ヒンターラント(2023年)【どうしよう。映画紹介をして帰ってきたら、何もかも変わっていたんだ】
第1次大戦後のオーストリア。
広大なオーストリア帝国は敗戦でバラバラにされてしまい、
小さな共和国となって再出発したのでした。
帝国の本土が残り続けたドイツ、日本、ロシアとは違う展開です。
捕虜収容所で過酷な経験を積んで帰ってきた主人公たちに、
祖国は冷たく感じられました。
負けて帰ってきた兵士を、喜んで迎え入れるものはいません。
上級将校は、行き場がないものは救貧院へ行け。
とにべもなく。
(この上級将校自身が明らかにうつ病)
皇帝が悪い。政府が悪い。と怒っても、できることはなく。
心も体も傷つき、
家に帰っても、家族は待っておらず、
妻はだれかと不倫した挙句に行方不明。
どうもかつての同僚と不倫したようなのですが。
前の職場にも戻れるわけでもなく。
第1次大戦後のオーストリア社会は、
うさんくさいものでした。
インフレによって経済は破綻しており、
街は共産党の組合がのし歩き、
喫茶ではジャズが鳴り響き、
警察官はアナーキズムを熱く語り、
怪しげな人物が、詐欺だのスリだのをやり、
なけなしの金を奪っていき、
警察はただ追い払うだけ。何もしてくれない。
肉体欠損した元兵士のホームレスたち、
シオニズムを唱えるユダヤ人、
何かを売りつけようとする男(これもユダヤ人?)
国家社会主義はまだ伝聞程度ですが、
パワハラ的な警察署長は相変わらず。
街は犯罪が多発し、
一緒に帰ってきた部下が死体で見つかり、
主人公が容疑者として捕まってしまう。
奥さんと不倫したかつての同僚が、
「お前、帰ってきたのか?」
格下だった彼は、今や警視正。
鼻持ちならない感じですが、
行きがかり上、主人公は昔取った杵柄で調べ始めます、
そう、主人公は元伝説の刑事だったんですね。
若い警察官で、主人公を認めようとしない若い刑事。
主人公を密かに思慕する女司法科医。
そんな傷痕社会で、犯人を捜していく刑事ドラマ。
戦後ウィーンというと「第3の男」を思いだしますが、
(あれは第2次大戦後ですけど)
こういうの、なんて言うのでしょうか?
戦後警察もの?
そういうカテゴリの作品。
クライマックスも重々しいもので、
傷痕社会をテーマにした作品として、
優れた訴求力を持っていると思います。
背景もわざとディフォルメされて、
書き割りのように歪めて描かれています。
社会と心の歪みが映像ににじみ出ている。
これは確かにミステリだ。
ミステリ、警察もの、謎解き要素、
どれも及第点で、時間を無駄にしたと感じることは、ないかと思います。
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「なんで仲間を撃つんだ!」
傷ついた兵士の叫びはその後の社会を暗示しているようですが。
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