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見慣れた近所が一変するお散歩攻略本。/『超芸術トマソン』赤瀬川源平

この自粛期間の一番の気づきと言えば、近所を歩くだけで色々な発見があるということ。具体的にいうと、トマソンが近所にこんなにも沢山あるのかとビックリしたのです。ハイ、これでほとんどの人の共感が得られなくなりました。

トマソンとは街中に潜むバグのようなもの。例えば、ビル壁の高い位置に張り付いたドアをご覧になったことはないだろうか。ドアに至るまでの階段がなく、かなりの足長おじさんでなくては入ることができない。よしんば中に入れたとしても帰る時は足場がないため文字通り必死なドア「高所タイプ」。他にもコンクリート等で潰されてしまい通行することができなくなってしまった門「無用門」や、郵便ポストや玄関が潰されてしまい、その屋根だけが残った「庇」などがある。本来の機能を失い、無用の長物となってしまった門や階段、ドアのことをトマソンと呼ぶのです。

ちなみに下の写真は最近近所で発見したトマソン。

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降りた先に何の足場もなく、引き返すことしかできず、純粋な昇降のみを強制される「純粋階段」と呼ばれるタイプ。

『超芸術トマソン』にそんなトマソンの事例が提唱者である赤瀬川源平先生の解説とともに載っている、いわば攻略本のようなものと言ってよろしい。

……と大仰に書いたけれど、トマソン自体はただの階段やドア、電信柱なのであって、それを想像力で芸術の域にまで高めてしまうバカバカしさがたまらないわけです。でもふと思うのが、緊急事態宣言が出て、外国のように刑罰を伴った外出制限はないけれど、心理的な制限でがんじがらめになっていた期間、見立てるとか、想像するとか、妄想することで、何とか今を楽しもうとする姿勢が自分たちに残されていた唯一の自由だった気もする。

かく言う自分もこの本に感化されていて、自粛期間は近所でトマソン探しにいそしんでいました。しかしトマソンを見つけたとて家族にはこのコーフンは全く理解されぬ。せっせとインスタにトマソン物件を挙げてみたが、学生時代の友人からの反応はゼロ。でも冷静になれば当たり前で、もし逆の立場で、友人がよくわからない珍スポの写真を突如インスタに投稿し始めたら、十中八九無視していただろう。フォローをはずされなかっただけ感謝しなければなるまい。

しかしSNS上には多くのトマソニアン(©赤瀬川源平)が沢山いて、彼らはコメントをくれたりしたのだ。彼らはみな優しかった。この期間、私がふさぎ込んだりすることなく、近所を散歩することで気分転換をできたのは赤瀬川源平先生のおかげと言えるかもしれない。

もっとお散歩を楽しみたい方へおススメ

①『路上観察学入門』

同じく赤瀬川源平著。トマソン以外にも、マンホールの蓋や建物のカケラ収集など、80年代路上観察シーン(そんなものあるのか?)が紹介された一冊。

ちなみに以前書いた記事はこちら↓

②『演劇クエスト・メトロポリスの秘宝』
東京都現代美術館(以下、MOT)で2019年に開催された展覧会「ひろがる地図」で展示されたいた作品。この本に記された物語の手順通りにMOT周辺を歩くというゲームブックのようなもの。清澄白河の街がRPGの世界に一変する(もちろん脳内でね)。MOTに行けば、まだ手に入るかもしれません。

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③持ち帰る音声ガイドアプリ33Tab「春風亭一之輔・山田五郎のタッグ街 – 上野さんぽ編 – 」
自粛期間中、10日間(×2)の高座配信で笑わせてくれた春風亭一之輔師匠と、アド街やぶらぶら美術館などでおなじみの山田五郎がナビゲートする、上野公園の音声ガイド。穴稲荷や上野大仏、旧博物館動物園駅など、上野公園のニッチな魅力を軽妙なトークで紹介する。TBSラジオが運営する音声ガイドアプリ33Tabから購入できます。


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