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時を超えた反抗期


先日、自分の髪に初めてハイライトを入れた。


 ここ最近、インナーカラーを入れたい、韓流アイドルがやるようなピンクや青に染めたいという願望があったが、会社員でもあるため、そこまで明るく染めるのはご法度だ。

 ただ、コロナ禍における在宅勤務で、月末月初しか会社に行かない事もあり、多少髪で遊んでもいいかな…なんて思うようになった。

 いつもにこやかなカラーリストに相談したら、かなり驚かれた。「思ってたんですけど、最近色々挑戦していますよね」なんて言われた。今回は髪をセットした時に立体感が出るよう、トップだけにハイライトを入れることにした。

きっとこれは
時を超えた私なりの反抗期なんだと思う。


「黒髪ロングなその髪を大事にしてほしい」

 昔、母から言われた言葉だ。


私は、幼い頃からずっと黒髪ロングだった。

 高校時代、セブンティーンモデルだった田中美保に憧れて、何を血迷ったのか、1度だけベリーショートにした時期があった。しかし、それ以降はロングヘアを貫いている。

 大学へ入学したときも、私の中で髪を染めること、髪型を変えるという選択肢はなかった。「大学デビュー」という言葉があるように、高校卒業と同時に髪を染めるなどのイメチェンをする子は非常に多い。(もちろん高校時代に髪を染めている子は周りにいたけど)


 当時の私は、「髪を染める=量産型女子」という捻くれた考え方になっていて、その量産型女子になるのを拒んだ。茶髪の中に一人ぐらい黒髪がいた方が、逆に目立つからいいじゃない。てか、染める意味って何?そんな考えがずっと頭にあった。

「ももちゃんの黒髪、綺麗だね。」

 きっと私は、他人からそう言われることが嬉しかったんだと思う。他人と差別化するために、結局社会人になっても、私は黒髪ロングというアイデンティティを身に纏い続けた。
 
 更に胸下までのロングだったため、ヘアアイロンを使ってフワフワに巻けば、それだけでゴージャスな気分になる。髪を染めなくたって十分生きていけることは知っていた。


ただ、老いには勝てない。


 30代になると、黒髪が裏目に出て、白髪が目立ち始めた。最初はあまり気にしていなかったが、「そろそろ染めたら?」と母に言われた。あの黒髪をあんなに推奨していた母にだ。
あれ?と疑問に思った。

 そして私は白髪染めをすることで、黒髪というアイデンティティを捨ててみることにした。ツンと香る毛染めの香り、初めて鏡に映る茶髪の自分に物珍しさを感じた。「すごく似合ってる」夫にも、友達にも、会社の人にも、みんなに言われた。

 更に数ヶ月後、私は胸まであった髪を肩までバッサリ切った。おかげで髪を乾かすのに20分かかることも、腕が痛くなることも無くなった。異常に気持ちがさっぱりした。


なんでもっと早くやらなかったんだろう。
なんであんなに黒髪ロングに拘っていたんだろう。
母に黒髪ロングを大事にして欲しいって言われたから?


いや、違う。


きっと私は、黒髪ロングでいられなくなったことで「私」と言うアイデンティティが消えてしまうこと、そして新しい自分を否定されることが怖かっただけだ。

 
 誰だって、自分のやりたいことを否定されるのは怖い。本当はこの10年くらい染めてもいいかな…なんていう気持ちにもなっていた。あの子が染めた髪色や髪型が可愛い。私もやってみようかな、と何度もヘアカタログを見て悩んだ。

でも、信頼している人たちの言葉が重くのし掛かるからこそ、言葉の呪縛に囚われて、こんなことですら一歩踏み出せなくなっていた。

 私の場合、誰よりも信頼しているのが母だ。
母からの言葉に何度も救われているし、もちろん今もそれは変わらない。思ってみれば、母に対する反抗心も一切なかった。(まぁ、言い合いになれば、母には敵わないことも分かっていたから、尚更お利口でいた方がいいというずる賢い考えもあったけど)

 しかし、母が発した言葉たちは、時折無意識の中で呪縛になっていた、ということをこの歳になって気付くことが多い。信頼している母から「似合っていない!」と言われ、新しい自分を認められないのが怖かったんだと思う。

 この10年、本当の自分の気持ちを押し殺すようになっていた。言葉の呪縛を解き放てなかったのは、0を1にすることが苦手な自分の完全なる力量不足だ。


だから、過去の自分に言ってあげたい。


「たった一度きりの人生。
私の生き方は私で決める。
全てにおいて、自由でいいんだよ。」



 ハイライトを入れて、かなり明るくなった髪は丁寧にケアすれば2ヶ月は保つらしい。鏡に映る明るい髪は外に出るとキラキラ輝いて見えた。

 髪も服も生活スタイルも、誰になんと言われようと構わない。自分が良ければそれでいい。

次はどんな色にしようかな。

私の時を超えた反抗期は
もう少し続きそうだ。


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