンターでは土曜昼間からもうボトルでご機嫌にやってるおじさんたちも居て、
焼酎じゃなくウイスキーだったんだけれどお皿にはカツとじが乗っていた。
どうやら常連の模様。
これ、絡んだり絡まれたりしたら長くなるやつやあかんやつや。
一日潰れるから知らんふりしよう。した。が、なんか、にこにこしていた。
あのひとたちも蓮根を食べたのかもしれないなと思った。


◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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