葛(くず)
葛
葛穀 一名 鹿豆
蔓草なり。根を 食。是を葛根といふ。粉とするを 葛粉といふ。吉野より出すもの 上品とす。今は、紀州に六●太夫といふを賞す。もつとも佳味なり。是、全く他物を加わへざるゆへなるべし。
草は、山野とも自然生多し。中華には、家園に種て、家葛と云。野生のものを野葛といふ。
日本にては、家園に栽ゆることなし。葉は 遍豆に似て、三葉一所に着て三尖小豆の葉のごときもあり。茎葉とも毛茸ありて、七月ころ 紫赤の花を開きて紫藤花のごとし穂を成して下に垂れる。長三寸斗、莢を 結て、是 又毛あり。
冬月、根を堀りて、石盤にて打■ [■は、木+日+卩] き、汁を去り、金杵にてよく舂、細屑末となして、水飛 数度に 飽かしめ、盆に盛りて日に暴し、桶に納めて出す(和方書、是を水粉といふ)。
葛根は、薬肆に 生乾、暴乾の二品あり。
蔓は、水に浸し、皮を去り、編連ねて器とし、是を 葛簏といひて、水口に製するもの是なり。葛篭は、蔓をつらねたるの名なり。
葛布は、蔓を煮て、苧のごとく裂、紡績て織なり。詩経に 絺綌と云は、絺は 細糸、綌は太き糸にて、古 中華に織もの、今の越後縮のごときもありと見たへり。
※ 「苧」は、麻の別称。苧、カラムシ。茎から繊維をとって織物や網などに利用されていました。
クスと云は、細屑の儀にて、水粉につきて、その名にして草の本名は葛なり。フヂは 即 鞭なり。古製、是をもつて鞭むちとす。故に、号て、喪服を 葛衣といふは 葛布なればなり。
これ、蔓葉根花皮ともに、民用に益あり。故ゆへに、遠村の民は、親属 手を 携へ、山居して 堀食ひ、高く 生ひて、粉なき時は、山下に出て、これを紡績す。皆、人に益し 救ふ事、五穀に亞げり。
蕨根も亦、是に亞きて、同じく水粉とす。其 品は、賤しけれども、人の飢を 救ふにおゐてはその功用変ることなし。伯夷叔齊が首陽の山居も此によりて 生を保てり(偽物は 生麩をくわへて制し味甚隹ならず)。
此 余、葛根の功用 甚 多し。或は、餅、又、水麺に制し、白粉に和し、糊に適し、料理の ●味などさまざま人に益す。
或 書 云、葛よく毒を除くといへども、其 根土に入ること 五六寸以上を葛脰といひて、これ頭なり。これを●すれば 人に吐せしむ。
※ 「詩經」は、詩経。中国最古の詩集で、五経の一つ。
※ 「伯夷叔齊」は、殷周交代期(紀元前1100年前後)の頃の伝説上の賢人の兄弟。伯夷が兄、叔斉は弟。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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