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葛(くず)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

くず
葛穀かつこく 一名 鹿豆ろくとう

蔓草つるくさなり。くらふこれ葛根かつこんといふ。とするを 葛粉かつ●●といふ。吉野よしのよりいだすもの 上品じやうひんとす。いまは、紀州きしうに六●太夫といふをせうす。もつとも佳味かみなり。これまつた他物たぶつわへざるゆへなるべし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

くさは、山野さんやとも自然しぜんせいおゝし。中華ちうくわには、家園にはうえて、家葛かかついう野生やせいのものを野葛やかつといふ。

日本にほんにては、家園にはゆることなし。遍豆いんけまめて、三葉さんよう一所につき三尖みつかど小豆あづきのごときもあり。くきとも毛茸ありて、七月ころ 紫赤むらさきはなひらきて紫藤花ふぢのはなのごとししてしたれる。たけ三寸斗、さやむすびて、これあり。

冬月ふゆりて、石盤せきばんにて打■うちくだ [■は、木+日+卩] き、しるり、金杵かなきねにてよくつき細屑末こまかきことなして、水飛すいひ 数度すどかしめ、ぼんりてさらし、おけおさめてす(和方書、是を水粉といふ)。

冬月根を堀りて石盤にて打くだき
汁を去り金杵にてよく舂
細屑末となして水飛数度に飽かしめ
盆に盛りて日暴し桶に納めて出す

葛根かつこんは、薬肆くすりや生乾きほし暴乾さらしの二しなあり。

つるは、みづひたし、かわを去り、あみつらねてうつはとし、これ葛簏ふちこりといひて、水口みなくちせいするもの是なり。葛篭つゞらは、つるをつらねたるのなり。

葛布くづぬのは、つるて、苧のごとくさき紡績●みつむぎおるなり。詩経しきやう絺綌ちげきと云は、細糸ほそきいとげきふといとにて、いにしへ 中華ちうくわをるもの、今の越後えちごちゞみのごときもありとたへり。

※ 「苧」は、麻の別称。、カラムシ。茎から繊維をとって織物や網などに利用されていました。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

クスと云は、細屑くづにて、水粉すいふんにつきて、そのにしてくさ本名ほんめうくぢなり。フヂは すなはち ぶちなり。古製こせいこれをもつて鞭むちとす。故に、なづけて、喪服もふく葛衣ふぢころもといふは 葛布くずぬのなればなり。

これ、つるはなかわともに、民用みんようゑきあり。故ゆへに、遠村ゑんそんたみは、親属しんぞく たづさへ、山居さんきよして ほりくらひ、たかひて、なきときは、山下さんかいでて、これを紡績ばうせきす。みなひとゑきすくこと五穀ごこくげり。

蕨根わらびねまたこれきて、おなじく水粉すいふんとす。その しなは、いやしけれども、ひとうへすくふにおゐてはその功用こうようかわることなし。伯夷はくゐ叔齊しゆくせい首陽しゆよう山居さんきよこれによりて せいたもてり(偽物ぎぶつ生麩せうふをくわへてせいあぢはなはだならず)。

この 葛根かつこん功用こうよう はなはだ おほし。あるひは、もち、又、水麺すいとんせいし、白粉おしろいくわし、のりてきし、料理りやうりの ●味などさまざま人にゑきす。

ある しよ いわくくづよくどくを除くといへども、その 根土ねつちること 五六寸以上いじやう葛脰くづたんといひて、これかふなり。これを●すれば 人にせしむ。

※ 「詩經しきやう」は、詩経。中国最古の詩集で、五経の一つ。
※ 「伯夷はくゐ叔齊しゆくせい」は、殷周交代期(紀元前1100年前後)の頃の伝説上の賢人の兄弟。伯夷が兄、叔斉は弟。



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